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 本当は書こうとしていることがあるのに、何故かそんな真面目な気になれない。

 今朝は人の部屋で起きて、家主は何か言葉を残して仕事に出て行った。それからまた何度寝かして、軽く掃除とゴミのまとめとを言いつけ通りにして、昨晩買っておいたコロッケパンと温かいカフェオレの朝食をとって、洗っただけでアイロンのかかっていないシャツを着て、部屋を出た。
 これまでしてきたような朝(もはや昼だったが)帰りの後ろめたさはもうない、こうして書く段にならないとそれを思い出せないほど、遠くに置いてきたような気がする。

 五日ぶりに帰って来たのでまずは部屋中の窓を開け放って換気をする。暑さにがまんがならず、途中でエアコンをつけてしまう。スパゲッティを茹でて、買っただけで隅によけていた紙袋から何冊か本を出して、食べながらぱらぱらめくってみる。期待していたほど面白くもない。クレジットカードを切っているのでそこまでもったいなくも思わない。fire stickの調子が悪くてネトフリが途中で切れる。昼寝でもしてみようかと思ったが朝寝だったので妙な熱っぽさが目ぶたが乗っているだけだ。たまらず部屋を出た。

 髪を切ったあとでスーパーマーケットの横の自転車屋に寄る。いつかこけて以来空気が抜けやすくなっている気がしていたのでそのことを言うと、問題ないといって追い返された。

 本当は鶏肉を焼いて葱でも付け合わせにと思っていたら部屋を空ける前に買っておいた生クリームの賞味期限が一昨日で、明日のぶんで控えていた鱈をあわてて登板させる。ホイルで包んで蒸焼きに。古いマッシュルームは少し匂うがもとからそんなものだろう。刻んだの生パセリをあわせてソースに。茹でた海老は玉ねぎと卵とでタルタルにした。床下に隠していたメイカーズマークの大瓶は赤い滴がはね上がってまるで遊園地の回転ブランコのように。いざ食べるときになって、重い味が重なったことに気がついた。リビングの明かりを落としてレンタルしたパルプ・フィクションを再生する。本当は書こうとしていることがあるのに、向き合うのが骨だから胃もたれのせいにしている。
 かわいそうなギャング二人がダイナーを出るのを見送ってテレビを落とす。洗い物に立つと、まな板の上でパセリがからからに乾いていた。

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