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ジプとジアの島6
『劇と現実の境界線』
リヤ「いた!」
クー「…こっちに来たら死んでやる」
盗賊バク「わかったこれ以上近づかない」
ファズ「オルゴ・デミーラよ、お前は魔王なのか?」
クー「…僕は」
リヤ・わんぱくジプ・盗賊バク・ファズ「…」
クー「僕はもう僕じゃない。」
リヤ・わんぱくジプ・盗賊バク・ファズ「…」
クー「君たちは何をしにここに来た?」
リヤ「5人で歩いた道をたどってきたんだ」
クー「5人で歩いた道…」
わんぱくジプ「また5人でここから出ないか?ここは誰でもないお前が許される場所なんだろう?」
クー「誰でもない僕?」
ファズ「この洞窟を出れば、あなたは謎の少年として世界に迎えてもらえるのではありませんか?」
クー「世界が僕を迎える…」
盗賊バク「お前は文化の王冠に傷をつけた。それは文化神ケツァルコアトルの不完全さを指摘したいが故の行為だったのではないか?」
クー「そうだ…すべてを照らさない神なんて神じゃない」
リヤ・わんぱくジプ・盗賊バク・ファズ「…」
クー「…つまり僕は照らしてほしかったんだ…バクばかりが世界に照らされているから…」
リヤ「…」
盗賊バク「お前が王冠に最も罪深き罪人の名を刻み、教会を爆破した日の夜、俺はそれに思い至った」
クー「そうか…少し遅かったね。残念かい?バク?」
盗賊バク「ああ、お前がクーでなくなってしまったのが残念でならない…」
クー「こうなる前に誰もが気付くべきなんだよ、何かが間違ってるって。バク一人が悪いわけじゃない。みんな同罪だ。ここにいる5人だけじゃない。世界中の人々が魔王を誕生させたんだ」
ファズ「…」
わんぱくジプ「魔王よ。もとはと言えば、お前は先代のジプ王子の心から生まれた存在だ。影の暮らしを変えたいと言う、前向きな思いも、現状維持を望む心からは脅威となる…お前は魔王だ…だけど間違った存在と言うこととそれは、等しいことじゃない…」
クー「…」
わんぱくジプ「決着をつけよう、1対1で」
リヤ「ジプ…」
クー「いいだろう、バク、リヤ、ファズ。お前たちは一度ここを去れ…」
バク「俺たちが去る前に聞かせろ、二人はどうやって戦い合うと言うのだ」
わんぱくジプはカードを取り出した。
リヤ「赤と青のトランプ…」
わんぱくジプ「みんな、俺は魔王との戦闘をする。信じて洞窟の外で待っててくれ」
リヤ「…わかった、君を信じる」
===
わんぱくジプ「赤が2枚、青が2枚。俺と魔王は赤と青を1枚ずつ持ち、同時にどちらかを示す。赤はザキ。青はメガンテだ」
クー「ザキとメガンテについて聴こうか」
わんぱくジプ「ザキは相手一人の息の根を止める呪文、メガンテは自分が死ぬことを代償に相手を全滅させる呪文だ」
クー「1対1じゃないか」
わんぱくジプ「そうだ。この状況で言う相手とは、世界のことだ。」
クー「魔王イコール悪じゃない、君はさっきそんなことを言った。つまり僕がこの世界を憎んでるかどうか、それを試そうという訳だね?僕の本音を露わにしようって訳だ」
わんぱくジプ「選択したカードは同時に発動したものとする。もし互いの選択が同じだったら効果は打ち消し合うものとする」
クー「一手目が同じ選択だったら、二回目も同じ結果になる。同じ意志を持つ仲間って言いたいのか?」
わんぱくジプ「そうだ。」
クー「君は僕の動機を読み解いているようだね…」
わんぱくジプ「お前は、物語の主人公が魔王を救えるかどうかに関心を持っているはずだ、主人公とは、俺であり、お前であり、リヤであり、バクであり、ファズでもある」
クー「君の定義したザキとメガンテじゃ僕と君が死ぬしかないじゃないか、それに相手が世界のことであると言うなら、光に照らされている君はメガンテを選ばない」
わんぱくジプ「つまり、俺はザキを示すだろうと予測を立ててる訳だな?」
クー「僕はメガンテを示すしかないじゃないか」
わんぱくジプ「爆薬じゃメガンテを再現することはできないぞ。爆薬で世界は壊せない、これはお前対世界の物語だ、お前はザキをと選ぶことになる」
クー「だったらザキをどうやって再現しろと言うんだ!!」
わんぱくジプ「俺の首をその手で絞めればいい、そして…」
クー「なんだ!」
わんぱくジプ「互いの選択が食い違った場合は、お前の勝ちでいい。ただし、俺が死んだ場合、お前はオルゴ・デミーラの名を捨てることを約束しろ。」
クー「選択が同じだったら仲間!食い違ったら魔王が勝利した物語が残り、魔王の名を捨てた僕にその物語の語り部になれというのか!?お前を死なせた僕に!」
わんぱくジプ「そんな物語があってもいいじゃないか」
クー「…いいだろう、お前の遊びに付き合ってやる」
クーは赤いカードと青いカードを受け取った
クー「赤はザキ…青はメガンテ…」
===
ファズ「…問題なのはいつ見に行くかです」
リヤ「ずっと待つこともできるじゃないか」
バク「ジプがクーを連れて出てくることを信じるんだ」
ファズ「クーがジプ様を殺さないという保証はありません」
リヤ「…」
バク「赤と青のトランプ…赤と青が26枚、ジョーカーが1枚…」
ファズ「一体どんな戦闘を…」
リヤ「…」
===
わんぱくジプ「あまり時間をかけてもリヤたちが戻ってくるかもしれない」
クー「・・・」「わかった示す方を決めたよ」
わんぱくジプ「よしそれじゃあせーので示そう」
クー「…うん」
わんぱくジプ「せー」
クー「の!」
クー:赤
わんぱくジプ:JOKER
クー「なんだそのカードは…」
わんぱくジプ「ジョーカーだ。示した手は違った。魔王の勝ちだ。お前にはこの物語の語り部になってもらう」
クー「仕組んだな!!」
===
ファズ「やはり私は行きます!」
リヤ「…わかったよ!」
バク「…」
===
クーがわんぱくジプの首を絞めていた
ファズ「ジプ様!」
リヤ「手を放せ!こら!」
わんぱくジプ「げほ!げほ!」
バク「見損なったぞ…オルゴ・デミーラ…」
クー「こいつが仕向けたことだ!!僕は悪くない!」
バク「お前は人を殺そうとしたんだぞ!!」
クー「僕はこいつに呪いをかけられたんだ!!こいつを殺さなきゃ僕はクーに戻れないんだ!!」
バク「儀式を企てたのはお前だ!!」
クー「!!」
わんぱくジプ「魔王よ。これを使え」
わんぱくジプは聖なるナイフを差し出した
クー「それは?…そうか!聖なるナイフか!呪いを解くのにふさわしい武器だ!!」
クーはリヤたちを振り払った
クー「遠慮なくいただくよ!!そして君には死んでもらう!!僕は僕に戻るんだ!!」
リヤ「うわあああああああ」
リヤはクーを切りつけた
クー「がは」
バク「…クー…お前の居場所があるとしたら…俺の心の中だけだ」
クーは死んだ
===
リヤ「ジプ!ジプ!」
盗賊バク「呼吸が浅い!」
ジプ「みんなと、誰かの動機を読み解く中で、少しずつ、思い出したんだ…俺は…先代のジプ王子は、父の残した試練を乗り越えて、王になった…。だけど…この時代に生まれて、もう一度同じ運命を辿ることはできない気がしてたんだ」
リヤ「どうして!もう一度王になればいいじゃないか!!」
ジプ「そうだよな…だけど…疑ったままの結果に自分でしてしまった…俺は魔王の唱えたザキで死ぬ…だから俺は…王にはなれない…」
リヤ「ジプ!ジプ!」
盗賊バク「くそ!自己暗示にかかってるのか!」
琴切れるジプ
リヤ「ジプが…」
盗賊バク「これは王子ジプが憲兵ファズを殺したように、魔王の手で王子ジプは死んだということ!」
リヤ「そうか!ジプを別の役職で蘇らせよう!ファズ!あの呪文だ!!」
ファズ「蘇生の呪文!」
リヤ「少年を愛する聖騎士ファズならジプを少年ジプとして蘇らせることができる!」
盗賊バク「首は絞められたが致命的ではなかった、心さえ生きることを強く望めば…あるいは…!」
ファズ「ジプ様!あなたに死んでもらっては困ります!脱衣所で誕生した聖騎士ファズの名において、私は蘇生の呪文を唱えます!」
リヤ・盗賊バク「…」
ファズ「ザオリク!!」
リヤ「そんな…」
盗賊バク「…奇跡は起きないのか…」
ファズ「ジプ様の魂は…王子として蘇ることを望んでいないと言うのか…!!私の中にいるのは永遠の少年である王子ジプ様です!!」
リヤ「…ならば勇者の呪文を僕が唱えてやる」
盗賊バク「勇者の呪文だと!?なんだそれは!!」
ファズ「なんでも構いません!リヤ殿!お願いします」
息を吸い込むリヤ
リヤ「じぷきみはおうじとしてしんだきみはぼくのともだちじぷだずっとずっといっしょだったこれからもそうだきみはじぷやくしょくをすててふっかつするんだきみがおうとなるべくいきるせかいのなは」
盗賊バク・ファズ「…」
わんぱくジプ「ケツァル…コアトル…」
一同「!!」
リヤ「そうだ!!君はこの世界、ケツァルコアトルの王になる少年ジプ!!僕の永遠の友達だ!!」
わんぱくジプ「リヤ…俺…生きるよ」
ファズ「ジプ様!」
盗賊バク「ジプ!」
わんぱくジプ「ファズ…俺が王になるまで、様をつけないでくれ…」
ファズ「ジプ!!愛する少年ジプよ!!」
盗賊バク「ジプ様…」
わんぱくジプ「バク…今度はお前が俺に様をつけるのか…」
リヤ「はは!ジプ!」
わんぱくジプ「クーは、どうなった…」
盗賊バク「安心してくれ。クーは俺の心に宿った、そのうち顔を出すだろう」
リヤ「お城に戻ろう…僕らの冒険は終わったんだ…」
ジプ「リヤとよく遊んだ…この枝分かれの洞窟が…ラストダンジョンだったのか…」
盗賊バク「俺が王冠を隠したのもこの洞窟だった…ここでのイベントが二回あったわけだ…」
ファズ「枝分かれした道を進み…私たちがこの結果を選んだのです…」
わんぱくジプ「5人で洞窟を出ることは…叶わなかった…」
リヤ「ねえ。教会へ寄ろうよ。みんなで…ケツァルコアトル様に、祈りをささげよう…魔王を救えなかったことを、僕は懺悔したいんだ」
ファズ「…」
===
教会の修繕を見守っていた神父が振り返る
神父「やや!」
リヤ「神父様」
神父「お戻りになられたのですね!」
わんぱくジプ「魔王はもうこの世界にいなくなったよ」
神父「倒したのですか!?」
盗賊バク「どうだろうな」
ファズ「王様とお妃さまが夢の中で聞いたというリヤの名…お妃さまはリヤなる名は竜が運んできたのだとおっしゃった。魔王は何かが間違ってることを知らせるために現れる…竜の使者だったのかもしれません」
神父「なんと!竜の使者!」
リヤ「正しい終わり方と始まり方が結ばれるまで、竜の使者は何度も生まれてしまうのかもしれない…」
わんぱくジプ「でも、その時は、みんなが何かを見つめ直そうとする物語が始まるんだ」
盗賊バク「ああ!」
神父「竜…みなさまご存知ですか?ケツァルコアトル様の名前には、羽ある蛇、という意味があるのですよ」
リヤ「羽ある、蛇?」
神父「羽ある蛇、すなわち竜。魔王も勇者も…ケツァルコアトル様がこの世に導いて生まれた存在なのかもしれませんね…世によりよき文化をもたらすために…」
わんぱくジプ「わあ!」
リヤ「もしそうだったら…なんだか救われた気持ちになれるな…」
盗賊ジプ「勇者に魔王、間違った存在なんて、いないのかもな…」
ファズ「神父様。4人で祈らせてもらえませんか」
神父「ええ、もちろん。私も祈りましょう」
4人は片膝をつき、手を重ねた
大工が金槌で釘を打ち付ける音が響く中、祈りがささげられる
神父「異質なる者を理解しようとする勇気、異質なる者を受け入れるのではなく共に歩むのだと知る理性を我らに与えたまえ。もし文化がもたらす愛が届かない心がどこかにあるのならば、その心の持ち主が誰かを傷つけてしまうこともあるやもしれません…傷つけし者は正義の使者に追い詰められるでしょう…どうかただ寂しくあっただけの異質なる者が、悪あがきをする前に…我らとその者が等しいのであると言うことを、みなで分かり合えますように…」
祈る一同「…」
===
わんぱくジプ「城が見えたぞ!」
ファズ「祈りのおかげか、すっかり元気になりましたね、ジプ。」
わんぱくジプ「父上の前では様をつけるんだぞ?ファズ!」
ファズ「わかってますとも」
盗賊バク「勇者の呪文…あれはいったい何だったんだ…?リヤ」
リヤ「勇者の呪文は」
===
リヤ「冒険を再開する呪文だ」
盗賊バク「魔王を倒す冒険は終わり、ジプが王になる物語に続いたわけか」
リヤ「うん!」
===
ファズ「ジプ。私は聖騎士の階級章を受け取るに値するのでしょうか」
わんぱくジプ「お前を理解しないやつがいたらこの俺が説き伏せてやる!」
わんぱくジプ「ああ!ファズは俺たちの聖騎士だ!!」
ファズ「ありがとう。胸を張って生きますよ、私は」
リヤはうれしそうにした
===
わんぱくジプ「リヤ。ありがとうな」
リヤ「どうして?」
わんぱくジプ「勇者の呪文に返事ができたのは、リヤが世界の名前を俺に問いかけてくれたからだ…」
リヤ「名付けたのはジプさ!!ケツァルコアトル…!!物語を紡ぐ、文化の世界だ!!」
わんぱくジプ「俺、世界の王様になんてなれるかなあ?」
リヤ「その道のりを歩むジプを、勇者の僕が守って見せるよ!」
わんぱくジプ「頼むぜ?海の民の勇者さま?」
リヤ「うん!!」
盗賊バク「俺も混ぜろ!」
リヤ・わんぱくジプ「わ!」
ファズ「はははっ」
===
肩を組む4人「はははは」
===
リヤ「ただいま…」
アルス「おかえり」
マリベル「おかえり」
リヤ「父さん!母さん!」
回想:誰にも見せたことのないような顔で優しくされた思い出
涙をこぼすリヤ「僕!僕…!」
アルス「わかってるさ」
マリベル「よくがんばったわね…!リヤ…!」
二人の胸に飛び込むリヤ「うわああああああああ」
アルス「ほんとうによくやった…」
マリベル「リヤ…愛してるわ…!」
リヤ「わあああああああ!!!」
幕
===
涙をぬぐうジア「鍵の秘密を言わなかったあの時に、家の中でお父さんとお母さんがどんな気持ちで自分に接したか、勇者を演じきったリヤには全部わかってしまったんだ…!」
ジプ「ああ…!…そしてその劇にはカーテンコールがあった」
===
カーテンコール
リヤの嗚咽が響く
それをかき消そうとするかのようなスタンディングオベーションの中で演者たちが、全員涙を浮かべて笑い互いをねぎらう抱擁をした
エド、アル、神父オルゴ・デミーラ役の青年
バク役の少年・クー
王・后・ファズ
爆破された教会の神父エキストラ
わんぱくジプ役のトラが少し泣き止んだリヤを思いきり抱き締める
リヤ「トラ!トラ!あああああ」
トラ「悲しき仮面の時代を、俺たちが終わらせたんだ!!リヤ!!」
リヤ「トラああああああああ」
喝采はやまない
ジプ「カーテンコールも…いいもんだな…!」
つづく