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ジプとジアの島3
『目を開く時』
盗賊バク「ファズ、後ろを向いてどうした」
ファズ「私は後で入らせてもらいます」
わんぱくジプ「ファズはなんか知らないけど、風呂が嫌いなんだ、俺の背中、流してくれたことは数えるくらいしかないんだぜ」
ファズ「許されるものなら毎日お流ししたいくらいです」
わんぱくジプ「だったら一緒に風呂へ入れ!これから宿屋で一緒に寝泊まりするんだぞ!これは親睦を深めるためにも必要だ!」
リヤ「そうだよファズさん!ファズさん?」
ファズ「…」
わんぱくジプ「…」
盗賊バク「なにか訳がありそうだ、ジプ」
わんぱくジプ「ファズ、お前…どうしたんだ?」
ファズ「一緒にお風呂に入ることは叶いません、そして、一緒に冒険ができるのもここまでです」
リヤ・わんぱくジプ・バク「!!」
わんぱくジプ「何を言い出すんだ!!」
リヤ「どうしてなの!?ファズさん!!」
バク「今日知り合ったばかりとは思えない絆をお前には感じているのだぞ!!ファズ!」
ファズ「それはもちろん私もです、バク殿」
わんぱくジプ「…大事な話をする時は、せめてこっちを向くんだ、ファズ」
振り返るファズ「…」
わんぱくジプ「どうして冒険を一緒にすることができなくなった?どこでそう思ったんだ?」
ファズ「オルゴ・デミーラの物語を聞き終えた時、自分が旅に同行する資格が無いように思えました」
盗賊バク「お前は憲兵!あの物語に憲兵などいなかっただろう!?」
リヤ「ファズさん、王様が僕とジプに続きを聞かせるか迷った時になんて言ったっけ?」
ファズ「どんな展開があろうと立ち向かわねばならないという思いを、口にしました」
わんぱくジプ「その思いが揺らいだというのだな?なぜだ?」
ファズ「私はオルゴ・デミーラと対決することができないのです、ですから旅に同行する資格が無いと考えました」
盗賊バク「おじけづいたのか!悪しき神父にエドとアルが戦いを挑み!勝利する物語だ!戦いの中でエドは自らの心の中にアルの信頼を失いたくない弱さを見つけた!だから最後の対決でアルは示した!涙を流した物語が嘘であることに立ち向かう強さがあることを!そのアルに敵は呪いをかけた!その呪いを解くためにエドは一瞬で呪いを解く物語を作った!覚えてるな!?裸の少年が神父から奪った聖なるナイフ!神父の心臓に聖なるナイフを刺してアルにかかった呪いをエドは解いたんだ!!」
ファズ「ええ。ええ。覚えてますとも!」
盗賊バク「何に感化されてお前はおじけづいたのだ!」
風呂の出入り口の影に王様が立っていた
観衆(ざわ)
ファズ「それは…」
わんぱくジプ・リヤ「それは!?」
ファズ「私がオルゴ・デミーラと同じ少年愛者であるということです!!」
観衆・リヤ「え?」
わんぱくジプ「そんな」
盗賊バク「お前にとっては…自分が裁きを受ける物語であったと言うのか…ファズ…!!」
ファズ「そうです!ですから私は3人とお風呂に入ることも!蘇ったオルゴ・デミーラと対決することもできません!!最終目的を果たせない者に最初から旅に同行する資格はありません!!お供できるのはここまでです!!」
王「ファズ」
わんぱくジプ・リヤ・盗賊バク「!!!」
観衆「ああ…」
ファズ「王様…!」
わんぱくジプ「父上…聞いてらしたのですか…」
王「なにをかね?」
ファズ「…」
王「何のことを言ってるのか、言えるのかファズよ?」
リヤ「…」
王「ファズ、お前のジプやリヤを見る目が、他の者と違うことに私が気づいていないと思ったか?」
一同「!!」
頭を抱えるファズ「ああああ!!!なんてことだ…私は、私は王までも欺いたつもりでいたのか!!!」
リヤ「そんな!」
ひれ伏すファズ「誰にも気づかれない思っていた!!私は愚か者です…!!」
王「ファズ。お前は無神経ではない。どうなってるかと思って見に来たのじゃ」
ファズ「王に向かって偽証を働いていた私に…もはや…」
わんぱくジプ「ファズ、少し口をつぐめ」
ファズ「ジプ様…お怒りでしょう…私は悪しき憲兵です」
わんぱくジプ「俺の話を聞け!!」
王「!!」
リヤ「ジプ…」
バク「ファズ、お前は問いかけが無い限り黙っているべきだ」
ファズ「わかりました…」
わんぱくジプ「お前は自分がオルゴ・デミーラと同じ少年愛者であると言ったな。間違いないか」
ファズ「はい」
わんぱくジプ「王の前であることを忘れてはいないな?」
ファズ「はい」
聖なるナイフを脱衣かごから取り出すわんぱくジプ
わんぱくジプ「憲兵ファズには死んでもらう」
リヤ「ジプ!!」
ファズ「はい」
リヤ「ファズさん!!」
王「…」
リヤ「王様…」
観衆「…」
わんぱくジプ「これは俺が最初に選んだ武器、聖なるナイフ。そしてこの状況、わかるか?裸のエドが神父オルゴ・デミーラを殺したのと同じ状況にある」
ファズ「はい」
わんぱくジプ「階級章を心臓の前に示せ」
ファズ「はい」
リヤ「そんな!そんな!少年愛者であるって、そんなに悪いことなの!?きっと世界のどこかには正しい少年愛者の物語が存在するよ!!」
わんぱくジプ「この世界のどこにもそんなものはない!憲兵ファズの離脱の決意はそれを知ってのことだ!!」
ファズ「その通りです」
リヤ「王様!ジプを止めて!」
王「…」
盗賊バク「リヤ。どれだけ泣き叫んでも構わない。これから起きることを受け入れよう」
リヤ「バクまで…!」
わんぱくジプ「我、王子ジプに別れを告げたいなら聞くが、ファズ、どうだ?」
ファズ「最後に私の存在意義を否定してくれるのがジプ王子なら本望です」
リヤ「う…」
わんぱくジプ「さらばだ、憲兵ファズ」
リヤ「うわああああああああああああああああああああ」
観衆「…」
ファズ「さようなら、王子…」
びしゅ
リヤ「…!」
バク「リヤ。目を開けろ。憲兵ファズは死んだ、自らを否定する心とともに」
リヤ「仲間じゃないか!!」
わんぱくジプ「リヤ、目を開けてくれ」
リヤ「ジプがファズを殺すなんて…!」
王「リヤ、目を開けるのじゃ」
リヤ「ファズのいない旅なんて嫌だ――――――!」
ファズ「目を開けてください、リヤ殿」
リヤ「え?」
ファズ「階級章は聖なるナイフが切り裂いてくれました」
リヤ「…」
ファズ「今の私は誰でもありません…」
リヤ「…」
ファズ「バク殿、私は死の国の民になろうと思います、村の長に手紙を書いてくださいませんか?」
盗賊バク「あやふやな存在よ、それは叶わない」
ファズ「なぜです」
盗賊バク「ジプの筋書きは別にあるようだ」
ファズ「え?」
わんぱくジプがニコッと笑う
リヤ「ジプ…!」
ファズ「王子…しかし、私は、どうすれば…」
わんぱくジプ「お前がパーティを離脱することは王子の俺が許さない!この冒険においてお前が憲兵では役不足と言うことだ!憲兵ファズは自らを否定する心と共に死んだ!わかるか!?お前はこれから世界のどこにもない正しき少年愛者の在り方を体現する存在となるのだ!!お前は今から…」
ファズ「…」
わんぱくジプ「聖騎士ファズだ!!」
ファズ「私が…!聖騎士…!」
リヤ(ぽかーん)
盗賊バク「勇者に王子に盗賊に、パラディン。いいじゃないか。ジプ」
わんぱくジプ「だろお!?」
リヤ「どうして、こうなるってわかったの?バク」
盗賊バク「この物語に血は流れない、ジプ王子の仕掛けてきた戦闘を思い出してな」
リヤ「僕はてっきり…」
王「ふー。何をするのかと思ったぞ、ジプ」
ファズ「王様は、認めてくださいますか」
王「よかろう、お前たちの冒険で少年愛者の正しき道を示すのだ。オルゴ・デミーラはお前の宿敵という訳だ。よいな?」
ファズ「はっ!」
王「聖騎士の階級章を作らせる。完成した時が旅立ちの時じゃ」
リヤ「はい!」
王「ファズ、恥じることなく3人の少年と風呂に入れ」
ファズ「はい!」
===
わんぱくジプ「ふー!」
リヤ「広いお風呂とはしばらくお別れかもね、ジプ」
盗賊バク「ところで二人は何才だ?」
わんぱくジプ「12才だ!」
リヤ「うん!」
盗賊バク「ファズは?」
ファズ「25歳です」
盗賊バク「俺は14だ」
リヤ「二つ年上か…」
盗賊バク「ファズ、お前は何歳くらいの少年が好きなのだ?」
ファズ「12歳から14歳くらいですね」
わんぱくジプ「喜べファズ!宿屋の風呂で俺たちの裸が見れるぞ!」
ファズ「ははは」
リヤ「ファズさん、吹っ切れてる!」
わんぱくジプ「ああ!」
盗賊ジプ「脱衣所で誕生した聖騎士ファズって訳だ」
観客(大丈夫なのだろうか…)
===
リヤ「ふー!」
盗賊バク「満腹だな」
わんぱくジプ「みんな!階級章は2、3日でできるそうだ!」
盗賊バク「そうか、俺とリヤは同じ部屋で寝ることになった」
ファズ「まさかバク殿がリヤ殿を襲ったりしないでしょうね」
盗賊バク「そうだな、リヤ。気を付けてくれ。おまえは愛らしいからな」
リヤ「もう。冗談はよしてよバク。だけど…」
わんぱくジプ「だけどなんだ?」
リヤ「僕もジプもファズが少年愛者だって気づかなかった。それは、ずーーーーーーーーっとファズの葛藤に気づいてあげられなかったってことでもあるよね」
わんぱくジプ「たしかにな…」
ファズ「何を言うのです…しかし、聖騎士の称号を王様にまで認められた今…私自身も自分を否定することは言えません。葛藤が前向きなものになったということです」
リヤ「前向きな葛藤…か…」
盗賊バク「祈りの国が性虐待の温床になっていたのは、誰も、子供に性欲を抱いてしまう者の幸福を祈らなかったってことでもある。…俺も神父オルゴ・デミーラの物語のハッピーエンドなんて想像がつかない…クーと話がしたい…」
リヤ「悪い奴は変わらない、それが生まれるのも仕方ない、そうやって諦めてしまう僕らの気持ちは、正しいのかな?」
観衆「…」
わんぱくジプ「俺が憲兵の階級章を切り裂いたのは、人間にかかった呪いを解くためだ」
リヤ「人間にかかった呪い…僕たちは今まで虚飾の平和の中で胡坐をかいてたんだ…誰かが後ろ向きの葛藤を隠しながら自分に優しくしてくれてるとも知らずに…」
ファズ「リヤ殿…」
盗賊バク「…」
わんぱくジプ「ファズ、お前はお前だ。お前のやさしさは本物だった。なのに…なにもしてやれなかった。俺が切り裂きたかったのは、無知な自分だったのかもしれない」
ファズ「ジプ様…」
盗賊バク「今日はもう遅い。反省会の続きは明日にしよう」
わんぱくジプ「うん…」
ファズ「…」
リヤ「…」
観客「…」
===
リヤ「バク…もう寝た?」
盗賊バク「まだ眠れなそうだ」
リヤ「死の国の墓守の一族の子たちは、罪人の物語ばかり聞いて育つから、影の暮らしに疑問を持たなくなるんだよね」
盗賊バク「それは先代のジプ王子の時代の話だ。罪人の魂がめぐり合うことを願い、浄化しようとする毎日は、そんなに暗いものじゃない。そして、偉人リヤと王子ジプの交わした冒険の約束もまた一族の希望になってるんだ」
リヤ「クーは、バクが光の物語の中にいるようでうらやましかったって言ってた」
盗賊バク「双子のようだと言われながら…俺が光の中にいると思っていたのなら…自分を影の存在だと思ったのだろうか…クーは…」
リヤ「オルゴ・デミーラの物語のなかに…自分を見つけたのかな…」
盗賊バク「もしそうなら…くそ…俺は葛藤を持つクーに何もしてやれなかったんだ!」
リヤ「僕とジプも、今ファズに抱いてるのはそういう気持ちなのかも」
盗賊バク「ああ…俺たちは目を開いたわけだ…」
リヤ「この開いた眼で…これからどうすべきか…明日から考えようね…バク…」
盗賊バク「ああ…おやすみ…リヤ…」
観客「…」
===
ジア「すごいテーマだ…どうなってほしいとか希望の抱き方もわからない…」
ジプ「ああ…劇を観ていて自我が崩壊するようだった…今まで安直に希望を持てる構造の物語に依存してたんだって…気づいたからな…」
つづく