陽一編バナー2

陽一編第10話「ラストアルバム」

2030年

栞「ジャケットあがったよ!」

ミカミ「見せて見せて!」

アスカ「ああ、懐かしい感じに仕上がったわね」

業「これがイメージボードだ、アルバム全体のな」

由人「宮崎駿じゃあるまいし」

アスカ「そうね、最初にキーになるシーンのイメージを絵に起こしていくのメイキングで見たことある」

業「14曲で構成しよう」

ミカミ「ファーストもそうだったね」

栞「あの時は、仕上がった曲が先にあった」

アスカ「由人の反対言葉もそうだけど、『逆にすること』ってどんな意味があるの?14年目にして聞くけど」

業「心の言葉はひっくり返ってるんだ」

栞「そう!」

由人「んなわけないだろ、目え覚ませよ二人とも」

業と栞「ぐう…」

ミカミ「寝ちゃった!」

由人「ムカつくっ」

アスカ「心の言葉…」

栞「アスカのこと、あたし嫌い」

アスカ(ズキ)「ちょっとそんなこと言わないでよお」

業「心には好きって意味で響く」

ミカミ「じゃあ好きって言ったら嫌いってことになっちゃうの?」

由人「オレはみーーーんな好き」

アスカ「…それはやな感じしないわね」

栞「ごめんね、アスカ、嫌いなんて言って」

業「心の言葉は意味だけでひっくり返るんじゃない、構文や事実関係も加味される」

栞「最終的にはフィーリング!」

アスカ「そんなのどうにでもできるじゃないのよお」

由人「おいアスカ、二人のデタラメに付き合うことなんてないよ」

業「14曲、どう配分する?って」

4人が業を見る

業「聞いてくれる奴がいないな」

一同が「あ、ほんとだ…」という顔をした

栞「…松雪、マネージャーになった日に言った」

ミカミ「全員に作詞作曲の能力があるべきだと思うんだ、だけ」

アスカ「…由人だけに作曲を任してたら、たぶん今日まで続かなかった」

ミカミ「いっつもかつかつだもんねw」

由人「オレは潤ってるけどな」

一同沈黙

栞「…由人が一番かつかつ」

業「どこで浪費してんだ?」

由人「にっくき弟がいるからな」

栞「愛礎くんの彼女の家、借金がある」

業「愛礎は自分でも頑張ってる、由人はちょっと助けてるだけさ」

アスカ「…別に華やかな暮らしするために音楽やってんじゃないわ」

業「ん?」

アスカ「忘れてない?このアルバムがリリースされるのは86年後よ」

ミカミ「どんな時代になってるかな」

業「金なんてなくなっちまえばいいのになあ」

置かれたジャケットがひっそり
===
駅員が煙草を咥えている
口は手で見えない

「のど悪くするよ?」

男の子が駅員に話しかけた

「いいんだよ」

駅員は返事をする
===
「歌うんでしょ?」

積もった雪が舞う

ここは心の投影
心象風景の世界

「吸ってみるか?」

駅員は煙の立ち上るそれをちらつかせた
===
「うん」

男の子は返事をする

そっと煙を吸い込む男の子

電車がやってきた

乗客が一人

「なんてことするんだ!」

降りてきた乗客が駅員に怒鳴った
===
「何が悪い?」

駅員が問う

「まだ子供じゃないか!」

乗客が返事をする

「俺たちは違うのか?」

積もった雪が舞う

ここは心の投影
心象風景の世界
===
二人は殴り合った

地平線に夕日が滲む

大地はひび割れるほど乾き

枯れた植物もまばらな荒野

逆光で真っ黒になった二人が殴り合っているのを

男の子は黙って見てた
===
頬へのクリーンヒット

膝蹴りのカウンターがみぞおちに入る

男の子が泣いた

ここは心の投影
心象風景の世界
===
泣き声に気づいた二人は

喧嘩をやめた

二人は男の子のもとまでやってきた

「困ったな」

片方が頭を掻く
===
男の子が泣き止んだものの

ぐすん

ぐすん

と鼻を鳴らしている

「こいつ、俺らの子供にしねえか」

男の子が「え?」っと顔をあげた

「ん~~~~~~~~~~~」
===
業「駄目だっ!」

業が諦めて紙をくしゃくしゃにした

ポイっと後ろに放り投げる

ゴミ箱には入らない

業(もう一個も書いてみるか)

===
今頃君は自分の資質に絶望してる事だろう
持って生まれた自分の一部
世界をそんな風に捉える君だからさ

君は表現者に向いてる
君の足跡は何かを描いてる
なのに振り返っても
何も見えやしない

これからのことを君は描いたのだから
===
絵の具の上を走り回れ
色とりどりの足跡で世界を飾れ
のどを震わせて
声を届けよう

いつでもここにいる
今の君へ
===
夜明けの前が一番暗いものさ
朝焼けを忘れて
今を味わえ

眠りに落ちて
救いの夢を見て
明るくなった空が
君の目を覚ます
===
自分の手のひらで踊るのは自分自身
何かを振り回したって
傷つくのは自分自身

絵の具の上を走り回れ
色とりどりの足跡で世界を飾れ
のどを震わせて
声を届けよう

いつでもここにいる
今の君へ

「ん~~~~~~~~~~~」

===

業(これは歌になりそうだな)

30歳の俺から14歳の俺へ

タイトルを記入した業が感じ入った

===
2116年6月28日(日)

リポーター「こちらはオリジナルトランプ出身地の某所にあるアナログCDショップです。事実上限定版であるアナログCDを予約した人たちで賑わっています」

店長「みんな予約してますから行列こそできませんけどほとんど途切れることなくお客さんに買われていきます!オリトラのラストアルバムが!」

客「すいませーん」

店長「あ、失礼していいですか!」

リポーター「はいありがとうございました~」

スタジオ「■■さーん、ちょっと今お会計してる方のお話窺ってもらえますかあ?」

リポーターと買った人の目が合う

リポーター「今、オリトラのCDを?」

客「はいっ」

リポーター「オリトラを聞くようになったきっかけは?」

客「じいちゃんのCDが家にあって…それから聞くようになりました」

リポーター「これが最後のアルバムだということですが」

客「いやーーーー!なんか細切れに出し続けてくれるもんだと思ってたんでさみしいし不思議な感じです」

リポーター「そうですよね…」

後ろに栄助と陽一が映る
===
リポーター「以上中継でした」

会計を済ませる栄助

栄助「陽一は買わないのか?」

陽一「俺はデジタル派!」

===
栄助のボクサーブリーフを最後に栄助の母が洗濯物を干し終えた

ご近所さん「笹原さん!おめでとう!」

塀越しにご近所さんが話しかけてきた

栄助の母「あら、どうしましたの?」

ご近所さん「オリトラのアルバムが出たじゃない!」

栄助の母「ああ(苦笑)」

ご近所さん「50年ぶりよ~?前のアルバムはあたしが女学生の頃に出て」

栄助「ええ!?お若い!」

ご近所さん「やだwwいいのよww」

栄助の母「実は」

ご近所さん「どうかしまして?」

栄助の母「半信半疑ですの、旦那が笹原愛礎の子孫だという話…」

ご近所さん「まあ…確信に至れるものってないものかしら」

栄助の母「結成されたのは100年も前ですし、これといったものが無くて…義父の出してきた家系図を見た栄助は信じてるようですけど…あたし自身はいまいち信じられなくて…」

ご近所さん「あらあ…何か出てくるといいわねえ…」

栄助「あ、こんにちは!」

ご近所さん「あらこんにちは!」

栄助「ただいま!」

栄助の母「お帰り栄助、…戸棚にお菓子買っといたわよー」

栄助「うーん!」

ご近所「あら、お昼の支度するんだったわ。笹原さん、ごきげんよう」

栄助の母「うちもですわ、ごきげんよう。」

===
小さなカステラを開封した栄助にショートメッセージ

虎太郎のアカウント「聴いたか?」

小さなカステラを食べながらメッセージを読んだ栄助

栄助のアカウント「まだ」

栄助のアカウント「これから。今買って帰ってきたとこ」

表示:虎太郎が入力中…

虎太郎のアカウント「オリトラのメンバーの誰にも子供はいなかった」

栄助「ん?…ああ」

栄助が虎太郎の言いたいことに思い至る
===
回想
老人「昔は変態が変態として扱われていてよかった。オリトラのせいで世の中みるみる変わっていった」

メモを持つ栄助がショックを受けた

メモを持つ栄助「…そうですか…ありがとうございます」

老人「君、メモは取ったのかね、君い!ごほごほっ」
===
ランドセルをしょった栄助

ゴミ捨て場に一斗缶

張り紙「回収日が違います」

思い切り蹴り上げようとしたが

蹴らなかった栄助が歩き去る後ろ姿
===
陽一「栄助に紹介する」

虎太郎「若山虎太郎、俺の名前」

小声の陽一「ご先祖さまが業なんだって!」

栄助「…」

虎太郎「業の姉のな。お前は、由人の弟の子孫だってな」

回想おわり

虎太郎のアカウント「オリトラのメンバーの誰にも子供はいなかった」

栄助(二人でしか分かち合えない思いがあるってことね…)

栄助のアカウント「そっちは聴いたの?」

虎太郎のアカウント「聴き終わった」

虎太郎のアカウント「さっき」

栄助が小さなカステラを咀嚼してる

表示:虎太郎が入力中…

===

虎太郎のアカウント「先入観を与えたくない」

注意深く見つめる栄助「…」

===

明るい顔の虎太郎(「聴き、終わっ、たら、感想、言い合おう。」と。)

虎太郎のアカウント「聴き終わったら感想言い合おう。」

読んだ栄助がふっと笑う

栄助(よかったんじゃん)

===
栄助のアカウント「わかった、今から聴く」

虎太郎のアカウント「あ、待って陽一は?」

栄助のアカウント「初見は一人で聴くってさ」
===
栄助のアカウント「買わないのについてきてくれた」

栄助のアカウント「アナログ屋まで。陽一デジタル派なんだって」

虎太郎「ふっ」(その邪魔はしないよ)

虎太郎のアカウント「そうか。またあとで」

===

ヘッドホンをしてる陽一(うおーーー!?ミカミのドラムだあああああ、あ!カスタネット入った!それからそれから?アスカってば焦らさないでよ!!え?ベースとキーボードが?ユニゾンしてるうううううううううううう!!きたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああギターだああああああ!!1曲目のタイトルが『心残り』ってそんなのないよおおおおおお)

===
業「ふっw」

エンジニアブースのアスカ「どうしたの?」

業「いや、はじまるなあって」

マイクを前にしてヘッドホンをしてる業

栞「業、リラックスしてる!」

メガネでひげづらのエンジニア「オーケー、いくよー?」

業が目をつむって歌いだした

業「明日は明日はたくさんの、歓喜の雨が降るだろう♪」

===
ブースの断面図

ブースの外の窓に面したソファにミカミが座り、口に手を当て紙を見てる

紙は3枚

===
ここだけ手書きの文字(①)

心残り
作詞作曲:由人

明日は明日はたくさんの

歓喜の雨が
降るだろう

空の窓から赤いじゅうたんが垂れてきて
君の悩みを包(くる)むだろう

やさしい色の雨が降り
心の病気を癒すだろう

分かり合えない人たちが
つっかえ棒を失くすだろう

許容量が試されて
自信を喪失するだろう

やがて心は病んでいき
てるてる坊主を逆さに吊るす

その革命はゆるやかに
行ったり来たりを繰り返す
===
(②)
明日は明日はたくさんの
赤い血の雨降るだろう
海の青さにあこがれて
たくさんたくさん降るだろう

痛みを忘れた正体が
出たい出たいともがいてる

君は悩んでしまうだろう


〈ギターソロ>
===
(③)
明日は明日は晴れ渡り
君のおうちにみんな来る

解放された性を持つ
子供たちが集うだろう

見届けたいけど
君のもの

僕は島で暮らしたい
===

ミカミ(相変わらず全然わからん…)

「ミカミ」

由人がジュースの缶を手渡した

炭酸のオレンジ

ミカミ(おれの好きなヤツ!)「サンキュー♪」

ジュースを飲むミカミ

由人が隣に座った

ミカミ「ねえ」

由人が一粒微糖のコーヒーを飲みながら、隣のミカミに視線を向ける

缶を両手で持つミカミ「由人の心残りって、何?」

缶を構えながら頬を染める由人「信じてもらえないからいい」
===
ミカミ「違う景色を観てる」

由人「いつもここにあるものしかオレには見えないよ」

ミカミ「じゃあきっと」

由人「うん」
===
ミカミ「未来ってここに在るんだね」

窓から小さめの城が見える

由人「だとしたら過去は消えるってことだ」

ミカミ「全部永遠に在るのかな」

由人「最近のミカミ」

ミカミ「ん?」
===
小悪魔な顔の由人「神がかってきてる」

ミカミ「え…」

ミカミ「剥げてきたってこと!?」

由人「違うよww」

ミカミの頭頂部の写真を撮る由人

カシャッ

由人「ほら」

ロング
ミカミ「びっくりしたああ」

由人「ははは」
===
陽一「ドラムやべえええええええええ!!ミカミイイイイイイイイイイイイイイイイイ好きだああああああああああああああああ」

二階から陽一の絶叫聞こえる

陽一の父「はしゃいでるなあw」

苦笑しながらブランデーのグラスを傾ける陽一の父

陽一の母「ええw」

肘をついてる陽一の母
===

業「僕は島で♪」

エンジニアブースのスピーカー「暮らしたい♪」

アスカ「…いい曲。何言ってるか分かんないけど」

栞「由人の詩、いつもそう!」

アスカ「そうねw」

(栞に言うべきことがある)

エンジニアはヘッドホンをして作業してる

漏れる音

栞の方を見るアスカ

栞の斜め顔

栞と目が合う

アスカが言葉を探す
===
アスカ「常本先生元気かなあ」

(違う)
===
栞「きっと元気だよ」

アスカ「…違う訳ないわ」

つづく