ジプとジアの島8(終)
『自ら禁じた純真』
ジプ「ジーが引退を考え出したのか、王位継承が知れ渡ったある日、彼は子供を連れて王の間に現れた」
ジア「そうか…新しい神官も育てていかないとだめなんだ」
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ジプ「あれ以来、すっかりもう一人のバクが現れなくなったな?」
バク「いなくなったわけではありません。自分が必要と感じたらばいつでも顔を出すでしょう…ん?」
ジプ「ジー、その者は?」
シズ「あら…その子は」
ジー「この子には神官の資質があるようにおもいましての。ほら、ご挨拶するのじゃ」
少年「ガネといいます」
ジプ「ジーのお眼鏡にかなったのは、なぜかな?」
ガネ「シズ様の歌うわらべ歌を、すべて覚えております…歌えはしませんが…」
少年「ほう…シズのわらべ歌はこの国の歴史。まだこの国がジェイとパナという二つの国であった頃の歴史からすべて暗記しているというのか」
ガネ「はい…」
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ジプ「ガネは許可を求めてから、静かにわらべ歌の内容を語りだした…」
ジア「うん…」
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ジプ「懐かしい…小さなころに何度も聞かされた内容だ…」
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ジプ「シズの様子がおかしいことに、その時はまだ気づいていなかった」
ジア「…」
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ガネ「文化を愛するジェイの王、パナの城にて劇をせり。パナの王は軍を置き、攻め入らんと、劇を観る。ジェイの王はケツァル王。パナの王はコアトル王。劇の中からケツァル王、コアトル王へ呼びかけた。血を流すのはおしまいだ。私は文化を信じてる。コアトル王は席を去り、ジェイはおしまい、神官嘆く、劇ともつかぬ、言葉を聞いて、ケツァル王は幕下ろす。再び開いた幕の中、コアトル王が民に言う。我らは三位一体だ。民の血などは流させない。精神性を競う時代、これはまさしく神の意志。」
ジプ「ああ。そうだ…まさしくジェイとパナが一つになるのを目前にした時のことだ…」
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ガネ「唯一神の仲良くする話。コアトル王が、王子と描く。パナの神のエニグマは、人の心に潜みけり。ジェイの神のカルマズは、天に昇り、人信ず。コアトル王とケツァル王、舞台の上で神の意志、王の言葉で表した。ジェイとパナは一つになった。その国の名は、ケツァルコアトル。」
ジプ「…つづけてくれ、ガネ」
シズ「…」
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ガネ「三つ目の劇、男の后。コアトル王は、母になり、王子を託して旅立った。ケツァル王は王子をば、我が子であると決意した。旅立ちの日に備える王。三つの鍵は民の中。やがて王は旅立った。あと追う神官あとたたず。残った神官、鍵探し、互いを信じ王子を信じ。」
ジプ「…次で最後か…」
シズ「…」
ガネ「やがて鍵は文化となる。王子は王に即位した。荒れ狂う波。文化の嵐。王は混沌、治めんとする…」
ジプ「ガネ…よく覚えた。誉めて遣わす。」
ガネ「み、身に余るお言葉にございます…」
ジプ「これが今日までの歴史…そうかジー…ここから始まるのは新時代という訳だな…」
ジー「ジプ王様、最後に一つ気になる歌が…」
シズ「!ガネ!」
ガネ「シズ様!ごめんなさい!」
ジプ「なんだシズ?血相を変えて」
シズ「…」
ガネ「秘密の歌が、あるのです」
シズ「ガネ!王にお聞かせするようなものではないでしょう!?」
ジー「わしはそうは思わん」
シズ「ジー!何を言うの!」
ジプ「…どんな代物か、一聴の価値があるようだな」
ガネ「人に化けたジェイの神…」
シズ「やめなさい!」
ガネ「ひ!」
ジプ「…」
マハ「尋常じゃないな、シズ」
シズ「戯れに作った歌です…」
マハ「まさか…シズは未来を見たのか?」
ジプ「ほう…しかしそれは本当に訪れる未来かどうかわからない…シズが慎重になるのも頷けるな」
闇バク「戯れに作ったと言ったな?ジェイの神まで持ち出してこの国の未来を戯れに歌ったというのか!?」
ジプ(こんなときに闇バクかよ!)
シズ「そ、それは…」
闇バク「お前は神官と巫女の両の座を得たいのかもしれないが、不確定な情報でジプ様を惑わそうと言うなら容赦しないぞ!」
ジプ「…」
===
ジア「あらら」
ジプ「俺の方は俺の方で、王子の頃のように柔和に場を収めることもできない立場になっていた、影でマハが忠告してくれたんだ、純真さを見せればそれに付け入り増長する者が現れかねない、と…」
ジア「王様って大変だね…」
ジプ「まったくだ、王冠探しはほんとに最後の戯れだったんだ」
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シズ「…では、バク、どうすべき?」
闇バク「ふ、居直る気か」
ジプ「シズに質問だ」
シズ「は、ジプ王様」
ジプ「お前はいかにしてその歌を編んだ?マハの黒魔導とはまた異質なものか?」
シズ「王のお役に立ちたく…その願いがありもしない未来の妄想を生んでしまったのかもしれません…子供に聴かせてしまったのが間違いでした」
ジプ「そうか…抜きん出たい気持ちが一人子であった私にはわからぬ。シーよ、シズの役に立ちたいという願いは邪なものであるとお前は感じたか?」
シー「それは…わかりません。私の方に同じ思いが無いとも言えないからです」
ジプ「…」
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ジア「あのシーがなんて弱気に…」
ジプ「ああ…矛先がジーに向いたらおしまいだと思った」
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闇バク「ジーよ。お前はなぜこの子供を連れてきた?神官の候補だとしても若すぎる、いたずらに混乱をもたらすお前でもあるまい」
ジー「わしとてもう長くない。後釜を据えたかっただけじゃ」
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ジア「長期的な目で見た利をみんなに運んだジー…」
ジプ「ああ。マハを頼ってもバランスが崩れる、むずかしかったな…」
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ジプ「しかし」
一同がジプ王の方を見る
ジプ「未来の情報、これは確かに危険な代物だ。王と神官がこれをどう対処するか。いい機会だ。皆で方針を決めよう」
マハ「ええ、それがよさそうです」
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ジア「なるほど。未来の情報が耳に届いた経緯でみんながもめてたから、どう扱うかに視点をシフトした。なんだか王様らしくなってきたね、ジプ」
ジプ「よせよジア。…神官たちの自信と結束を再構築するにはちょうどいい気もしたんだ…で、アウト、というものを使った占いの類は禁止することが決まった」
ジア「アウト…」
ジプ「悪い未来の情報が提示される時、必ず回避方法が示される。外れたときはこの回避方法が実践されたと解釈させることで未来の情報を提示した側は信用を保つわけだ」
ジア「なるほど、いい未来の情報を提示する時は、油断してさらなる精進を怠ってはなりませんって具合か」
ジプ「そう、悪い未来の回避といい未来の実現に具体的な行動が伴っていないことがポイントだ、情報を提示された側の心に当たり外れの責任をなすりつけることをアウトと定義した」
===
シー「シズの歌にアウトはあったのか?」
シズ「そう言われると…無いように思うわ。ジー、どうかしら」
ジー「ふむ、たしかに」
マハ「ではガネ、心の用意を」
ガネ「はい」
マハ「ジプ様」
ジプ「うむ、ガネ。声に出してみるのだ」
ガネ「はい。…人に化けたジェイの神。行商人になりすまし、王に取引持ちかける。3枚の札、使う儀を、拒むことには、慎重であれ。やがて文化の物語。夢の外へと霧散せり。」
ジプ「…それで全部だな?」
ガネ「はい」
ジプ「シズ、どうだ?」
シズ「私が歌ったままです」
ジプ「ガネ。これはいいものとも悪いものとも言い切れないものだ。口を滑らせないようにするのだ」
ガネ「はい」
マハ「ガネ。よく遊び、よく学ぶのですよ」
ガネ「はい!では…失礼させていただきます…」
ジー「見送ってきます」
===
ジア「夢の外へ霧散せり…終わりが近いってことか」
ジプ「そこからはじまったのは王としての厳かな日々だった…誰を支持して、誰をいさめるか。示される選択肢、押しつぶされそうなプレッシャー、それを支えたのは王冠探しの思い出…」
ジア「そっか…」
ジプ「偉大なる先代の二人の王を汚さないようにと結束し、日々懸命に暮らしていた」
===
神官ジー「とするのが折衷案かと」
神官シー「ほう…!」
ジプ(シーのフィルターを通った!)「うむ、ジー。よくまとめてくれた」(今日は静かに終わりそうだ…)(ジーへ橋を渡したのが正解だったようだ、マハ)
神官マハがやさしく微笑んだ
「閑話休題のようですなあ」
ある日、どこからともなく行商人が王の間に現れた
「行商人の業と申します」
その行商人は売りたいものがあると言った
ジア「業…先々代のこの島の神の名だ」
ジプ「ああ。島の神を全うしたあとは、因果の神として働いているらしい」
ジア「業は因果の神でありながら、行商人に化けてジプの前に現れた…未来の情報は正しかったわけか…いったい何を持ってきてたの?」
ジプ「ゲーム、あの行商人はゲームを持ってきやがった」
ジア「古代のゲームって、遊ぶためって言うよりも儀式的な意味合いが強かったんでしょ?」
ジプ「うん…行商人は口が軽い。神官たちは儀式の道具を拒むのに慎重になった。シズの歌のこともあったしな。俺はゲームの内容を尋ねた」
===
業「使うのはこの3枚のカード。ラー、オシリス、オベリスク」
一同(3枚のカード!)
ジプ「太陽神、天空神、そして上なる巨人、か。使うのはそれだけか?」
業「左様。故にルールもシンプルです」
ジプ「聞こうか」
業「王はオベリスクを使い、神官はラーとオシリスの2枚を使う」
ジプ「なるほど。王専用のゲームという訳だな。誰が考えた?」
業「私です。ラーは太陽神、世の全てを分け隔てなく照らそうとする、つまり民(たみ)のために存在する竜です」
ジプ「竜か、なぜ太陽神が竜なのだ?」
業「竜は太陽神のラーだけではございません。オシリスもまた竜。天空をつかさどる竜がオシリスです」
ジプ「オシリスは何のために存在する?」
業「神官のために在るのがオシリスです、民を象徴にしたラーに対し、オシリスは官を象徴としております。民に平安をもたらそうとしているのが官です、それは上位の存在でなければならない、故に天空に座す竜こそオシリス」
ジプ「太陽と天空…どちらが上位とも言えない関係にある2匹の竜…さしずめオベリスクがその2匹が仲たがいせぬように間を取り持っている、そんなところか」
業「ご明察にございます。上なる巨人であるオベリスクは、まさに王の立場と同じ関係にある」
ジプ「背景はわかった。」
玉座の階段を降りる王
階段を下りているジプ「して、ルールは?」
業「先手の神官はまずラーを縦か横の向きで場に置く、これは民の感情が革新を求めているか、現状維持を望んでいるかを示します。神官にはもう一手を示してもらう。オシリスをカード1枚分、離して場に置き、それも縦か横で示される。そして後攻の王の番になる。オベリスクを、ラーとオシリスのどちらか一方の側、あるいはどちらでもない中央に置くことができます。オベリスクの向きは問わない」
ジプ「神官が示せるパターンは4種類であるのに対し、王が示せるのは3択のうちのどれか。それも、どちらの意を汲むかを単刀直入に示すわけか」(せめて縦か横かを示せれば橋か壁かを表現できるものを)
業「神官が示したラーとオシリスは戦い合います。オベリスクに味方をされた方が勝ちとなりますが」
ジプ「中央にオベリスクを置いた場合はどうやって2匹の竜の勝敗を決める?」
業「やってみるのが早いかと」
ジプ「このゲームに呪術的な要素はあるのか?」
業「王に失うものなどありません」
ジプ「その言葉、信じよう」
===
業「では、ラーとオシリスを縦にして場に出します。オシリスの攻撃力は1000x、ラーの攻撃力はy」
ジプ「xとyに代入される値はどうやって算出する?」
業「xは、死する神官の人数。yは死する民の人数。」
神官たちがどよめいた
ジプ「呪術的な要素は無いとお前は言ったはずだ、騙したのか?」
業「神官の死、民の死。それらは王の損失と言えるかどうか」
ジプ「なんだと」
業「王は冷徹でなくてはならない。しかし人としての情もある。あんたの葛藤を可視化するゲームって訳さ、王さま」
ジプ「貴様」
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ジア「ひどい」
===
シーが行商人の羽付き帽子を奪い、テーブルにナイフで突き刺した
神官シー「これは警告だ」
行商人はシーに微笑んだ
神官「!」(妖艶な…!こいつ…ほんとに男か…!?)
業「ルールを説明するのも儀の一部、邪魔をしたらばお前の命と釣り合わせるために1000人の民が死ぬぞ?」
===
ジプ「たじろいだシーから俺の方へ目を移し、これを買うか、買わないか。それを奴は問うてきた」
===
業「お題は不要。受け取るか受け取らないか。それもまた表現。俺は蒔かれた種に見合う花を咲かせるためにここ来た」
ジプ「このゲームが花だというのか!」
業「そうさ?この国の歴史はいわば茎や葉、花の咲く時間になったってことを知らせるために若き王が生まれた。花が実を結ぶかどうか。それは重要な事じゃない。この国が滅ぼうともそんなのは矮小なことだ。」
神官が行商人を取り囲み、剣を突きつけた。
業「官も民も、そして王であるあんたも、これからの全てが原因に対する必然の結果であると悟る必要がある」
ジプ「業、行商人のお前がなぜそんな神官のようなことを言う?」
業「俺が、業そのものだからさ。ジプ、時代は移ろいゆく。限られた者だけが持っていた自由意志を、多くの民が持つような時代が来る。」
ジプ「自由意志?上なる存在に隷属することこそ人の喜びだ!」
神官たち(王…!)(そう、我々は国の歴史に隷属する人間にすぎない)(しかしそれが喜びであるとは!)(間違いなくあなたは国の指導者たる資質を宿した!)
業「上なる存在への隷属こそ人の喜び、か。その構造は、変わらないだろう。人は自由を求めながら大いなる存在からの承認を求める。何が大いなる存在であるか、それが多様化していくのさ。ある者は神へ、ある者は王へ、ある者は家族へ、ある者は仲間へ、自らの存在意義の承認を求めるだろう。それはこの国が持っていた衆望が分散することを意味する。」
ジプ「なぜそんなことが起こると言える?」
業「開かれた文化の力で、心の影が強まっている。人は自覚しそうになる影の愛し方を知らずに、他者を自分の影であるとみなす。そして影を消したいと思ったものは他者を殺め、影に取って代わられることを恐れたものが他者より優位に立とうとする」
ジプ「何が言いたい?」
業「お前の座する王政も、先人の影に対する恐怖が作り出したものにすぎないってことさ。」
ジプ「心の影とは何のことだ?」
業「知りたいか?」
ジプ「教えろ」
業「身をもって知るしかない」
===
ジプ「託すような眼であいつは俺を見た。そこでその時代の夢は終わり」
ジア「え?」
ジプ「うん、今ので終わり」
ジア「…。」
ジプ「夢だからな」
ジア「えーーーーー!行商人に化けてた因果の神はどうなったの!?」
ジプ「さあな」
ジア「せっかくここまで聞いたのに…別の時代の夢に続くんだっけ」
ジプ「うん、なんかその時代には恋愛をゲームとして楽しむ風習があった」
ジア「さっきまでと全然関係ないじゃん…」
ジプ「まあ聞いてくれよ」
ジア「うん…」
ジプ「古代の俺は14才で、近代の俺は16才だった。俺はたいして好きでもない女の子達と、たくさんゲームをした。ふ、なんかベッドの上でカードを渡すとゲーム終了になるんだ。男はカードを減らすことが楽しくて、女はカードが増えていくのが楽しい。そんな世界だった。」
ジア「はー…。ゲームの様相が変わったわけね…」
ジプ「そんな中にほんとに好きな女の子がいたんだ」
ジア「どんな子?」
ジプ「自信にあふれてて、夢を持ってて、努力してる、幼なじみ」
ジア「幼なじみ、か」
ジプ「俺は王だった頃のプレッシャーから解き放たれたんだからと思って、どんな女の子とも真剣にゲームをしてた。」
===
少女「あなたが愛してくれないなら、あたし、死ぬわ!?」
===
ジプ「動機を読み解く海の民の勇者の物語を見てたし、神官たちに示された選択肢に比べたら、1対1のどんなゲームも手玉に取るようだった。だけど」
ジア「だけど」
ジプ「幼なじみのその子と恋愛ゲームをする勇気が無かったんだ」
ジア「…」
ジプ「そんな自分から逃げるように小2の頃から8年間も没頭してるパズルがあった」
ジア「え?パズル?」
ジプ「うん。そのパズルを解いた者には、純真の力が宿ると言われていた」
ジア「純真の力…」
ジプ「マハの忠告を受けてからの自己認識が抜けなかった、だからそのパズルに願い続けたんだ。強さの仮面をはいだ自分になりたいって」
ジア「パズル、解けたの?」
ジプ「ある日、幼なじみの子に遊園地でのデートに誘われた。恋愛ゲームに誘われた訳だ。なのに、俺はその子に冷たく当たってしまった。」
===
■■「まだそんなガキの行くようなところへ行きたいのか?俺と行ってどうするって言うんだ。遊園地なんてごめんだね」
幼なじみ「…」
===
ジア「本心でそうしたの?」
ジプ「ううん。夢の中で、その子のこと、大好きだった。なのに表現できなくて。俺、また泣きながらパズル解いてたんだ。そしたらパズルが組みあがった」
ジア「…何が起きた?」
ジプ「記憶が無くなった。気が付くと目の前にあの子がいて、約束だよ!って言うんだ。」
ジア「記憶が無い間に、何が起きたのかな」
ジプ「冷たくしたこと謝って、自分の方から遊園地に行こうって誘い直したらしい」
ジア「純真になれたわけだ」
===
幼なじみ「■■…いいのよ、たまには童心に帰るのもいいかなって、ちょっと思っただけなんだから。」
???「■■!さっきはごめん!」
幼なじみ「え?」
???「俺、恥ずかしかったんだ!ほんとは■■のこと、ずっと大好きで、その気持ちと向き合わなくていいように…そこいらの子に、カード渡してたんだ!■■とゲームをするのが恐かったんだ!」
幼なじみ「■■…どうしたの?やだ、からかってるなら聞かなかったことにしてあげるわよ?大好きだなんて、あんたが言うはずないもんね」
???「違う!本心だ!ずっとこの気持ちを表現できずにいたんだ!!俺は…自分のイメージが壊れるのが恐かったんだ…」
幼なじみ「■■…」
???「さっきは断っちゃったから、今度は俺の方から誘う。次の日曜、ケツァル遊園地に行こう、俺と■■の二人で!」
幼なじみ「…」
???「駄目かな…」
杏子「約束だよ!」
===
ジア「あれ…?」
ジプ「パズルを解いたから、願いが叶ったって、最初はそう思った。だけど肝心な場面での記憶が無くて、しだいに怖くなった」
ジア「わかるな、それ」
ジプ「行商人の業の言葉を思い出した」
ジア「身をもって知るしかない」
ジプ「心の影って、自分じゃない自分を内包することだったのかって思った、仮面をはいだ自分になりたいだなんて、パズルになんてことを願っていたんだろうって」
ジア「…」
ジプ「おまけに一番苦しかったのは、幼なじみの子が好きなのは俺じゃなく、もう一人の純真の俺なんじゃないかって疑念が沸いたこと。」
ジア「…わかりあえたのかな」
ジプ「展開があった。気が付くと部屋の中にいた。そこは心の部屋だってわかった。ああ、俺は今記憶を失くしてる最中なんだって、なんとなくわかった。パズルの中に眠ってた純真が交代してくれて、あの子と素直に接してるんだって」
ジア「うん」
ジプ「何かが原因で俺は純真の自分を恐れなくなった、その子も、友達も、俺の2重の心のことを知っても、いなくなったりしない。自分は仮面ではなく自分。そう思ったら純真の自分に会ってみたいと思うようになったんだ」
ジア「会えた?」
ジプ「夢のクライマックスで会えたんだけど」
ジア「うん」
ジプ「純真の自分に対して、今は君を、死者としか定義できない。そう言って彼を封印した。純真の自分がいなくなっても俺は前より素直でいられるようになった…」
ジア「おんなじだ」
ジプ「え?」
ジア「僕も夢を見たんだ、パズルを解いたらもう一人の自分が心の中に宿って、弱気だった僕のピンチにはいつも彼が現れてくれた」
ジプ「へえ」
ジア「でもその間記憶が無くて、何が起きてるのか少しずつ分かっていった、僕ももう一人の自分をみんなに知られることが恐くなった」
ジプ「弱気な自分に宿ったもう一人の自分、か」
ジア「僕も仲間を信じることができたとき、もう一人の自分を知られても構わないって思った。」
ジプ「そっちは会えたのか?」
ジア「会えたけど、僕の方もまた彼を封印しちゃったんだ、現世は君のいるべき場所じゃないって」
ジプ「心の影を人格として迎えることができなかった時代…」
ジア「うん…」
ジプ「もう一人の俺、ホントに純真で、いつも人を引き付けてた」
ジア「もう一人の僕は、すごくゲームが強くて、かっこよかったな」
ジプ「俺の心の影って、お前だったのかな、ジア」
ジア「じゃあ、僕の心の影って、君だったのかな、アテ…」
ジプがジアをにらむ
ジア「え、ATMはどこかな~~ジプ~~~?」
ジプ「…開かれた文化の力で、人の心の影が強まっている」
ジア「人は自覚しそうな影の愛し方を知らずに、他人を傷つけたり他人より偉くなったりしようとする」
ジプ「王になった俺が自分に禁じた純真はお前」
ジア「僕が持ちたかった強さは君」
ジプ「お互いがお互いの心の影として、存在してたとしたら」
ジア「僕らは影の愛し方を実践してたんじゃないかな」
ジプ「今こうして、純真のお前が目の前にいる」
ジア「僕の目の前には目標だった君がいる…この島は僕らが二人きりになれる、休憩所なのかな」
ジプ「自分を仮面だと思ったり、お前の方は自分を気の弱い奴と思ったりしてたけどさ」
ジア「誰かの心の中に宿った影の方こそ、存在の本質なのかな」
ジプ「人の主観こそ影であるって言うのか?」
ジア「2人称や3人称で捉えられた自分も含めて完結するのが、人間なんじゃないかな」
ジプ「みんなが自分の影を愛せるようになるにはどうしたらいい?」
ジア「物語が必要なんだ、影として生きて、影を愛する物語が」
ジプ「純真のお前が気の弱い自分を演じることで、俺はお前の人生の中でゲームの王を演じることができた」
ジア「ゲームの王の君が、自分は強さの仮面をかぶった存在だと信じ込む役を演じたことで、僕は君の人生の中で純真を演じることができた」
ジプ「世の中は片方の物語で全てが終わったことになる」
ジア「裏返った物語を空想する力を、みんなが持とうとしてくれたらうれしいな」
ジプ「そこに登場するのが、理想の自分って訳だ」
ジア「心の影、それは心の底に潜ったパナの神、エニグマ」
ジプ「さまざまな世界のどこかにいる、誰かの理想を、人はエニグマとして内包してる」
ジア「その姿を、人の主観は脅威と感じる、だけど僕らには自由がある。心の影であるエニグマ…それを抑圧するか、愛するか。」
ジプ「俺らはお互いに自分が内包したエニグマを愛することができたから、世界の狭間にあるこの島で一緒になれたんじゃないか?」
ジア「うん!そうだったらいいな!」
ジプ「きっとそうさ、相棒」
砂浜の二人の後ろに、小さなピラミッドの形をしたパズルがたたずんで、夕日を浴びていた。
おわり