ジプとジアの島4
『一番暗い夜明け前、からの朝』
王と妃と王子が朝食を食べている
わんぱくジプ「ところで父上、王墓に封印されていたという不吉な物語を、父上はご存じなのですか?」
王様「む、それは…」
后「うふふ」
わんぱくジプ「どうしたのですか?母上」
王様「これ、おかしなことを言うでないぞ」
后「いいじゃないですか、私が后となった理由とも関係があるんですもの」
わんぱくジプ「母上が后になった理由!?」
王様「ええい!こうなったらジプはテコでも動かん!好きに話すがよい!」
王が席を立った
わんぱくジプ「母上!聞かせてください!」
王様「あなたの父である王にも王子だった頃がある、それは想像できるかしら?」
わんぱくジプ「父上が王子だった頃…」
后「町娘だった私はある日王子の秘密を知ってしまったの」
わんぱくジプ「父上の秘密!?」
后「ふふふ。人気のない道を歩いていたら、メラ!メラ!と声がするの。何かしらと思ってその声のする方をそっと覗いてみたら…」
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ジミ王子「メラ!メラ!」
町娘「…」
ジミ王子「やっぱりだめか…ん?」
町娘「!」
ジミ王子「誰だ!?」
町娘「お、王子…」
ジミ王子「お前…見ていたのか!?」
町娘「も、申し訳ございません!」
ジミ王子「…誰にも話すでないぞ」
町娘「誰にも言いません。でも、何をなさっていたのですか?」
ジミ王子「…魔法の練習をしていたのだ」
町娘「魔法でございますか?」
ジミ王子「ケツァルコアトル様の王墓に眠っていた禁断の魔法が本物かどうか、確かめていたのだ」
町娘「それが…メラ…でございますか?」
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后「ジミ王子は顔を真っ赤にして走り去ってしまったの…それがわたしとジミ王子の出会い…」
わんぱくジプ「…。それで、禁断の魔法とは何です?」
后「わたしもそれが気になって仕方なかった。だけど私はしがない町娘…禁断の魔法が何なのか問うことなど叶うはずもなかった」
わんぱくジプ「…」
后「それからしばらくしたある日、私はお城のパーティーに招待されてしまったの」
わんぱくジプ「父上も母上のことを探していたんだ!」
后「ええ…身に余る光栄だったわ…星の見えるバルコニーでジミ王子と二人きりになった…」
わんぱく王子「それからそれから!?」
后「私はついに聞いてしまった」
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町娘「王子様…メラとは何でございますか?」
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后「ジミ王子はうつむいてしまわれた…そして勇気を振り絞るように…」
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ジミ王子「君が将来、僕のお妃さまになってくれるなら話そう」
町娘「…」「町娘にすぎない私が后だなんて…王族の権威はどうなってしまうのです」
ジミ王子「はっきりしてくれ!メラが何か知りたいか!知りたくないか!」
町娘「…教えてください、王子」
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頬を染めるわんぱくジプ
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ジミ王子「メラとは…指先に灯した小さな火の玉を敵1体にぶつける…炎の魔法だ…」
町娘「あの時…木を指さしていたのではなく…木に火の玉をぶつけようとしていたのですね…やっと謎が解けました…」
ジミ王子「そうか…たしかにそのように見えたかもしれぬ…」
町娘「禁断の魔法はメラだけですの?」
ジミ王子「他にもたくさんあった、今度二人で王墓を見に行こう」
町娘「はい…」
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后「王墓は国の歴史の縮図、それを二人きりで見に行ったものだから、これは真剣恋愛だ、と城の中で噂が立ったらしいわ。ほんとは禁断の魔法を見に行ってたのにね」
わんぱくジプ「へー!でも、王墓はバクが使命のためやむなく傷つけてしまいました…僕がその呪文を知るすべはありませんね…」
后「いいえ?あなたが望むなら私が覚えてる呪文をすべて話すわ?」
わんぱくジプ「本当ですか!母上!?」
后「もちろんよ。」
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わんぱくジプ「という訳で母上が教えてくださった呪文の一覧がこれだ!!」
リヤ「うわー!いっぱいある!」
盗賊バク「ほう、興味深いな」
ファズ「しかし、王様はきっと王子であられた頃にこれが本物か全部試したはずです」
盗賊バク「確かに」
リヤ「えー使うことはできないのかあ」
わんぱくジプ「いいじゃないかファズ!これは冒険の気分を鼓舞させる俺たちの魔法!物語は魔法だと父上はおっしゃった!」
ファズ「そうですね、窮地を打開するアイデアとなる可能性は否定できません」
わんぱくジプ「メラはメラミ、メラゾーマって上位の呪文もあるんだぜ!」
リヤ「へー!あ!これ便利!行ったことのある町や城などへ一瞬で移動できる呪文!ルーラ!」
盗賊バク「おもしろいな。死亡している者を確実に生き返らせる蘇生の呪文、ザオリク」
ファズ「おぞましい呪文もありますね」
盗賊バク「どれどれ?相手一人の息の根を止める呪文…ザキ…」
ファズ「自らの命と引き換えに相手を全滅させる呪文…メガンテ…」
盗賊バク「これは確かに不吉と言われても仕方ない代物だな」
ファズ「一体どうやって先代のジプ王子はこの呪文を知ったのでしょう?」
盗賊バク「そういえば先代のジプ王子が話してくれたことがある、もしこの世界以外にも世界があって、それぞれが異なる性質を持っていたらば…」
ファズ「それぞれの世界の法則が違うのならば、これらの魔法が実在する世界も無いとは言えないということですね」
リヤ「ところで、今日はどうする?」
わんぱくジプ「聖騎士の階級章が完成するまでは聞き込みを徹底しよう、宿屋の行商人の中にクーの足取りを知る人がいるかもしれない」
盗賊バク「あいつは人が罪人になる道を熟知している。名をオルゴ・デミーラと改めた今、自分が魔王になったつもりでいるはずだ。近くの町で騒動が起きようとしてる最中なのかもしれないが…王様が聖騎士の階級章ができた時が旅立ちの時と明言された以上それには逆らえない」
ファズ「状況を前向きに捉えましょう、できることを考えるのです」
わんぱくジプ「俺たちにできるのはこの国ケツァルコアトルと海の民の村ドラクエを往復することぐらいなわけだ」
盗賊バク「そうだ!リヤ、お前は森の中で俺に言ったことを覚えてるか?」
リヤ「森で?いろいろ言ったからどれか分かんないよ」
盗賊バク「僕は海の民の子、海にお前の逃げ場はないと思え!ああ言ったが実際にそんなことは可能か?」
リヤ「うーん、船にバクとそっくりなクーがいたら食い止めるよう頼むくらいならできるかな」
盗賊バク「ふむ…」
わんぱくジプ「仮に南はそうするとしても、他の方角はどうする?」
ファズ「方角…広大な舞台の上でどう動くか…この考え方でクーにたどり着くには人員が足りないように思います」
リヤ「クーの心を読み解こうと試みるのはどうかな?思えばジプが盗賊は真実を知ってると目星をつけて僕らは出会ったんだから」
ファズ「しかし森に潜んでいるとは思いませんでしたよ私は」
盗賊バク「…クーの好きな物語から動向を探ろうって訳だな」
ファズ「となるとそれは言わずもがな、罪人オルゴ・デミーラの物語ということになります」
盗賊バク「…やつが祈りの国で復讐劇を始めると?」
わんぱくジプ「それはわからないぜ、悪しき神父に感情移入してオルゴ・デミーラになったかは定かじゃない」
盗賊バク「どういうことだ?」
わんぱくジプ「あの物語は子供に聴かせられるように脚色されたものだろう?主人公はオルゴ・デミーラではなくエドとアルだ」
リヤ「なるほど…」
盗賊バク「エドとアルに感情移入しておきながら対立したオルゴ・デミーラを名乗る…どういう心理だ?」
ファズ「感情移入したのではなく、感情移入させられたと感じたのでは?」
わんぱくジプ「それ!何かがつながりそうだ!」
リヤ「僕もジプも、エドに負けてほしくないと思って聞いてた、だけどそのあと、ファズの告白を聞いて…」
わんぱくジプ「勧善懲悪に疑いを持ったわけだ」
ファズ「結果、悪とされていた資質の持ち主である私には聖騎士の称号が与えられた」
盗賊バク「世界が自分を否定してると感じたならば、否定される側にとっては世界の方が戦う対象になることを俺たちは知った」
リヤ「世界と戦って、自分も善であると認めてもらおうとしてるのかな」
ファズ「私が憲兵を志したのはその理由かもしれません、王族を守る一団に所属することはある種の承認欲求を満たしてくれました」
わんぱくジプ「魔王が承認を求めてる?」
盗賊バク「虚飾の平和から閉ざされた空間…死の国の民の中でさらに自分を異質であると感じたならば…故郷に帰ったとは考えにくい。とっくに見限ってるはずだ」
リヤ「逆に全てが解放されてるのはどこだろう?」
ファズ「空?海?」
わんぱくジプ「空想の中だ」
盗賊バク「何もかも許される自由な空間か…」
リヤ「そこにどうやって行こうとしたのだろう?」
わんぱくジプ「…生身ではいけない。だから精神的な意味で魔王になった」
盗賊バク「それは文化を重んじると言うことである…ここは文化の聖地ケツァルコアトル。ここ以上に拠点にしたい場所はないことになるぞ?」
ファズ「王様はもしや、聖騎士の階級章ができるまでに魔王との決着がつくと読んでおられるのだろうか…」
わんぱくジプ「わかった!!」
リヤ「ジプがひらめいた!」
盗賊バク「聞かせてくれ!ジプ!」
ファズ「おねがいします!ジプ様!」
わんぱくジプ「クーがやりたいのは、闇のゲームだ!」
盗賊バク「やつは神父オルゴ・デミーラがエドにしかけたゲームを再現しようとしてると言うのか?」
わんぱくジプ「クーはエドの成したことを善の勝利だと定義してないんだ!話の結末は神父の死!エドが殺人を犯してなおアルに大好きだと言われる!そういうのをクーは求めてるんじゃないか?」
盗賊バク「言われてみれば…エドの罪悪感を打ち消したのはアルの感謝と好意だった」
リヤ「神父の役職を取り消され、粉微塵に爆破されたオルゴ・デミーラの遺体!」
ファズ「自らの手で爆破される教会にクーの名を与えた!」
盗賊バク「ということは?」
わんぱくジプ「墓守一族が罪人の魂を浄化することを使命として持っていたことをクーはいいことだと思ってる!クーはオルゴ・デミーラの魂を浄化したいんだ!!誰もそれを成し得なかったから自分がそれをしようと考えた!」
ファズ「それがクーにとっての世界への挑戦だったわけですね!?」
わんぱくジプ「そう!クーは闇のゲームへの挑戦者になるために自分とオルゴ・デミーラの主客を反転させたんだ!!」
リヤ「ジプ!すごい!!」
盗賊バク「そうか…あいつは故郷を見限った訳じゃないってことか…」
リヤ「罪人同士の魂をめぐり合わせるために偉人リヤの手で書かれた少年ジプの中にもオルゴ・デミーラの物らしい精神性は登場しない…つまりオルゴ・デミーラの魂を鎮めることは、リヤの名を持つ僕の宿命でもある!!」
盗賊バク「リヤ…紛れもなく勇者だ、お前は」
わんぱくジプ「うん!目星がついたことだし町にでも行こうぜ!聞き込みだ!」
つづく