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ジプとジアの島2

『竜が届けた物語』

ざわざわ

ジプ「はじまる!みな!拍手!」

ぱちぱちぱちぱち!

===
リヤ「…」

観客(あがってる!)

リヤ「~~~」

観客(がんばれっ!)

リヤ「やだやだやだ~~~!僕に勇者なんて無理だよおおおおおおおおおお!!」

呆然とする観客

マリベル「リヤ!リヤ!」

リヤ「はっ、母さん!」

マリベル「また立ったまま夢を見てたの?」

リヤ「実はその…うん」

観客「ははは」

マリベル「大丈夫よ。あなたは海の民の子、勇者ではなく船乗りになるんだから」

リヤ「うーん、僕、船乗りになれるかな?」

アルス「母さーん見送ってくれー!」

リヤ「父さんの声だ!」

マリベル「はーい!」

アルス「リヤ!今日も行ってくるぞ!」

リヤ「行ってらっしゃい!父さん!」

マリベル「待ってるわ、あなた」

アルス「おう!」

船が出る

マリベル「さあ、リヤ!そろそろわんぱく王子が来る時間じゃない?」

リヤ「そうだ!いってくるー!」

マリベル「お昼には帰ってくるのよー」

リヤ「うーん!」
===
??「リヤ!こっち!」

リヤ「あ!ジプ!」

観客(どよ)

ジプ「俺だ!」

リヤとわんぱくジプ「いえーい!」

わんぱくジプ「今日は何する?」

リヤ「お城探検!」

わんぱくジプ「お!そうこなくっちゃ!でも実はさ」

リヤ「なんかあったの?」

わんぱくジプ「昨日城の裏にある墓に、盗賊が入ったらしいんだ」

リヤ「と、盗賊!?」

わんぱくジプ「しー!」

ジプ(わくわく!)

わんぱくジプ「へへ、物語の香りがするぜ」

リヤ「もー、ジプはほんとに物語が好きだなー!」

観客(ははは!)

頭を掻くジプ

わんぱくジプ「なあなあ、今日はお城の中じゃなく荒らされた墓を見に行くってのはどうだ?」

リヤ「そんなの楽しいかなあ?」

わんぱくジプ「盗賊に会えるかも…!」

リヤ「会いたい!」

わんぱくジプ「決まり!行こうぜ!」

リヤ「うん!」

僕はリヤ、海の民の村ドラクエに生まれたリヤ!目と鼻の先にある王国、ケツァルコアトルの王子ジプと僕は、同い年で仲良くなった!劇を観たり、探検したり僕ら二人の毎日は楽しく平和なものだった!だけど、王家のお墓が荒らされて、とんでもないものが盗まれていることを僕たちは知ることになる…

わんぱくジプ「おいリヤ!おいてくぞ!」

リヤ「あ、待ってよジプ!」
===
がやがや

わんぱくジプ「うわー、ドラクエに向かう前に見たときはこんな大勢の人いなかったぞ」

リヤ「あっという間に噂が広まったんだね」

憲兵「ジプ王子ではないですか、お勉強は済んだのですか?」

わんぱくジプ「こーんな状況で勉強なんかできる訳ないよっ!」

リヤ「ははっジプだもんね」

頭を押さえる憲兵「確かに…」

観客「ははは」

ジプは照れ笑いした

わんぱくジプ「それで、何が盗まれたか分かった!?」

憲兵「じきに明るみになることですので口をつむぐようには言われておりません」

リヤ「なら教えて!誰のお墓が荒らされたの!?」

わんぱくジプ「こらリヤ、不謹慎だぞ!」

リヤ「ジプだってそれを知りたいんだろ~?」

憲兵「全く…」

わんぱくジプ「それで、どうなの?」

リヤ「ほらやっぱり」

憲兵「荒らされていたのは、この国の始祖、ケツァルコアトル様の王墓です」

観客「!!」

わんぱくジプ「なんだって!?ばかな!ありえない!」

リヤ「在り得ないってどういうこと?」

わんぱくジプ「始祖であるケツァルコアトル様はもはや神話上の存在!もともとは二人の王、人間だったけど、冥界で再会した二人はジェイとパナと言う二つの国を一つのケツァルコアトル国とした功績があるように、一つの存在として一つになったんだ!」

リヤ「一つの存在として、一つに…」

憲兵「王子の仰せの通り、それが一番写実的な表現だと言われているのです…」

リヤ「写実的…ってそれは誰かが見てたってこと?」

わんぱくジプ「お、リヤ!鋭いな!」

憲兵「ジプ王子もしっかり勉強なさってることが分かりました」

わんぱくジプ「なんだと!どういう意味だ!?」

憲兵「荒らされた墓をお見せする理由があるということです」

わんぱくジプ「!!」

リヤ「僕は!?」

わんぱくジプ「お願い!リヤにも見せて」

憲兵「ええ、リヤ殿は王子の一番の友達ですからね」

顔を見合わせてリヤとわんぱくジプはハイタッチした

観客がほっこりしてる

ジプ(これは未来の話…父上たちは冥界で再会し、一つとして、一つになった…その時代にまた王子として生まれた俺には海の民の子、リヤが一番の友達としている…なんて素敵なんだろう)

マハが劇に見とれるジプの顔を見て微笑をたたえていた

===
黒子が舞台装置を運んできた

ジプの胸が締め付けられた

観客もざわついた

わんぱくジプ「これは…」

憲兵「ケツァルコアトル様の王墓です…」

わんぱくジプ「そんなことはわかってる、この変わり果てた惨状はなんだ!」

リヤ「盗賊って、こんなひどいことをするのか…どうして…」

憲兵「盗まれていたのは、文化の王冠、ただ一つです」

わんぱくジプ「その盗賊の目的は王冠を盗むことじゃない!これでは父上の物語に傷をつけるためにやったようではないか!!」

憲兵「え?」

リヤ「父?どういうこと?ジプ?」

わんぱくジプ「え!?俺今なんて言った!?」

リヤ「ケツァルコアトル様のことを父上って言ったよ?」

わんぱくジプ「そんな馬鹿な!俺の父上は人の子だ!」

憲兵「…もしや…」

わんぱくジプ「何か思い当たるのか?」

憲兵「ジプ様はご自身の名前の由来をご存じでございますか?」

わんぱくジプ「え?由来?」

リヤ「ジプシーのジプだと思ってた」

わんぱく「王子にジプシーになってほしい王様なんていないよ」

憲兵「ジプという言葉は辞書にありません、その意味は今も歴史学者たちに研究されているのです」

わんぱくジプ「どんな説があるんだ?」

憲兵「世界各国に遍在する少年ジプの物語をご存知ですね?」

わんぱく王子「もちろんさ!俺の一番好きな物語だ!」

リヤ「僕も好き!ジプと言う少年が5人の仲間とともに各国を渡り歩いていく」

わんぱくジプ「前の国でお土産にもらった品が次の国の民にとって役立つものだったりして、すっげーおもしろいんだ!」

リヤ「ねえ~」

憲兵「そうです、持ち歩ける品の数は限られている中でその品をくれた国の人々との物語と、品に込められた精神性…それを少年ジプが嬉々として語ってみなを喜ばせ、やがて別れを惜しまれながら次の国へ旅立つ…。ですのでリヤ殿の言ったジプシー説が有力だったこともありました…しかし歴史的な発見がされて、そんな説は吹き飛んでしまった」

わんぱくジプ「歴史的な発見!?そんなの知らないぞ!?」

憲兵「秘密だったからです、だがしかし…」

リヤ「しかし、なに!?」

わんぱくジプ「歴史的な発見って何だよ!」

憲兵「秘密にされてきた歴史的発見は、盗まれてしまった」

わんぱくジプ・リヤ「!!」

憲兵「そうです、歴史的発見とは、文化の王冠のことなのです」

リヤ「どうして王冠が歴史的発見だったの!?」

憲兵「王冠には三つの名前が記されていました、ケツァル、コアトル、そして…ジプの名もそこに記されていた」

ジプが涙ぐんだ

わんぱくジプ「どういうこと!?まさか世界各国を渡り歩いた少年ジプって」

リヤ「ケツァルコアトル様の子供だったの!?」

憲兵「王墓の補修が行われた際の歴史学的な大発見でした…しかし、あまりにできすぎている」

わんぱくジプ「できすぎてるって?何か困るのか?」

憲兵「ケツァルコアトル様は世界を統べる文化の神、そして少年ジプの物語も世界各国でも絶大な人気を誇っている。」

わんぱくジプ「つまり…本当だったとしても捏造として扱われてしまうってこと?」

リヤ「そんな、真実が嘘として扱われるなんておかしいよ!」

憲兵「ですので、王子、ご自身の名前の由来を王に尋ねる時が来たのかもしれません。現王もこの王墓の惨状を見ておられます、なぜジプの名を王子に与えたのか、それは吐露しておきたいことかもしれません」

わんぱくジプ「チャンスって訳だな!?リヤいくぞ!」

リヤ「うん!」
===
ジプ「おもしろい…」

闇バク「ちっ!とんだ不届き者がいるもんだからな、世の中ってのは…一つになったケツァルコアトル様の王墓を暴くなんてまったく」

シズ「し、幕が開くわ」
===
わんぱくジプ「父上ー!!」

リヤ「王様-!!」

王「二人とも、今は忙しいのだ」

わんぱくジプ「お時間のある時でかまいません、一つどうしても聞かせてほしいことがあるのです!」

王「む、もしや王墓に関係のあることか?」

わんぱくジプ「はい!」

王「お前が聞きたいことは、自分が生まれた日の話であろう」

わんぱくジプ「はい!そうです!」

リヤ「え、名前の由来じゃないの?」

わんぱくジプ「もう!それも聞けるからはいって言ったんだよ!」

王「うむ…お前の名前か…ジプの名を付けた理由を話すには…少し時間がかかる」

憲兵「王様」

王「ファズ、どうした」

わんぱく王子「ファズ!下がってろよ!叱られちゃうぞ!」

憲兵「王子を焚きつけてしまったのは私です」

王「話してて気持ちよかったか?」

憲兵「恐れ多くも…偉大なる存在の軌跡を言葉に表すことがあんなにも心地いいものとは思わず…」

王「仕方あるまい…物語は、魔法なのだからな」

リヤ「ま、魔法!?」

王「そうだ、物語は登場人物の精神を時を超えて感受させる、魔法なのだ」

わんぱくジプ「お聞かせください!時を超えて今!僕の誕生を待った日々の父上の精神を感受させてください!」

リヤ「ジプ…」

王「よかろう…リヤ、ファズにも聞いてもらおう」

ジプ「はい!」

リヤ「はい!」

ファズ「はっ!」

王「ふー…、不思議な贈り物が城あてにたくさん届いた日のことだった」
===
憲兵「王様、また贈り物です!」

王「またか!今度はどこからだ!?」

憲兵「青の国です!」

王「まさかまたジプの名を持つ者へか?」

憲兵「はい!」

王「この城にはジプなんて名前のものはおらぬと言うのに…」

后「もしかして…この子の名前なのかしら」

王「馬鹿な、名前はもっと別なのを考えてあるぞ」

后「リヤと名付けようというのでしょう?」

王「なぜ!?誰にも話しておらんぞ!」

后「夢の中でその名前を聞いたのでしょう?」

王「そうだ!なぜ知っておる!」

后「竜が名前を運んできてくれたのですわ」

王「竜?竜とはなんだ?」

后「竜とは人であり、声である」

王「人であり、声?物語のことか!?」

后「あら素敵…わたしは光のことだと解釈してましたわ」

王「竜が運んできたリヤなる名は今お前のおなかの中にいる子の名ではないのか」

后「それは違うって、贈り物が告げに来たのよ」

王「たしかに…こんな不思議なことが起こるならお前の言ってることも絵空事と言って切り捨てる訳にもいかない」

后「この子はジプ。リヤと言うのは、きっとお友達の名だわ」
===
わんぱくジプ・リヤ「…」

王「そうしてその日の夜、無事に生まれた我が子にジプの名を与えた」

わんぱくジプ「そうだったんだ」

リヤ「どうして贈り物がたくさん届いたのですか?」

王「その話の前に、君の生まれる前の話をせねばならぬ」

わんぱくジプ「リヤはどうしてリヤと名付けられたんだ?」

王「交換したのじゃよ」

わんぱくジプ・リヤ「交換?」
===
憲兵「王様」

王「誰か訪ねてきたか」

憲兵「海の民の長夫婦です!」

王「なに?身重だと聞いていたが」

憲兵「夫婦でお待ちです」

王「すぐに行こう」
===
王「アルス殿!」

アルス「王様!」

王「やあやあよく来た、身重の奥様まで連れて何事だいったい?」

マリベル「おなかの中の子のことで相談がありまして」

王「そなたらも、まさか夢を!?」

アルス「夢?」

マリベル「なんの夢です?」

王「私と后は我が子にリヤの名を与えようとしていたのだ、だがその日はたくさんの贈り物が届いた、世界の国々から」

マリベル「リヤの名を、夢の中でお聞きになったということですか?」

王「そうだとも、しかし贈り物はジプなる人物に宛ててじゃった。ジプなんて者はこの城におらん。」

アルス「それで王子の名前をジプになさったのですね」

マリベル「私たちの方は、ジプと名付けようとしておりました」

アルス「なんと、ジプの名を!なぜつけないことにした」

マリベル「海の民の子が王子と同じ名前だなんて…」

王「言われてみればまあそうだが、思い入れは無かったのか?ジプと言う名に」

アルス「それが無いのです」

マリベル「なぜか夫婦そろってジプと言う名がしっくり来たのです」

王「話は簡単じゃ、その子にリヤの名を与えればよい」

アルス「王が夢で聞いた名を?」

マリベル「そんな」

王「なに、后はリヤとは、ジプのお友達の方の名前だと言っておった。ほっほ、同い年の子とはのう。よいではないか」

マリベル「リヤ…」

アルス「ジプ王子の良き遊び相手となってくれたら」

王「ほほ、楽しみじゃのう」
===
リヤ「僕はジプにならずに」

わんぱくジプ「僕はリヤにならなかった…」

憲兵「墓荒らしの件はどうなっているでしょう、無関係ではない気がします」

王「この国の始祖にして文化神であるケツァルコアトルさまの王墓には不吉な物語が封印されていた」

ジプ「え?」

わんぱくジプ「なぜです!?和平の勲を持つケツァルコアトル様の王墓になぜ不吉なものが!」

リヤ「誰が封印したのですか?」

王「明らかな記録は残っておらん、しかし、そんなことを許される存在がいたとしたらただ一人、ケツァルコアトルの息子、王子ジプに他ならない」

わんぱくジプ「世界に遍在する少年ジプ物語のジプが王子ジプと同一人物なのですか?」

王「確かなことは言えぬが…こう考えると合点がいく」

リヤ「お聞かせください!」

王「少年ジプは、実話ではないのだ」

憲兵「そんなことが知れ渡ったら大変なことになります」

王「安心しなさい、少年ジプは一つの物語ではこの国の始祖との関連を見出すことはできない、が、歴史から消された王子ジプの物語が、ケツァルコアトルの怪作である三部作の続きとして世界のどこかに眠っているのやもしれぬ」

わんぱくジプ「少年ジプがフィクションで、王子ジプが実話だった…よ、読みてー!」

王「少年ジプ物語はジプ王子に仕えていた神官の誰かが、王子ジプの物語をやむにやまれず残したものであると考えればどうだ?」

憲兵「ケツァルコアトルの偉業をその目で見た者がいなくなった時代に、ジプ王子の物語があったらば文化神の誕生物語が現実感を失ってしまう…先代のジプ王子は本当に物語を愛しておられたのですね」

マハ「ジプ様ならやりかねません」

ジプ「へへっ」

王「そして!物語を愛していたがゆえにジプ王子は不吉な物語もたくさん知っていたはずだ!」

わんぱくジプ「不吉であっても物語は物語、それを葬ることができなかった」

リヤ「自分の物語は消しちゃったのに!?」

王「ケツァルコアトルの精神性を受け継いだ少年じゃ。自分の心など、どうにでもできたのだろう…」

わんぱくジプ「わかってきたぞ」

王「なにがだ?」

わんぱくジプ「盗賊は真実を知ってるんだ!なぜかはわからない!だけどあの王墓の惨状!信じられてることが間違ってると伝えている!」

リヤ「ジプ、すごい!」

王「なるほど…」

憲兵「王様、提案したいことがあります」

王「もうしてみい、ファズ」

ファズ「ジプ王子、リヤ殿、そしてわたくしファズの3名に、文化の王冠の奪還を命じてくださいませぬか?」

王「なんと」

ジプ「やろう!俺が生まれた日に届いた贈り物は、世界中に残っているのに知られていない、先代のジプ王子の精神性を呼ぶ声だったんだ!」

リヤ「ジプ、ファズさん、行こう!」

王「ま、待ちなさい、どうやって盗賊を見つけるというのだ!!まちなさーーーい!」
===

わんぱくジプ「盗賊の目的は真実の流布!」

リヤ「だとしたら向こうの方から王国関係者に近づいてくる可能性がある!」

ファズ「しかし、手練れの盗賊かもしれません、単独犯でしょうが、戦闘になったら下がっていてくださいね!」

わんぱくジプ「戦闘に参加しないとしても、装備は必要だ」

ファズ「なぜですジプ様」

リヤ「そうか聖なるナイフ!」

わんぱくジプ「そうだあのクラスの武器を持ってれば俺が王子であると示すのに役に立つ!」

ファズ「なるほど、武器を交渉の道具に使うわけですね!」

わんぱくジプ「武器庫に到着!聖なるナイフ聖なるナイフ…」

リヤ「僕がここに在る武器を使う日が来るなんて」

ファズ「ジプ様~ここにリヤ殿を入れてはなりませんよ~」

わんぱくジプ「あった!聖なるナイフ!」

ファズ「リヤ殿、こん棒なんていかがです」

リヤ「うん、ちょうどいい重さだ、これにする!」

わんぱくジプ「盾はもっていかないほうがいいな」

リヤ「どうして?」

ファズ「いかにも戦闘態勢では近寄りたがっている盗賊を警戒させてしまう」

リヤ「なるほど」

わんぱくジプ「向こうだって俺たちを傷つけたいわけじゃない!防具を付けるのもファズだけだ!」

リヤ「全員、装備完了!」

わんぱくジプ「出発だ!」

ファズ「で、どこに向かうのです?」

リヤとわんぱくジプがずっこける

リヤ「森だよ森-!」

わんぱくジプ「物語の序盤でまず突き進むのは森だ!」

ファズ「そんなセオリー知りませんよ私は…」
===
盗賊「来たな?」「ジプ王子、その友達、憲兵が一人、まあ始まりにはちょうどいいだろう!」

3人の前に降り立つ影

リヤ「!」

わんぱくジプ「出たな!盗賊!」

ファズ「性急な登場ですね、しかし、まさか子供とは」

リヤ「王子!」

わんぱくジプ「おう!我が名はジプ!王より文化の王冠の奪還を命じられている!ケツァルコアトル様の墓を荒らしたのはお前か!?」

盗賊「はじめまして、ジプ王子。俺はバク、真実を知る盗賊バクだ!」

バク「不名誉千万!俺は始祖の墓を荒らしたりせぬ!」

ジプ「まあまあw」

観客「ははは」
===
わんぱくジプ「自分から現れたな?そして背後ではなく目の前に降り立った!真実を知る盗賊バクよ!お前の目的はその真実の流布にあると俺たちは読んでいる、どうだ!?」

盗賊バク「いかにも俺は、歴史から抹消された先代のジプ王子の物語を流布するために墓を暴いた!墓など飾り、その本質は物語にある!」

リヤ「…!」

ファズ「私は憲兵のファズ、こちらから戦闘は開始しない。しかし私の反撃はそちらの攻撃が到達するよりも早くそちらに届く。我々は交渉を望んでいる」

盗賊バク「もちろん俺もさ、ただ一つ認識に齟齬があるね、憲兵のファズとやらの反撃の素早さは俺の逃げ足に勝らない。俺が飛び道具を持ってるかもしれないって思っときな」

ジプ(血の流れない戦闘!シャドウゲームってわけか!)

リヤ「僕は海の民の子!海にお前の逃げ場は無いと思え!」

観衆「くす」

ジプ(リヤかわいいなw)

盗賊バク「おっと、航路を塞がれたか、これは想定外だ」

ファズ「盗賊バクに質問だ、なぜ森に潜んでいた?」

盗賊バク「少年ジプの物語は忌むべき物語…だが5人の仲間と森を歩く姿はなんだか愉快でね」

わんぱくジプ「忌むべき物語というのには賛同できないな」

リヤ「だけど森の中を歩いてる様子が愉快だと言うのには同感だ!」

観衆(同感かw)

ジプ(くそ、混じりたいw)

ファズ「核心に触れる質問をする、二人の王が1つの神となったとされる始祖の王墓、貴様の残したあの惨状からは呪いへの恐怖がみじんも感じられなかった!お前は始祖の威厳をなんと心得る!?」

盗賊バク「おやおや、老獪な質問だ。確かに俺は呪いなど微塵も信じちゃいない、先代のジプ王子の存在が歴史から消えていることは、ケツァルコアトル様からしても嘆かわしいだろうと思ってね。あの方が愛するジプ王子の物語と整備された王墓を天秤にかけたらばそれはどちらに傾くだろう?そう問うたらば逆に徹底的な惨状を残すことこそ始祖への敬服の念がこもっていると言えよう!」

ファズ「なるほど、貴様の思想はわかった」

わんぱくジプ「お前の筋書きを聞かせてもらおうか!俺たちを盗んだ王冠で誘導し、仲間に引き入れるつもりか!?」

盗賊バク「いかにも!お前たちは平凡な毎日に別れを告げ、冒険の旅に出ることになる!お前たち次第で文化の王冠のありかを教えてやろう。王子ジプの物語の軌跡をたどり、死の国の王に文化の王冠を明け渡す!」

リヤ「し、死の国の王!?」

わんぱくジプ「はるか西にあると言われる罪人の墓場…墓守の長に文化の王冠を献上しようというのか!!なぜだ!!」

盗賊バク「魔王を生むためだ」

観衆「魔王!?」

わんぱくジプ「魔王だと!?」

盗賊バク「文化の王冠をかぶったものには、王冠に記された名を持つ3人の精神性が宿ると言われている」

わんぱくジプ「墓守の一族は罪人の骸を平和な世界から閉ざされた場所に幽閉することを使命として持つ一族!故に死の国の管理人と呼ばれている」

盗賊バク「彼らは虚飾の平和を守るため犠牲となっている影の存在」

ファズ「彼らに権威を与えようと言うのか」

盗賊バク「俺はお前たちに選択肢を与えよう。俺とともに死の国への旅に同行し、世界に魔王を誕生させるか。それを選ばないなら俺の隠した文化の王冠は別の盗賊の手に渡り、どこにあるかがわからなくなる。さあ、選べ!」

リヤ「魔王の誕生と王子ジプの真実がどう関係するって言うんだ!?」

観衆(いいぞリヤ!)

盗賊バク「王子ジプの物語は先代の王子ジプ自身の手で葬られた…どこに葬ったと思う?」

ファズ「なるほど…」

わんぱくジプ「文化神の子供であるジプ王子が物語を焼き払う訳が無い、つまり、死の国の墓守一族に自身の物語を伝えていたというのか!」

盗賊バク「ふふ」

リヤ「なにがおかしい!」

盗賊バク「変わってないな、と思ってね」

わんぱくジプ「なんのことだ!お前と俺は初めて会ったはずだ!」

盗賊バク「王子ジプ、お前は父の王墓の惨状を見てどんな感情を抱いた?」

わんぱくジプ「怒りが沸いたさ!」

リヤ「!」

ファズ「やはり…」

わんぱくジプ「え、父?」

盗賊バク「お前は歴史から消えた先代のジプ王子の生まれ変わりだ」

わんぱくジプ「ふん!なぜそんなことが言える!」

盗賊バク「俺が、お前に仕えた神官の生まれ変わりだからさ」

リヤ「お前はなぜ先代のジプ王子の真実を知っている!?お前は、墓守の一族の者なのか!?」

ファズ「!」

盗賊バク「そういうことだ、勇者リヤよ」

リヤ「え?」

観衆(おお)

盗賊バク「墓守の一族の手に文化の王冠が渡れば一族の中から必ず増長する者が現れる、その者こそ魔王の資質を持つ者だ、現王子ジプ、お前は始祖の精神性を語る魔王と戦うことになる!」

わんぱくジプ「く、わかったぞ!先代のジプ王子は歴史から消えゆく自分を死の国の墓守一族に重ねた!」

盗賊バク「先代のジプ王子には選択肢があった。自らの物語を歴史から消すか、消さないか。彼は物語の中でケツァルコアトル王と永遠を生きることを選ばなかった、自らの幸福より文化神のリアリティを損なわないことを選んだのだ!ふふ、頭が下がるぜ」

わんぱくジプ「先代のジプ王子は、その選択に罪悪感を持っていた?だから罪人の墓に自分の物語を葬ったのか」

盗賊バク「どうだろうな。ただ、俺が賊を働いたのは先代のジプ王子の命によるものだ」

ファズ「なんだって!」

盗賊バク「神官だった俺は魂で誓った、次に生まれる時も王子ジプに尽くすと」

わんぱくジプ「…」

観衆「…」

バク「…」

ジプ「…」

リヤ「魔王を生むのは先代の王子ジプの意志だと言うの?」

盗賊バク「そうだ。先代の王子ジプは罪人の墓守一族に自分の物語を伝えるために死の国へ向かった、同行したのは神官の俺だった。王子はそこで墓守一族の影の暮らしを目の当たりにした」

わんぱくジプ「影の暮らし…」

盗賊バク「死の国にあるのは眠りについた罪人の物語ばかり、ハッピーエンドというものが無いわけさ」

リヤ「先代のジプ王子はそれを悲しく思った…」

盗賊バク「死の国にも子供たちがいた。子供たちは罪人の物語ばかり聞いて育ち、やがて大人になる。影の暮らしに何の疑問も持たないという訳さ。」

ファズ「…」

盗賊バク「その子たちの未来に待っているのは影の暮らし!だから無闇に希望を与える物語を、一族の大人たちは何よりも嫌っていた。ジプ様はその暮らしぶりに文句はつけなかったが、心中は穏やかではなかった」

ファズ「先代のジプ王子の心に…」

リヤ「魔王が生まれた…」

わんぱくジプ「…」

盗賊バク「そうだ、ジプ王子は墓守一族の影の暮らしを脅かす魔王の自分を心の底に秘めてしまった」

わんぱくジプ「それを現代の世界で解き放つことを考えたというのか…」

盗賊バク「王子ジプは墓守一族と取引をした。自分の物語を葬る代わりに、君たちの望みを物語に描いてくれ、と」

リヤ「まったく、どこまで物語が好きなんだ」

わんぱくジプ「うるせー!」

観衆「くすくす」

ファズ「まさか…少年ジプは墓守の一族が描いた物語なのか!?」

盗賊バク「ご名答」

わんぱくジプ「墓守一族には世界中の罪人の物語がある…」

盗賊バク「墓守一族の大人たちもほんとは希望を持っていた。罰に処されて死んだ罪人を供養する暮らしの中で、この罪人とこの罪人がもしも友達だったらば…」

わんぱくジプ「少年ジプは、罪人の魂同士をめぐり合わせる物語だったのか!」

盗賊バク「そうだ、先代のジプ王子は墓守一族の描いた少年ジプ物語を読んで、魔王の自分を忘れた」

ファズ「少年ジプの物語を書いた者が先代のジプ王子にとって、勇者だったということか」

盗賊バク「そう、少年ジプを書いたのは、リヤという14歳の少年だった」

リヤ「僕!?」

わんぱくジプ「村の大人たちは、リヤを叱ったのか!?」

盗賊バク「いいや、リヤ少年が大人たちの心の中にある望みを物語にしたんだ。怒るどころかリヤは村の偉人として扱われている」

わんぱくジプ「よかった…」

盗賊バク「ジプ王子はリヤ少年と約束した。今度生まれる時は、一緒に冒険をしよう、と」

リヤ「…」

わんぱくジプ「…」

ファズ「全てがつながりました。しかし私は賊を働いたものを捕えなければなりません」

リヤ「待ってよファズさん!」

わんぱくジプ「こいつはもう仲間だろ!?」

ファズ「しかし我々は王より文化の王冠の奪還を命じられた身です、手ぶらで帰る訳にはいきません」

リヤ「王冠を持ち帰ることが僕らに命じられたことだ!」

わんぱくジプ「そうだよ!盗賊を捕まえろなんて一言も言われてないぞ!」

微笑むファズ「ええ、そうですとも」

リヤ・わんぱくジプ「あ…」

盗賊バク「なんだ?」

リヤ「バク!王様に王冠の奪還を提案したのはファズなんだ!」

盗賊バク「ほう?」

わんぱくジプ「ファズ!お前やるな!最初から盗賊を仲間にするつもりだったのか!」

ファズ「しかしどんな意味合いであろうと王墓を暴いたことに変わりはありません、王様や他の憲兵とバク殿は関係を持つことが叶わないということです」

盗賊バク「ふ、ファズとやら。お前はパーティの中で唯一の大人になろうとしているな?」

リヤ「ファズさんも冒険したいってこと!?」

わんぱくジプ「ファズは剣の腕も立つし頭も切れる!俺達4人で旅に出るんだ!」

盗賊バク「いやその必要はないかもしれん」

ずこ

観客「?」

わんぱくジプ「どうしてだよ!魔王を生むんだろ!?」

盗賊バク「こうもうまく事が運ぶとは思っていなかったってことだ。4人で冒険して魔王を誕生させて魔王を倒したら、マッチポンプもいいところだ」

リヤ「つまりバクは墓守の村に王冠を持ち帰って魔王を誕生させる、悪者を演じようとしてたってこと?」

盗賊バク「そういうことだ、ジプとリヤが墓守の村へたどり着くまでが先代のジプ様が俺に話してくれた空想だった」

ファズ「バク殿、あなたは神官だった頃の記憶を全部覚えているのですか?」

盗賊バク「いや…神官だった頃はなにか別の心を持っていた気がするのだが、いまはそれを持たずに生まれたようだ。ジプ王子との話は覚えてるが、神官になる前のことは何も覚えていない」

リヤ「別の心?」

盗賊バク「俺の心のことなどどうでもいい。これからどうするかは白紙の状態だ」

わんぱくジプ「真実の流布が目的ってのは本当なんだよな?」

盗賊バク「ああ。先代のジプ王子は自らの物語をケツァルコアトル王の存在のリアリティを損なわせないために葬りはしたが、未来でなら信じてもらえるかもしれないと考えていた」

ファズ「人々の信じる心が強くなっているだろうとお考えになったわけですね」

盗賊バク「そうだ。そして勇者リヤとジプ王子の冒険の約束が時を超えて実現しつつあるということだ」

リヤ「うーん、魔王を倒すってのはやめにして、バクの持ってる記憶をいろんな国に伝えていく旅にするってのはどう?」

わんぱくジプ「えー!魔王倒したいよ!」

ファズ「ははは」

盗賊バク「まずは隠した王冠を回収することにしよう。罠はしかけてあるが本当に別の盗賊の手に渡ったら面倒だ」

わんぱくジプ「それやばいじゃん!急ごう!」

リヤ「うん!」
===
ファズ「バク殿、どのような罠を仕掛けたのです?」

盗賊バク「こけおどしから徐々に本格的なものになっていくという仕組みだ、場所は森を出たところにある洞窟だ」

リヤ「枝分かれの洞窟!」

わんぱくジプ「あそこか!」

ファズ「憲兵たちが捜索してるやもしれません!バク殿は何かをもって洞窟へ入った人物の目撃者です!」

わんぱくジプ「王墓を荒らしてたバクのこと目撃してる憲兵が混じってたらどうする!?」

ファズ「目撃してたらばとっくに王様に報告してるはず!バク殿の犯行は単独によるものでしょう?」

バク「ああ!」

ファズ「抱き込まれた憲兵がいないなら問題ないと考えましょう!」

わんぱくジプ「抱き込んでないよな!?バク!?」

盗賊バク「どうやって大人を抱き込むんだよ」

リヤ「色仕掛け?」

わんぱくジプ「そりゃ女の技だ!」

盗賊バク「ははは」
===
??「くそっバクめ!これ以上奥へ進ませないというのだな…!」
===
リヤ「枝分かれの洞窟だ!」

わんぱくジプ「よし、憲兵はいないようだ!」

ファズ「バク殿、罠の場所を知るのはバク殿のみです、先導してください」

盗賊バク「よしわかった、行くぞ3人とも」

リヤ「待って!」

わんぱくジプ「どうしたリヤ!」

リヤ「誰か出てくる!」

盗賊バク「何!?」

ファズ「子供の様です」

盗賊バク「…」

わんぱくジプ「罠にかかってなくてよかった!」

??「!!」

ファズ「君、怪我は無いかね?」

??「…大丈夫です」

盗賊バク「ふう。ん?今の声」

フードを脱ぐ少年

リヤわんぱくジプファズ「!!」

盗賊バク「クー!」

リヤわんぱくジプ「双子!?」

盗賊バク「ついてきていたのか!?」

クー「うん…」

盗賊バク「なんて危険な!長たちはお前が村を出たことを知ってるのか!?」

クー「説得したんだ。長からの許しはもらってる」

盗賊バク「信じられない…どうやって説得したのだ」

クー「それは…」

盗賊バク「抜け出してきたんだろう!お前のいないことに気づいた村は大騒ぎだ!」

クー「大人たちは追って来やしない、村を出る勇気なんて大人には無いよ」

盗賊バク「道中でどんなことがあるかわからんのだぞ!」

クー「恐いのは人。バクの通った道であろう道を歩けばいいだけだから危険なんかないよ」

盗賊バク「なんてやつだ…」

わんぱくジプ「なあなあ!バクがお兄さんなのか!?」

盗賊バク「いや、俺とクーは兄弟ではない、が、双子のようだとは言われていた」

リヤ「へー!うり二つだなあ」

盗賊バク「武器も持たずに…恐いのは人だと言ったな!盗賊にさらわれたらどうするつもりだった!?」

クー「それは…考えてなかった。でも武器なら持ってきたよ」

盗賊バク「!!」

リヤ「なーにこれ?」

盗賊バク「爆薬だ」

リヤわんぱくジプ「ば、爆薬!?」

ファズ「聞いたことがあります、墓守一族には遺体を爆薬で粉微塵にする風習があると」

盗賊バク「これがなんであるか知る者にしか効果が無いだろう!交渉の材料になどならん!」

クー「…」

わんぱくジプ「まあまあ!」

リヤ「クーはどうしてバクの後を追ってきたの?」

クー「…ずるいと思ったんだ」

盗賊バク「俺には使命があるのだ!遊びでやってるのではない!」

クー「それがずるいって言うんだよ!」

盗賊バク「…」

クー「君と君、リヤとジプなのかい?」

リヤ「うん!僕リヤ!」

わんぱくジプ「俺はジプ!こっちはファズだ!クーも冒険がしたかったのか?」

クー「バクがまるで光の物語の中にいるようで、うらやましかったんだ」

盗賊バク「クー…」

ファズ「墓守の村では先代のジプ王子と偉人リヤが冒険を約束したことをみんな知っているのですか?」

盗賊バク「ああ…俺に村を出る許しが出たのはそのためだ」

ファズ「クー殿はバク殿がこの洞窟へ入るのを見ていたのですね?」

クー「はい…」

わんぱくジプ「バクが王冠を盗む筋書きを知ってたってことか」

クー「バクを出し抜いてやろうと思ったんだ、王子たちとの交渉が難航して、別の盗賊の手に文化の王冠が渡る…僕がそっちの筋書きに切り替えてやろうと思った…」

リヤ「なるほど…」

盗賊バク「残念だったな、交渉はこの上なくうまくいったよ」

わんぱくジプ「そんな言い方ないだろう!?クーも仲間にしようよ!」

リヤ「クーは何か特技ある!?」

クー「え…?特技?」

盗賊バク「クーは…村の子供の中で一番…いや大人を含めても村で一番罪人の物語を知っている」

わんぱくジプ「お、やるじゃん!」

盗賊バク「歩く犯罪心理学という訳だ」

クー「!バクがそんな風に思ってくれてるなんて、知らなかった…」

盗賊バク「わかった、クーもパーティに加えよう」

わんぱくジプ「これからどうするかは白紙だもんな!」

リヤ「よろしくね!クー」

クー「ありがとう…勇者リヤ…」

リヤ「勇者だなんて…僕は船乗りの息子さ!」

わんぱくジプ「ファズ、父上にはなんて説明したらいい?」

ファズ「まずは文化の王冠を回収しましょう、王冠の奪還を命じられた3人で王冠を城へ持ち帰り、王様に盗賊の目的を話す、バク殿とクー殿のことも赤裸々に話し、そして5人で真実を流布する旅に出ることを王子が提案するのです」

クー「5人で…」

ファズ「王がすぐにお許しになるとは思えませんが、許しが出るまでに旅支度を整えましょう」

わんぱくジプ「うん!それがよさそうだな!」

クー「ジプ王子…」

わんぱくジプ「ジプでいいよ!」

クー「ありがとう、ジプ!」

盗賊バク「話はまとまった、洞窟へ入るぞ」

リヤ・わんぱくジプ「おう!」

ファズ「さ、クー殿も」

クー「ありがとう、ファズさん!」
===
わんぱくジプ「そろそろ奥につくな」

リヤ「バク、最後の罠はなんなの?」

盗賊バク「クーが持っていたのと同じ爆薬だ、侵入者を殺すような形では仕掛けていない、あくまで威嚇のためのものだ」

わんぱくジプ「爆薬が爆薬だって知ってたからクーは引き返した。そうして俺たちと出くわしたって訳だな?」

クー「僕が引き返したのはこのあたりだ、あ、あれだ最後の罠」

盗賊バク「解除にかかる、待っててくれ」

わんぱくジプ「へ~」

ファズ「驚いた、バク殿がこの仕掛けを考えたのですか?」

盗賊バク「小さいころから考えていたんだ」

クー「昔のバクはいたずらっ子だったっけな…」

リヤ「そうなんだ!」

盗賊バク「よし、来ていいぞ」
===
わんぱくジプ「あれか!」

盗賊バク「回収してくれ、ジプ」

わんぱくジプ「わかった!」

観客「おお」

リヤ「これが…文化の王冠…」

わんぱくジプ「名前が刻まれてる!ケツァル、コアトル、ジプ!」

リヤ「ファズさんが話してくれた歴史的大発見だ!」

ファズ「間違いなく本物!奪還完了です!」

わんぱくジプ・リヤ「やった~~~!」

わんぱくジプ「森を引き返してもつまらない!少し遠回りしないか!?」

ファズ「まったく王子ときたら…」

リヤ「そうだ!教会に寄ろう!ケツァルコアトル様に祈りを捧げるんだ!それなら王様も怒ったりしないよ!」

ファズ「なるほど、妙案です」

盗賊バク「真実の流布を5人で誓おう」

クー「…」

観客(どよ…)

リヤ「クー!置いていっちゃうよー!」

クー「今行く!」
===
リヤ「ねえねえジプ!王冠かぶってみてよ!」

わんぱくジプ「え~!父上に知られたら叱られちゃうよ!」

ファズ「私は目をつむりますよ」

わんぱくジプ「ほんとか!?ファズ!?」

ファズ「もちろんですとも」

リヤ「かぶった瞬間先代のジプ王子の記憶が蘇ったりして!」

ファズ「ははは」

盗賊バク「おもしろい、ためしてみよう」

クー「ジプ!かぶってみてよ!」

わんぱくジプ「みんながそう言ってくれるなら…」

わんぱくジプはそっと王冠をかぶった

観衆「おお…」

リヤ「どう!?ジプ!?」

わんぱくジプ「記憶は蘇らない…だけど一瞬懐かしい感じがした…」

ファズ「王冠自体に不思議な力はありません、先代の王子の生まれ変わりであるジプ様の心の方がこの王冠に反応したのです」

リヤ「王冠はただの王冠なのか…」

クー「そんなことないよ」

わんぱくジプ「え?」

クー「この王冠にだって力がある」

ファズ「どういうことです?」

観衆「あ!」

クー「見せてあげる!」

盗賊バク「こら!クー!なにをする!」

リヤ「待てー!」

ファズ「なにをする気ですクー殿!」

クー「教会についたらわかるよ!」

わんぱくジプ「クー待てー!」
===
たったった

クーが走りながらジャンプした

盗賊バク「いかん!待つんだジプ、リヤ!」

リヤ・わんぱくジプ「うわ!」

クー「僕にだって落とし穴くらい掘れるさ!」

ファズ「落とし穴!?」

盗賊バク「二人とも!」

リヤ「大丈夫!」

わんぱくジプ「追いかけよう!」

ファズ「クー殿が用意した筋書きの中にも教会でのイベントがあったようです!」

リヤ「クーは何をするつもりだ!?」

ジプ「あんな落とし穴!時間稼ぎだ!」

盗賊バク「仲間がいるとは考えにくい、大丈夫だ、王冠は取り戻せる!」
===
リヤ「教会だ!」

わんぱくジプ「クーはどこに行った!?」

ファズ「中を探してきます!3人は教会の周辺を!」

わんぱくジプ「わかった!リヤ!裏に回ってくれ!バクは左側を頼む!」

リヤ「うん!」

バク「まかせろ!」

リヤ「あ!梯子が倒れてる!」

バク「なに!?屋根の上か!」

クー「みんなー!」

わんぱくジプ「クーの声だ!」

クー「正面に回ってくれよ!王冠の力を見せてあげる!」

ファズ「見つかりましたか!?中には神父様しかいません!」

盗賊バク「クー!下りてこい!」

クー「王冠の力をお披露目したら下りるから!お願いだよバク!」

ファズ「王冠の力とはなんのことですクー殿!」

リヤ「梯子持ってきたよ!」

クー「その梯子を使っちゃだめだよ?リヤ?」

リヤ「どうしてー!?」

クー「その梯子で屋根に登ろうとしたならば、この爆薬で死んでやる」

盗賊バク「なに!?」

リヤ「そんなの嘘だ!」

わんぱくジプ「死ぬ死ぬ詐欺はよせー!」

盗賊バク「待て、二人とも!クーは命を天秤にかけるような奴じゃない!なにかおかしい!」

ファズ「クー殿!約束してください!気が済んだら王冠を返してくれると!!」

クー「うん!約束するよ!だから僕の話聞いて!!」

リヤ「…どうする?ジプ?」

ジプ「聞くよ!クー!ちゃんと下りて来いよー!?」

クー「まあ…屋根の上からは下りるけど、もう一度パーティに加わることは叶わないだろうね」

リヤ「君の気が済むまで梯子は使わない!ほら!地面に置いた!」

クー「うん!じゃあはじめるよ!」

一同「…」

クー「ケツァル、コアトル、ジプ…確かに3人の名が刻んである…」

リヤ「クーもかぶりたいのー!?」

クー「僕の目的は、この王冠をかぶることじゃない」

盗賊バク「じゃあなんだって言うんだ!正気に戻れ!クー!」

観客「ざわ」

リヤ「あれは」

わんぱくジプ「彫刻刀?」

クー「この王冠に、僕の名を刻む」

リヤ・わんぱくジプ・バク・ファズ「なんだって!?」

観客「ざわざわ」

盗賊バク「馬鹿な真似はよせ!」

クー「ねえ、バク?死の国の墓守一族には世界中の罪人の物語があるよねえ?」

盗賊バク「それがどうした!」

クー「バクは村で一番罪人の物語を知ってるのは僕だと言ってくれた…」

盗賊バク「ああ、言ったさ!お前は歩く犯罪心理学だと!」

クー「うれしいよ、バク。そこでバクに質問だ」

盗賊バク「ああ!聞いてやるとも!」

クー「世界中の罪人の中で最も罪深いのは誰だと思う?」

盗賊バク「最も罪深い罪人だと…」

リヤ「やめろ!」

盗賊バク「はっ」

わんぱくジプ「クー!」

ファズ「クー殿!!」

盗賊バク「降参だ!ああ、やめてくれ!」

クー「ふふ、バク。君に勝ちたかったわけじゃないよ、ただ王冠の力を見せたかっただけさ。ほら、王冠は返すよ」

リヤ「わわ!」

王冠を受け止めたリヤに駆け寄る3人

ケツァル、コアトル、ジプ、オルゴ・デミーラ

盗賊バク「!!オルゴ・デミーラ…!!」

リヤ「これが君の名前だと言うのか―!!」

クー「この教会の名はクー!今までの僕だ!!」

爆薬を取り出すクー

クー「僕は今から」

盗賊バク「!!みんな下がれ!!」

クー「オルゴ・デミーラだ!!」

爆発

崩れる教会

リヤ「…!」

わんぱくジプ「…」

ファズ「…」

盗賊バク「大丈夫かみんな!」

わんぱくジプ「リヤ!王冠は!?」

リヤ「持ってる…」

ファズ「なんてことだ…」

神父「な、なにごとです!?」

わんぱくジプ「教会が…」

盗賊バク「とんでもないことになってしまった…」
===
憲兵「王様!ジプ様たちがお戻りです!」

王「なに!奪還に成功したのか!?」

憲兵「王冠を持っておられましたが、ただならぬご様子…」

王「連れてまいれ!」

わんぱくジプ「…」

リヤ「…」

盗賊バク「…」

ファズ「…」

王「その者は捕えた盗賊か?」

わんぱくジプ「父上、事情が複雑すぎるのです。そして…」

王「なんじゃ!」

ファズ「王冠に傷がついてしまいました…」

王「そなたらが無事だったなら王冠など二の次じゃ!」

涙ぐむわんぱくジプ「父上…」

盗賊バク「王様。お初にお目にかかります、私目は死の国から先代の王子ジプ様の命を受けてやってきた墓守一族のバクと申します」

王「死の国…うむ。影の暮らしを強いられた一族の子バクよ、取って食ったりはせぬ。偽りなく全てを話すことを約束しなさい」

盗賊バク「はっ」

王「ジプ、リヤ、ファズ。そなたたちも約束するのじゃ」

リヤ・わんぱくジプ・ファズ「はい!」
===
王冠を持った王「そうして…この世で最も罪深き罪人の名がこの王冠に刻まれたということじゃな…」

わんぱくジプ「はい…」

リヤ「はい…」

盗賊バク「はい…」

ファズ「はい…」

王「傷がついた事実は変わらぬ。重要なのはこれからじゃ」

わんぱくジプ・リヤ・バク・ファズ「はい!」

王「バクよ、オルゴ・デミーラなる罪人の物語をそなたは覚えておるのか?」

盗賊バク「はい」

王「長くなっても構わぬ。罪人オルゴ・デミーラについて話しなさい」

盗賊バク「はい…ふー。オルゴ・デミーラは祈りの国の神父でした…」

王「なるほど…」

盗賊バク「オルゴ・デミーラは少年愛者だったのです」

王「…」

盗賊バク「聖職についてることを隠れ蓑に、教会を訪れる少年達にゲームを持ち掛け、巧みな話術で少年を意のままにした…」

わんぱくジプ「…」

リヤ「…」

ファズ「…」

王「つづけなさい」
===
神父オルゴ・デミーラ「おや?どうしたのだい?」

少年「友達が本を読みふけっていて、退屈してるのです」

神父オルゴ・デミーラ「それなら私と、秘密のゲームをしないかい?」

少年「秘密のゲーム?」

神父オルゴ・デミーラ「負けた方は秘密を話し、勝った方はその秘密を守ると約束する、誓いを立て合うための聖なるゲームさ…」

少年「秘密を話すの?僕、秘密なんてないよ?」

神父オルゴ・デミーラ「私の方は秘密がある…」

少年「どんな秘密?」

神父オルゴ・デミーラ「私に勝てたら聞かせてあげよう、だけど勝った方はその秘密を守らなければならない」

少年「うん!絶対守る!」

神父オルゴ・デミーラ「はっは、もう勝った気でいるのかい?君は勇敢だなあ」

少年「ねえ!神父様!ゲームには何を使うの!?」

神父オルゴ・デミーラ「カードゲームにボードゲーム、なんでもあるよ。君の好きな物を使おう」

少年「うん!」

神父オルゴ・デミーラ「ゲームが長引いて親御さんが心配するといけないなあ」

少年「大丈夫だよ!夕暮れ前には終わるよね?」

神父オルゴ・デミーラ「夕暮れ前か…そこまで長引いたりはしないだろうね」

少年「ゲームはどこにあるの!?」

神父オルゴ・デミーラ「私の部屋だよ…誰も邪魔したりしない…ついておいで…」

少年「はい、神父様!」
===
ぞっとしているリヤとわんぱくジプ

王「…その先を聞くにはジプとリヤは若すぎるかもしれん」

ファズ「王様!私たち4人はクーの企てた儀式を阻止できなかったのです!この先どんなに残酷な展開が待ち受けようとも、立ち向かわねばなりません!!」

王「しかしの…」

盗賊バク「墓守の子はオルゴ・デミーラの物語を聞いても取り乱したりしません、むしろ少年への性犯罪を防ぐ意味合いで語り継がれている側面もあります」

王「なるほど…ジプ、リヤ、いつそなたらの身に降りかかることかもしれん。少しばかり辛抱なさい」

わんぱくジプ・リヤ「はい…!」

王「バク、続きを」

盗賊バク「はい」
===
少年「わあ!チェスにトランプ!オセロに…これは何?」

神父オルゴ・デミーラ「ジェンガだよ」

少年「ジェンガ!?」

神父オルゴ・デミーラ「組み立てると言う意味が由来になってるそうだ」

少年「ルールを教えて!?」

神父オルゴ・デミーラ「いいとも、まずテーブルの上にブロックを縦と横の交互に組んでいき、タワーを作るんだ、こんな具合にね…」

少年「へえ!僕も積む!」

神父オルゴ・デミーラ「ありがとう、早く始められるよ」

少年「うん!」

===
盗賊バク「まもなくタワーは完成した…」

わんぱくジプ・リヤ(ごくっ…)

王「…」
===
少年「タワーができた!」

神父オルゴ・デミーラ「よおし、はじめようか!」

少年「わくわくする!」

神父オルゴ・デミーラ「私の番から始めよう、順番にブロックを抜き取っていくんだ、そっと…タワーが崩れないよう、静かにね」

少年「…」

神父オルゴ・デミーラ「そして抜き取ったブロックはタワーの一番上に載せる、この時もタワーが崩れないよう慎重に…。載せた」

少年「タワーを崩した方の負け?」

神父オルゴ・デミーラ「そう!そしてこれは秘密のゲームだ!」

少年「負けた方は秘密を話して、勝った方はその秘密を守ると約束する!神父様の秘密を聞きだすからね!」

神父オルゴ・デミーラ「ははは、そんなに簡単に行くかな?」

少年「僕の番!」
===
盗賊バク「少年は嬉々として、しかし慎重にブロックを抜き取り、タワーの上に載せた…」
===
少年「載せた!」

神父オルゴ・デミーラ「お見事、私の番だ…よし、載った」

少年「次はどこを抜こうかな?」
===
盗賊バク「やがてタワーは不安定になってゆき、オルゴ・デミーラの番にタワーは崩れた」

===
神父オルゴ・デミーラ「ああ!!」

少年「やったあ!僕の勝ち!!」

神父オルゴ・デミーラ「くそ~~別の場所にすればよかったなあ…」

少年「へへへっ」

神父オルゴ・デミーラ「…私の負けだ…」

少年「神父様の秘密!聞かせてもらう約束だよ!」

神父オルゴ・デミーラ「勝った方はどうするか覚えてるかい?」

少年「その秘密を守る!」

神父オルゴ・デミーラ「ならば聞いてくれたまえ…神父オルゴ・デミーラが神父になった秘密の理由を…」

少年「神父になった理由…」

神父オルゴ・デミーラ「私は二人そろって教師をしている夫婦のもとに一人息子として生まれた」

少年「へえ、神父様のお父さんとお母さんは先生だったんだ!」

神父オルゴ・デミーラ「うん…二人とも僕より学校で受け持っている子供の方が可愛いようだった…」

少年「え…」

神父オルゴ・デミーラ「そのことを悲しく思ってた僕の雰囲気は暗く、友達なんてできるはずもなかった…」

少年「そんな…」

神父オルゴ・デミーラ「だけど、僕にとって救いだったのは、この国が祈りの国であることだった」

少年「子供の頃の神父様は、どんな祈りをささげていたの?」

神父オルゴ・デミーラ「僕の悲しみは心の悲しみ、どこかの国では食べ物が無くて困っている人がいるかもしれない…どうかその人たちに救いがありますように、と…」

少年「うん…」

神父オルゴ・デミーラ「暗い気持ちをかき消すように、毎日祈りの時間を作るようにしていたんだ」

少年「そしたらきっと、いいこともあったんじゃない?」

神父オルゴ・デミーラ「うん!」

少年「どんなこと!?」

神父オルゴ・デミーラ「天の声を聞いたんだ」

少年「天の声…その声が救いの言葉を投げかけてくださったの?」

神父オルゴ・デミーラ「そうなんだ。今思えば、救いの声を…その声はこう言っていた。祈りの道が、お前の道、大人になっても子供の頃の悲しみを忘れてはなりません。その気持ちは、他者をいつくしむ優しさになるでしょう…と…」

少年「わあ…」

神父オルゴ・デミーラ「僕は両親に神父になる決意を話した、そしたら猛反対されてしまった」

少年「どうして?」

神父オルゴ・デミーラ「両親は僕のことを愛してくれていたんだ、自分たちのように教師に成ってほしいと願っていた、そんなことを言われたから僕の方も怒ってね」

少年「言い返したの?」

神父オルゴ・デミーラ「そう、僕なんかより生徒たちが可愛いんだろう!そう怒鳴りつける自分がいた。そしたら父と母が驚き、とまどった」

少年「それからそれから?」

神父オルゴ・デミーラ「父が僕を怒鳴り返した、そんなわけないだろう!とね」

少年「うん!」

神父オルゴ・デミーラ「僕は一人で勝手に悲しみを作り出していたことに気が付いたんだ、頬から涙が伝うのを止められなかった」

涙ぐむ少年「うん…!」

神父オルゴ・デミーラ「母さんの方は、泣き崩れ、僕に許しを乞うた。そんな思いをさせてたなんて…、気づかなかった母さんを許しておくれ、オルゴ…とね…」

ほほに涙を伝わせる少年「うん…!」

少年の頭をそっと撫でる神父オルゴ・デミーラ「それからの僕に、悲しみは無かった、ただ、祈りがもたらしてくれた自分の物語の続きを、歩んでいこうと思ったんだ…父さんと母さんも少しずつその道に理解を示してくれて…僕はこの教会の神父になれたんだ…」

抱き着く少年「よかった!」

神父オルゴ・デミーラ「物語は時を超えて登場人物の精神性を伝えてくれる…君は僕の秘密を受け取ってくれたんだ」

少年「どうして秘密なの?みんなに話せばいいのに…」

神父オルゴ・デミーラ「純粋な子供にしか、話さないことにしてるんだ…秘密のゲームは、その子が純粋かどうかを確かめるためのものだったのさ」

少年「僕は純粋だったの?」

神父オルゴ・デミーラ「そうとも!また今度ゲームをしよう!」

少年「今日がいい!神父様ともっと遊びたい!」

神父オルゴ・デミーラ「ははは、仕方ない、日が暮れる前にはおうちに帰れるようにね?」

少年「うん!」

===

わんぱくジプ「いい話じゃないか?」

リヤ「だよね…」

盗賊バク「少年と神父はもう一度ジェンガのタワーを積み上げた」
===
神父オルゴ・デミーラ「今度は君の番からだ」

少年「うん!」
===
盗賊バク「今度は少年の番でタワーが崩れた」

リヤ「あ…」

わんぱくジプ「やな予感…」
===
少年「あー!崩れちゃった!僕の負け!」

神父オルゴ・デミーラ「はっは。今度は君の秘密を聞かせておくれよ」

少年「でも…悪いことして怒られた話しかないなあ」

神父オルゴ・デミーラ「じゃあ、私と秘密を作ると言うのはどうだい?」

少年「秘密を作る?」

神父オルゴ・デミーラ「神父の前で、裸になった!って言うのはどうだい?」

少年「服を脱ぐの?」

神父オルゴ・デミーラ「恥ずかしかったらすぐに服を着ればいい」

少年「うん!わかった!」
===
盗賊バク「少年は惜しげもなくシャツもズボンも下着も脱ぎ捨ててしまった…」

リヤ「あわわ」

わんぱくジプ「やばくなってきた…」
===
少年「じゃーん!すっぱだか!」

神父オルゴ・デミーラ「ははは、僕に見られて嫌な気持ちはしないかい?」

少年「しないよ!」

神父オルゴ・デミーラ「そうか…君はほんとに純真だ…」

少年「神父様…」

神父オルゴ・デミーラ「服を着せてあげよう」

少年「もういいの?」

神官オルゴ・デミーラ「そうだね、少し早いが、今日はもう帰りなさい…」

少年「下着は自分で穿くよ」

神官オルゴ・デミーラ「うん」
===
盗賊バク「服を着せてもらった少年は神父に言った」
===
少年「神父様、またゲームをしてくれる?」

神父オルゴ・デミーラ「毎日という訳にはいかないが…さみしくなったらくるといい、都合が合うときは必ず歓迎するよ…」

少年「うん!またね!神父様!」

===
盗賊バク「その日はそれで終わった…が、少年は再び神父のもとを訪れてしまう」
===
少年「神父様!今日はどう!?」

神父オルゴ・デミーラ「やあ!今日は都合がいいよ!」

少年「やったー!」
===
盗賊バク「そして神父はゲームで負けた少年に次の秘密を作ろう、と持ち掛けた」
===
少年「また裸になればいいの?」

神父オルゴ・デミーラ「そうだな…じゃあ今度は裸になった君の胸に手を当てさせてくれ」

少年「いいよ!」
===
盗賊ジプ「そうして、裸になる少年への行為は徐々にエスカレートしていった」

緊迫した顔のリヤ「…」

同じくわんぱくジプ「…」
===
少年「ねえ、もうゲームはいいよ」

神父オルゴ・デミーラ「そうだね、秘密と言えど、こんなことするのもおかしい」

少年「ううん、そうじゃない、もっと神父様に優しくされたい…」

神父オルゴ・デミーラ「ああ…いいとも、君の胸にキスをさせておくれ…」

少年「うん…して…?」
===
リヤ「自分から行くようになっちゃった…」

わんぱくジプ「まずいって!」

盗賊バク「しばらくはそれが続いた。がある日、神父の方が少年に尋ねた、舐めてみてもいいかい?と」
===
少年「うん…」

神父オルゴ・デミーラ「いやな気持ちになったらすぐに言うんだよ?」

少年「ふふ、くすぐったい!」

神父オルゴ・デミーラ「嫌かい?」

少年「平気だよ…」
===
盗賊バク「そして、ついには股の性器を舐められる少年…」

リヤ「…!」

わんぱくジプ「耐えろ、リヤ…」

盗賊バク「神父に心を開いていた少年もさすがに疑問を持ち始めた、これは、悪いことなのではないか?と」
===
少年「神父様、これは悪いことではないのですか?」

神父オルゴ・デミーラ「そんなことはないよ…」

少年「でも僕、変な気持ちになるんです…」

神父オルゴ・デミーラ「誰もが通る道さ、大人になるためにね」

少年「大人になるため…?」

神父オルゴ・デミーラ「君が感じているのは、気持ちよさだろう?」

少年「大人はみんな、この気持ちよさを知っているの?」

神父オルゴ・デミーラ「そうさ、人はこの気持ちよさを通して生まれてくるのだよ…」

少年「性行為のことですか…?」

神父オルゴ・デミーラ「よく知っているね…そこまで知っているのなら…君は精通を迎えても構わないのかもしれない」

少年「どうするんですか…?」

神父オルゴ・デミーラ「その気持ちよさを頂点まで高めようと言うのだ」

少年「こ、こわいです!」

神父オルゴ・デミーラ「身をゆだねるのです、気持ちいいだろう?」

少年「ですが!ですが…!」
===
盗賊バク「やがて少年は快楽の頂点を覚えた…そして神父は言った。またおいで。と。少年は快楽を忘れられず罪悪感を抱きながら何度も神父のもとへ足を運んでしまう。しかしある日事件が起こった」

わんぱくジプ「発覚か!?」

リヤ「つづきを!」

盗賊バク「神父が少年を舐め回していた時、神父の部屋の扉が開いた」
===
少年「!!」

神父オルゴ・デミーラ「おや…」

少年の友達「アル!」

少年「エド…!」

神父オルゴ・デミーラ「勝手に入ってくるなんて無礼ですよ?エドくん?」

アル「エド…これは、これは…!」

エド「アル、心配するな…お前を軽蔑したりはしない」

アル「う、うわああああ」

エド「アル!こっちにこい!オルゴさん、こんなことして許されると思ってるのか?」

アル「エドも…ゲームを?」

エド「俺は秘密のゲームとかいうのに負けなかった。負けたら何をされるのかと思っていたが…こういうことだったんだな!」

神父オルゴ・デミーラ「君は疑い深かった…純真とは言えないねえ」

エド「言葉巧みにアルに快感を覚えさせたな!?お前がしてるのは性教育ではない!性虐待だ!ただじゃすまないぞ!!」

神父オルゴ・デミーラ「いいふらすがいい、だがそれはゲームのはじまりを意味する…」

エド「この期に及んでまだゲームをしたがるか!」

神父オルゴ・デミーラ「これから始まるのは遊びのゲームではない…闇のゲームだ」

エド「ふざけるな!つきあう訳が無いだろう!」

神父オルゴ・デミーラ「ルールは簡単だ、お前は大人たちに見たままのことを話す、最初のうちは誰も信じない、やがて信じてくれる者が現れるだろう。だがその者もまた教会の尊厳を汚すことに恐怖する!人の心の闇をお前は知ることになるだろう」

エド「いいだろう。告発は免れないぞ、覚悟しておくんだな。アル、服を着ろ!帰るぞ!」

アル「うん…」

神父オルゴ・デミーラ「このゲームで重要なのは順番だ。順番を間違うごとにお前の心も闇に染まっていき、やがてその正義感を忘れてしまうだろう」

エド「この怒りを誰が忘れるものか!アル!お前から出ろ!」
===
盗賊バク「扉は勢いよくしまった。」

わんぱくジプ「よし、エド!頼んだぞ!」

リヤ「たのもしい友達だ!」
===
アル「エド…僕…僕…」

エド「自慰くらい俺だってするよ」

アル「そっか…」

エド「問題なのは告発の方法だ、たしかにこの祈りの国でもっとも権力を持つのは教会!アル、お前の両親は序盤で真実を話す相手じゃない、わかるか?」

アル「言えないよ…」

エド「いつかは知られることになる!大スキャンダルだ!」

アル「やだよ、あんなことされてたの知られるの…」

エド「弱気になるな!負けはしなかったが俺も秘密のゲームとかいうのをやりはした。つまり被害者はお前だけじゃない可能性があるってことだ!」

アル「みんな、口をつぐんでるのかな…」

エド「被害者同士が結束して口をつぐむことを誓い合ったりしたらまずい!だから俺が告発のために動き回ることを友達に知られないようにしないと…」

アル「エドまで隠し事しなきゃなんないの?」

エド「闇のゲームか…くそ、絶対告発を成功させてやる!」
===
盗賊バク「アルが教会を訪れることはなくなったが、戦いの結末でもう一度だけ足を運ぶことになる」

わんぱくジプ「よし、エドとアルが邪悪な神父と対決する物語に切り替わった!」

リヤ「エドー!絶対勝てー!!」

王「…」
===
エド「おかしな子供が教会の評判を落とそうとしてると噂が立ってるみたいだ」

アル「そんな!エドのことなの?」

エド「そうらしい。序盤は誰も信じちゃくれない。告発のセオリーだ、心配するな」

アル「いままでどんな人たちに神父の真実を話したの?」

エド「うん、状況を整理するか、最初は風俗街に行った」

アル「子供の行くとこじゃないよー!」

エド「だからこそだ!風俗嬢たちは性にまつわる仕事をしてる!子供の頃に同様の被害に遭ってたらば絶対信じてくれると思ったんだ!」

アル「女の子の方がああ言う目に遭うことが多いのかな」

エド「同性愛者はクラスに一人と言われている、あの神父の性癖のことなど考えたくもないが、そうだと言える」

アル「神父様って同性愛者なの?」

エド「難しい質問だ、少年を標的にしてるなら少年愛者とでもいうべきなのか…ってかあんな神父に様を付けるな!」

アル「うん…オルゴ神父はどこで道を踏み外しちゃったんだろう…」

エド「2丁目に行ってみるか」

アル「同性愛者の集まるという?」

エド「そうだ、アル、お前の役目は俺の報告を待つこと!下手に動くなよ?」

アル「わかった!」

エド「よし、行ってくる」
===
盗賊バク「エドは同性愛者たちから歓迎されなかった」
===
アル「エド?」

エド「同性愛と少年愛は違うって突っぱねられたよ」

アル「違うんだ」

エド「考えてみればそうだ、子供には自らの性を売り物にする権利なんてない」

アル「売り物だなんて…」

エド「そんなつもりで言ったんじゃない、子供と性的な接触を持つことができる立場は限られてるってことだ」

アル「そんな!神父様があんなことをするために神父になったって言うの!?」

エド「様を付けるな!…お前、秘密のゲームに勝ちはしたんだろ?」

アル「最初は勝った」

エド「そこでオルゴ神父の神父になった理由を聞いた」

アル「あれが嘘なわけないよ!」

エド「何を根拠にそんなことを言うんだ!俺ははなから臭い気がしたぜ!?」

アル「オルゴ神父の神父の道を選んだ理由は本当で、何かがこんがらがってああなってしまったんだよ!」

エド「…まあそういうことにしといてやる」
===
盗賊バク「エドはアルの信頼を失うことを恐れた」

リヤ「エド…」

わんぱくジプ「雲行きが怪しくなってきた…」
===
エド「くそ!!状況が進展しない!!」

アル「でも少しずつ噂は広まってる」

エド「だけどみんな俺の方が狂ってると思ってる」

アル「告発は成功するよ!エドが泣き寝入りしてる被害者たちを救うんだ!!」

エド「俺か?」

アル「え?」

エド「俺が、順番を間違えたのか…?」

アル「エド、しっかりして!エドはしっかり考えて行動した!」

エド「順番を間違うたびに、俺の心は闇に染まる…あの神父はそう言った…」

アル「エド!」
===
盗賊バク「アルは泣きながらエドを励ました」

リヤ「…」

わんぱくジプ「…」
===
アル「君は僕を助けようとしてくれたんだ!その心が闇に染まるはずがない!」

エド「何かを得れば、何かを失う…俺は…お前の信頼を失うのが恐くて、正しい順番を選べなかったのかもしれない…」

アル「エド、もういい!君は戦い抜いたんだ!」

エド「だけど…アルを救うことができなかった…」

アル「うわあああああああああああああああああエドおおおおおおおおおおおおおおおおお」
===
リヤ「エド…エド…!」

わんぱくジプ「くっ…!」

盗賊バク「一週間後のことだった…オルゴ神父が箒を持って教会を掃き清めていた、そこへ一人の少年がくたびれ果てた様子で現れた」

リヤ「エド?アル?」

わんぱくジプ「まさか!どっちでも嫌だ!」
===
神父オルゴ・デミーラ「やあ、エド君!」
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リヤ・わんぱくジプ「うわーーーーーー!エド―――――!!」
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エド「…」

神父オルゴ・デミーラ「ゲームが終わったようだね?」

エド「今までも、お前の言う、闇のゲームに負けた者はいたのか…?」

神父オルゴ・デミーラ「いたとも…、こんなゲームにはなから勝ち目はなかったんだよ…エド…君は負けたんじゃない!数式を解いただけだ!その数式の解を、君は身をもって味わったんだよ…」

エド「心がボロボロなんだ…もっと慰めてよ…神父様…」

神父オルゴ・デミーラ「…いいとも…」
===
リヤ「いやだー!」

わんぱくジプ「エドー!目を覚ませー!」

盗賊バク「導かれるままにエドは神父の部屋へ入った、この物語に救いがあるとしたらば、聖職者である神父の部屋には鍵が設置されていないことだった…」

わんぱくジプ「そうか!アル!」

リヤ「今度はアルがエドを救うんだ!」
===
神父オルゴ・デミーラ「服を脱ぎなさい。エド。」

エド「はい…」
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盗賊バク「シャツ、ズボン、下着、1枚1枚を力なく脱ぎ捨てるエド…神父は欲情した」
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神父オルゴ・デミーラ「こんな気持ちは私の方も初めてだよ、エド…今の君は…美しい…」

エド「心って、どこにあるのかな?」

神父オルゴ・デミーラ「胸ではないか?」

エド「そっか…胸か…」

神父オルゴ・デミーラ「君の胸にできた見えない傷を、私が舐めてあげよう」

エド「うんっ…!そうして?神父様」

神父オルゴ・デミーラ「はじめようか、エド…」
===
盗賊バク「ついにエドの胸の中央を神父の舌が這い上がったその時!扉が勢いよく開いた!」
===
バン!

神父オルゴ・デミーラ「!!」

エド「オルゴさん、あんたどうみても舐めてるよな?俺の心」

アル「見たぞ!!」

記者A「神父が少年を!」

記者B「裸にして胸を舐めている!」

記者C「性虐待だ!!」

思想家「教会の威を借る神父の実態を見たり!」

神父オルゴ・デミーラ「なんだ貴様らは!?」

エド「風俗嬢から話を聞いた記者と思想家たちが結託してくれたのさ!俺の選んだ順番は!間違っちゃいなかった!!」
===
リヤ・わんぱくジプ「わーーーーー!!」
===
アル「エド!こっちへ!」

神父オルゴ・デミーラ「くくく、結託?笑わせてくれるなあエド、アル…」

エド「お前は社会的に死ぬことになるぜ?俺にはない影響力をこの人たちは持っているんだ!その力を借りることに成功した!!お前の始めた闇のゲームの勝者は俺だ!!」

神父オルゴ・デミーラ「はっはっは!」

エド「狂ったか…!」

神父オルゴ・デミーラ「狂ってなどいない、私は正気だ、お前が正気だったようになあ。ここからは影響力の勝負ということだ!」

エド・記者A「なんだと!」

神父オルゴ・デミーラ「試してみるのも面白い。あやふやな子供の性を取り巻く環境の問題とこの祈りの国の権力が教会に集中している問題!秤にかけてみようとお前たちは考えているのだ!狂ってるのは貴様らだ!」

思想家「ぐう!」

エド「違う!惑わされるな!この国にあるのはありのままの現状だ!概念を切り取って秤にかけるのは呪術に過ぎない!」

アル「そうだ!神父のあなたが呪術を使うのか!」

神父オルゴ・デミーラ「ふん、神父の肩書など仮面にすぎぬ」

アル「ならば、せめて、教えてください。あなたが語ってくださった神父になった理由…あれは嘘だったのですか?」

エド「!アル!」

神父オルゴ・デミーラ「なぜ私が神父になったか…くくく」

アル「どうなんですか!!」

神父オルゴ・デミーラ「私が神父になったのは少年を裸にして舐めまわすためさ!!天の声など聞いておらぬ!!祈ってなどいなかったのだからなあ!!」

アル「嘘だったんですね…」

神父オルゴ・デミーラ「両親が教師だったというのは本当さ。そして実の子である私より生徒たちを可愛がっていたのもなあ!!」

エド「それが本当だと言うなら問いが一つ立つな」

神父オルゴ・デミーラ「問いだと?」

エド「お前は両親に対峙し、生徒と自分、どっちを愛しているか問うことができたのか?」

神父オルゴ・デミーラ「ぐ!!」

エド「両親がお前を愛していたかどうか!!真実を闇に葬ったのはお前だ!」

神父オルゴ・デミーラ「なんだとおお!お前に何がわかる!?私の孤独のなにが!!」

エド「貴様の孤独?ふん、友人を数えもしなかったんじゃないか?」

神父オルゴ・デミーラ「ふっ…私の負けだ」

エド「…」

アル「エド…!やった!」

エド「勝った…教会の神父が仕掛けてきた闇のゲームに勝った!」

思想家「教会に司法が介入することになる」

神父オルゴ・デミーラ「…わたしは教会に集中していた権力を分散させてしまったわけだ…」

記者A「余罪があるのだな!?」

神父オルゴ・デミーラ「そうとも…何人の少年を手にかけたか…そんなのは数えてはおらぬ…裸にして、私の舌を這わせた少年たち…エド…貴様の体にも私の舌が少し這い上がったな…?」

エド「ふん、屁でもない」

神父オルゴ・デミーラ「どうかな?エド。お前は穢れを背負ったのだ、そしてアル。君もなあ」

エド「アル」

アル「大丈夫」

神父オルゴ・デミーラ「誰も性欲には逆らえぬ!アルよ!お前は性欲を解消する度に穢れと戦うことになるのだ!!私の舌で絶頂を迎えた記憶となあ!!」

記者A「こいつ…!」

アル「嫌だ…」

エド「アル!しっかりしろ!」

神父オルゴ・デミーラ「エド…お前に呪いをかけることが叶わなかったのが心残りだよ…くくく、はっはっはっは」

アル「嫌だ…嫌だ!!」

エド「アルに呪いをかけたな…ゆるさねえ!」
===
盗賊バク「エドは神官に向かって駆け出した!」

リヤ「行け!」

わんぱくジプ「呪いなんてどうすんだ!?」
===
エド「貴様が物語の力を使うなら、同じ物語の力を使うまでだ!!」
===
盗賊バク「神官の首からぶら下げられたものをエドは奪い取った!」
===
神官オルゴ・デミーラ「私のナイフをどうするつもりだ!!」

エド「これはただのナイフじゃねえ!!裸の少年が神官から奪い取った…」
===
わんぱくジプ・リヤ「…!!」
===
エド「聖なるナイフだ!!」
===
わんぱくジプ「!!」
===
神官オルゴ・デミーラ「ぎゃあああああああああああああああああ」

アル「エド…!」
===
盗賊バク「エドは神官の左胸に聖なるナイフを突き立てていた…」

わんぱくジプ「聖なるナイフ…」

リヤ「ジプが選んだ武器だ!!」
===
記者A「やったか…!?」
===
盗賊バク「神父オルゴ・デミーラは痙攣していたが、誰も助けようとしなかった。そして、まもなく動かなくなった」
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エド「…人を殺しちまった」

アル「エド!」
===
盗賊バク「駆け寄ったアルが裸のエドを抱きしめた」
===
アル「ありがとう…ありがとう…!!僕のために!!」

エド「アル…」

思想家「お咎め無しじゃろう」

記者A「ありのままに伝えて見せます」

記者C「邪悪な神官、少年の聖なるナイフによって死ぬ!!」

記者B「見出しはもっと慎重に考えねばならんよ君!!」

エド「みんな…」

アル「エド!大好きだ!」

エド「よせよアル…っきし!」

アル「風邪ひいても僕が看病するから大丈夫だよ」

一同「ははは」

エド「まいったな…」
===
盗賊バク「その場に居合わせた記者と思想家は尽力し、聖職者による子供への性虐待が問題となり、祈りの国の教会の権力は司法と王族とに分立されることになった。そして、神父の役職を無いものとされたオルゴ・デミーラの遺体は死の国へ運ばれ…粉微塵に爆破されましたとさ…」

わんぱくジプ「あ…」

リヤ「僕たちの物語に続いちゃった…」

王「バク、よく語ってくれた。今日のところは4人とも休むのじゃ」

盗賊バク「ふう…」

ファズ「バク殿、ありがとうございます」

盗賊バク「風呂にでも入りたい気分だ」

わんぱくジプ「よし、夕食の前にひとっ風呂浴びよう!」

リヤ「あ!」

王「どうしたのじゃ?リヤ」

リヤ「お昼に家に帰るの忘れてた…!!母さんに叱られる!」

一同-ファズ「ははは」

王「伝令の者を遣わせよう。今日は泊っていきなさい」

わんぱくジプ「バク!風呂はあっちだ!」

盗賊バク「盗賊と一緒に城の風呂に入る王子がいていいのか?」

リヤ「仲間だもん!役職は関係ないよ!」

ファズ「…」

リヤ「ファズさんもおいでよ!」

ファズ「は…」

観客(ざわ…)
===

僕たちはお城のお風呂に向かった!だけど…

観客「…」

それは、憲兵ファズとの別れのはじまりであることを、僕も、ジプも、バクもまだ知らなかった…

観客「なんだって?」「ファズがパーティを離脱する?」

ジプ「そんな…」

つづく