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仮想通貨が送れなくなる日が来る?

ご挨拶

初noteです。

まず簡単に自己紹介から。私は銀行員として外国送金等の外国為替取引に携わっています。皆さんと同様、仮想通貨に興味をもち、いろいろなニュースやデータを見ては一喜一憂する日々を過ごしています。

今回このような記事を書いたのは、仮想通貨の分野でも、ここ1,2年でマネー・ローンダリング対策の必要性が叫ばれる一方、この話題が重要性のわりに気に留められていないと感じているからです。確かにこういった話はつまらないですよね。でも近い将来、皆さんの投資戦略に必ず影響を及ぼすと思っています。それでは本題に入りましょう。

仮想通貨が送れなくなる日が来る?

さて、もう一年以上前ですが、国際的な機関であるFATFが仮想通貨取引所による仮想通貨の送金について、銀行並の規制を勧告したとのニュースが話題になりました。

このニュースを受けた私の予測が本noteのタイトルである「仮想通貨が送れなく日が来る」です。

銀行レベルのマネー・ローンダリング対策が必要とされた場合、仮想通貨の送金が不可能になる。もちろんこれは極論なので、ここまで厳しい措置は取られないでしょう。しかし、国内取引所から多くの海外取引所へ送金ができなくなる。これくらいのことは十分起こりうると考えています。それも、近い将来に。

それでは、なぜ銀行並みのマネロン対策が取られると、海外取引所への送金ができなくなるのでしょうか。それを知るためには、まず銀行の外国送金がどのような仕組みで行われているか、どのようなマネロン対策が取られているかを知る必要があります。

銀行の外国送金の仕組みとマネロンチェック

銀行の外国送金は、銀行間での電文のやり取りにて行われています。よく耳にするSWIFTというやつですね。SWIFTにより相手の銀行に決まったフォーマットの電文を送ることにより送金内容を伝えています。その内容は主に、

・通貨

・金額

・依頼人名、依頼人住所

・受取人名、受取人住所

・受取の口座番号

・送金目的

といったところでしょうか。そしてこれらの情報が入力された電文を送受信する際、電文上にテロリストや色々な国・機関のブラックリストに載っている人物名が入っていないかをシステム的にスクリーニングしています。

ほかにも、「取引金額が異常に大きい」、「取引頻度が異常に多い」、「現金での送金」等さまざまな観点から、マネロンの疑いがある送金をチェックしています。おそらくですが、現在仮想通貨取引所で行われているマネロンチェックといえば、こちらのチェックになるのではないでしょうか。

仮想通貨取引所による送金

それでは、仮想通貨取引所による送金はどのように行われているでしょうか。これは皆さんよくご存じかと思いますが、送金の際に必要なのは、

・仮想通貨の種類(通貨)

・枚数(金額)

・送付先アドレス(口座番号)

この3つだけです。非常にシンプルですね。

さて、ここで銀行の外国送金に必要な情報と比べてみましょう。仮想通貨の種類、枚数、送付先アドレスは外国送金における「通貨」、「金額」、「口座番号」にあたります。しかし、仮想通貨による送金では、外国送金の際に必要だった「依頼人名、住所」、「受取人名、住所」、「送金目的」にあたる情報がありません。ここがポイントです。

依頼人情報と受取人情報がないと何が問題なのか

銀行のマネロンチェックでは、電文上にテロリスト等の氏名が含まれていないかスクリーニングを行っていると説明しました。要はこれができないんですね。外国送金におけるマネロンチェックにおける一番重要なチェックが仕組み上かけられない。これでは、銀行と同水準のマネロンチェックは絶対にできません。そのため、冒頭のツイートの「銀行レベルのマネー・ローンダリング対策が必要とされた場合、仮想通貨の送金が不可能になる」と投稿したわけです。

また、冒頭でも登場した世界各国のマネロン対策の取組状況を評価する機関であるFATFは以下のように今後、受取人情報を送受信する必要があることをはっきりと述べています。

(b) R.16 – Countries should ensure that originating VASPs obtain and hold required and accurate originator information and required beneficiary information2 on virtual asset transfers, submit the above information to beneficiary VASPs and counterparts

FATFについては一般的な知名度は低いですが、非常に強力な機関です。過去には日本も厳しい評価を受け、その影響で「犯罪収益移転防止法」を施行、改正するなどしており、FATFの勧告は一国の法律を変えうる程の影響力を持っています。そのためFATFが迫る通り、銀行並みのマネロン対策を講ずることは必須なわけです。

仮想通貨界隈の最近の動き

それでは、上記のような動きをうけ、仮想通貨取引所はどのように動いているのでしょうか。このあたりは専門外なのですが、Coin Postさんが以下の記事を出していました。

直近では、VASP間の情報共有のための通信規格「IVMS101」が新たにリリースされている。 開発は、デジタル商工会議所(CDC)、グローバル・デジタル・ファイナンス(GDF)、国際デジタル資産交換業協会(IDAXA)などが参加する「VASP間メッセージング規格のためのジョイントワーキンググループ(IVMS)」が行った。

また、国内取引所の取組みとして以下のような記事も出ています。

https://coinpost.jp/?p=112414

1.送金側VASPと受取側VASPは、独自のアカウントでKYCを実行して個人識別情報(PII)を検証可能
2.取引時に、送金側VASPと受取側VASPは暗号化されたSygna Bridgeを介してPIIの検証情報を交換
3.また、VASP間で送金者および受取者の情報を履歴として保持するよう要求する
4.Sygna BridgeはPIIの交換、保持または記録を一切行わず

これらの記事を見る限り、今後は仮想通貨の送金とは別に顧客情報の交換が行われていくようです。つまり、取引所が仮想通貨の送金を行う際、今のトランザクションはうちのお客さんの誰々から、そちらのお客さんの誰々あてですよ、ということを送金とは別の手段で伝えるということです。

ただし、この方法には一つ大きな前提として、お互いの取引所が顧客の本人確認を厳格に実施している必要があります。いくら送金人と受取人の情報交換を行ったところで、その情報がウソであれば意味がないですからね。

仮想通貨を(どこにでも)送れた日は過去のものになる

上記の流れが進み、今後は本人確認を厳格に行っていない取引所への送金ができなくなる可能性というのは心の片隅に置いておくとよいのではないでしょうか。FATFが勧告を行っている以上、遅かれ早かれ世界中の取引所が本人確認情報の交換を始めることは間違いありません

そうなった場合は、ある意味本人確認を緩く行っていることで、世界中の投資家を集めている取引所へは他の取引所から送金ができなくなります

パスポートを持った自撮り写真の送信でアカウントが作れてしまうような取引所はまともに本人確認を行っているとは言えません。まずはそういった取引所への送金はごく近いうちに難しくなるのではないでしょうか。

昔からの仮想通貨ファンの方の中には、このような規制にがんじがらめにされた状況は受け入れがたいものがあるのかもしれませんが、仮想通貨がより広く受け入れられ、より多くの投資家を集める上では、この流れは決してマイナスのものではないでしょう。

また、外国送金を取り扱う銀行員としては、銀行並みの規制が課せられた際に、今まで通り「早く」「手数料が安い」ままでいられるのか、お手並み拝見といった少し意地の悪い楽しみがあることも付け加えておきます。

今後、本人確認を交換するシステムを導入した場合、そのイニシャルコストやランニングコストはどのように負担されるのでしょうか。手数料を上乗せするのが一番手っ取り早い方法です。

また、顧客情報の交換が必要となった場合、今までのような速度で入金ができるのでしょうか。従来と比較し一手間増えることで、入金速度は遅くはなっても早くなることはないでしょう。

以上とりとめのない文章となりましたが、少しでもみなさんの参考になれば幸いです。それでは。

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