短編小説(雑誌掲載作品)『紅筋の宿』
1 過ち 梅雨明けの炎天下、寂しい田舎道を男が歩いている。薄紫のポロシャツにジーンズ、黒革のショルダーバッグを斜にかけた姿は颯爽としているが、山に囲まれ一向に変わらぬ景色の中を、数歩行っては立ち止まり、黒いキャップをかぶった頭をきょろきょろとさせているのは、道を誤ったのである。
男は集落のとっかかりにある神社の境内まで来ると、由来板をざっと読んでから、その脇にある大石に腰を下ろした。胸ポケットから携帯電話を取り出して、午後4時を回っていることを知るが、予約した旅館に電話をし