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猫と義兄

 5匹の元野良猫と下町に暮らしている。
いま、そのうちの1匹は目には見えない。

 脳障害のある義兄がいる。
中学生の時に脳梗塞を起こし一命を取り留めたものの、脳の損傷による高次脳機能障害と器質性精神障害を抱えている。

 義兄に脳障害があることが分かったのは、彼が47歳の時、自宅で病死した父の遺体を8日間放置した、死体遺棄の容疑で逮捕されたことがきっかけだった。

 我が家の猫たちは、すべてが何かしらの身体的な障害もしくは基礎疾患を抱えている。出会った時に既にそうだった者、共に暮らすようになってからそれが分かった者など様々だが、彼らを見ていると美しさと完璧さは必ずしも符合するものではないことに気付かされる。

 猫と義兄。
二つの存在はゆっくりと時間をかけながら、自身を取り巻く世界の姿、それとの関わり方を変容させていった。

長い道を歩いていてふとふり返ってみると、通り過ぎたところがまったくあたらしい景色として見える場合がある。

平出隆『遊歩のグラフィスム』

 彼らを通して直面した出来事の数々は、非常に珍しいケースだと言えるかもしれないが、一方で、誰にでも起こり得ることだとも思う。
ここに記すことは、個人的な体験に基づく日々の断片だが、同じような状況にある人へ、ひとつの事例として伝えることができればと思う。

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