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アラ古希ジイさんの人生、みんな夢の中 フィリピン編⑭ 断末魔の叫び

今回は、フィリピンの料理とそれにまつわる悲しいお話。
 
結論から申し上げると、フィリピンに美味い料理はなかった。
3食とも米飯が基本で、米の飯に合う様々な料理が作られる。
暑い国の料理は辛い、が多いが、それほど辛くもない。
豚肉を炒めた「アドボ」とか、カレーに似た「カレカレ」などが一般的である。どれもそれなりに食べられるが、積極的に注文する気になれない。
 
そんな中で代表的なものが 「シニガンスープ」である。タマリンドという香辛料が.入っており、ブルブルっと寒気がするくらい酸っぱいが、慣れると病み付きになる。ニシンに似た魚やオクラ・トマト等が入っている。我々の寮でも、メイドがよく作ってくれて出た。魚の代わりに、豚肉や鶏肉も使われ、言わばおふくろの味になっている。あの酸っぱさも、暑さに負けない為に必要なのだろう。
その他、お祝い用として子豚の丸焼き(レチョン)がある。よくお祝いパーティで戴いた。宮廷文化が栄えた国の料理はタイを含めて昔から凄いが、フィリピンではその意味でも育たなかった。そんな中、パーティや内輪の宴会では、中華、チャイニーズレストランを使う機会が多かった。やはり、中国料理は偉大であり、安心して飲み食いできる。
 
沖縄に居た時も、沖縄料理に感動はなかった(唯一大好きだったのは、タコスでした)。しかし、3年半居たせいなのか、日本料理に共通する何かがあるせいなのか、ゴーヤチャンプルーやニンジンシリシリや豆腐ようやカラス豆腐などが、今でもときどき食べたくなる。しかし、シニガンを含めて、フィリピン料理を食べたいとは、残念ながら思わない。 
 
続いての話、まずは、もの悲しい歌から始まる。
ドナドナ (作詞:アーロンゼイトリン、訳詞:安井かずみ)
1. ある晴れた昼下がり 
  市場へ続く道 
  荷馬車がゴトゴト 子牛を乗せて行く 
  可愛い子牛 売られてゆくよ
  悲しそうな瞳で 見ているよ
  ドナ ドナ ドナ ドーナ 子牛を乗せて
  ドナ ドナ ドナ ドーナ 荷馬車が揺れる
【English】 On a wagon bound for market,
 There's a calf with a mournful eye.
 High above him there's a swallow,
 Winging swiftly through the sky.
 How the winds are laughing,
 They laugh with all their might,
 Laugh and laugh the whole day through,
 And half the summer's night.
 Dona dona dona dona Dona dona dona down,
 Dona dona dona dona Dona dona dona down,

さて、今回の悲劇の主人公は、子牛ではなく、ブタ、それも子ブタではなく、成育したブタである。トイレの話で出てきたように、フィリピンではブタを飼っている農家が多い。世界では中国が圧倒的だが、アヒルや鶏に比べてもフィリピンではブタが多い。
そして、工事現場サイトの寮の部屋で、何度もブタの、断末魔のような叫びを聞いた。自分が部屋に居た時間なので、土日の日中だと思うが、突然、
ブヒーーーーーッ!!! ホントに長く悲しい叫びだった。駐在した間、何回も聞いた。ブタが肉屋に売られる日、引き立てられる時、まるで知っているかのようにモノ凄く嫌がって、悲しく、尾を引くように泣くのである。
自分たちはおそらく直線距離で100m以上離れていて、何の臭いもしないけれど、飼い主も、嫌がるブタを引き出すのに、往生しているのが分かるほど、ブタは泣き続け、治まる気配を見せなかった。ブタは、犬並みに頭が良いと言われるので、かつて売られて行った仲間を見て学習するのだろう、と思った。日本でブタの悲鳴を聞いたことはないけれど、多分きっとあるのだろう。ブタ以外もあるかもしれない。
 
我々の食卓は、こういう悲劇により支えられていることを、忘れてはいけない。

今回の二首
箱舟に袋も豚も投げ入れて 落ちた豚は黄河を泳ぐ  土屋文明

しもやけの小さき手して 蜜柑むく 我が子しのばゆ 風の寒きに
                         落合直文

シニガン
クノールのシニガンスープの素
子ブタの丸焼き

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