禍話「きんようび」
みなさんは、こっくりさんってご存知ですか。したことない方も今は多いとは思うんですけどね。
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「先生、どうしよう…」
学校の先生のところに、生徒が数人、泣きながら相談にきた。
「どうした?何かあったのか?」
「こっくりさんをしてたんです」
「こっくりさん?今時?」
生徒は、ホラー映画で観たのを真似したらしい。
「大体、こっくりさんって成功しなかったり、めちゃくちゃな言葉になったりするって観たんだけど、こっくりさん、ずっと同じことしか言わなくて…怖い」
「なんて言うんだ?」
「『きんようび』って」
「きんようび?金曜日って何」
「だからそれが分からないんです。こっくりさんこっくりさん、いらっしゃいましたら、はいのところにー、で『はい』に動いたんで、来た!と思って質問したんですけど、どんな質問をしても『きんようび』しか言わなくて。『◯◯ちゃんは誰が好きですか』って聞いても『きんようび』。別の質問をしても『きんようび』。『きんようび』『きんようび』って、全部の質問に金曜日としか答えないんですよ」
「おー。今日、水曜日なのになぁ」
「金曜日に、何か起こるのかなぁ」
生徒が不安そうに言う。
「考えすぎじゃないか?一応さ、校則には書いてないけど、そういうのやらない方がいいと思うよ。自己暗示にかかってるんだよ。それか、お前らの中の誰かがわざと動かしてるか、だな」
「そんなことないです…」
真剣そうな生徒たちの顔つきから、嘘をついてるというわけでもないのか、と先生は思った。
「お前ら自己暗示にかかって、怖いことが起きたらいいなって思って結びつけてるんじゃないか?ま、深く考えるなよ。な」
「はーい」
翌日、木曜日。
「先生」
昨日来ていたのと同じメンツだ。
「あのー、今日も一応こっくりさんしてみたんですけど、『きんようび』しか言わない…」
「何で一応やったんだお前ら…」
「今日、違うこと言ってくれたら大丈夫かと思って…」
先生にもその気持ちは理解できた。
「今日もやっぱり『きんようび』しか言わないんです…」
「大丈夫だって。金曜日に誰か死ぬって言われたわけでもないだろ?大丈夫だよ、帰れ帰れ、大丈夫だよ」
「明日、朝起きて死んでたらどうしよう…」
「まぁ明日死んでたらもう悩まなくていいからさ」
「あー、そっかそっか」
先生のよくわからない宥め方によくわからない納得の仕方をして、生徒たちは帰っていった。
先生は少し気になったので、他の教師にもその話をしてみたが、
「いやーそういうのは聞いたことないですね」
と返されるだけだった。
「迫真の演技で、誰かが怖がらせようと動かしてるんでしょう。何も起きませんよ」
本気にしている同僚はいないようだった。
翌々日、金曜日。
「何もなくてよかったー」
「朝、目覚めなかったらどうしようかと思ったよ〜」
「じいちゃんばあちゃんじゃないんだから。ほら、大丈夫だって言ったろ?」
「遠足と同じで、家に帰るまでが金曜日だから…」
「ちょっと違うけどな…。まぁ、みんな気をつけてなー」
ひとまず、何事もなかったようだ。みんな元気になったようでよかったと先生も少し安堵した。
生徒たちが下校してひと息ついた頃、先生の携帯が鳴る。
先生の奥さんからだ。
「もしもし、どうした?」
「突然ごめんね、実は私のお兄ちゃんが死んじゃったの。交通事故で、トラックにはねられたって」
「えっ…そうか。それで、これからどうする予定?」
「とりあえず、お通夜が◯日でお葬式が△日だからわたしは先に向かうわ…」
「そうか、わかった。俺も準備してすぐ向かうよ」
電話を切ると先生の背後で、
「だから言ったのに」
と女性の声がした。
先生が驚いて振り向くと、同僚の女性教師がいたのだが、その同僚はコーヒーをぐびぐび飲んでいる最中だった。先生が急に振り向いたので同僚も怪訝そうな表情をしている。念のため聞いてみる。
「何か今、言いました?」
「え、言ってないけど」
「そうですよね…」
先生が忌引でしばらく休むことを聞いた生徒たちは、
「私たちのせいかなぁ」
「私たちのせいで、先生のお義兄さんが死んじゃった…」
と申し訳なさそうに口にした。
「まぁまぁ、なんでも結びつけたらそんな感じになっちゃうからさ。遠いところであったことなんだし、気にしなくていいよ」
と生徒たちをフォローしつつ、先生は奥さんの地元へ向かった。
葬儀で、先生は義兄が亡くなる前の様子を耳にした。
「うわ言だったかもしれないけど、なんか…女が、女がって言ってたらしいんだよね」
「あの女の人は大丈夫か、大丈夫かって誰かを気遣ってたみたいなんだよね」
「錯乱してたのかもねぇ」
義理の弟は、
「おかしな話なんだけど、トラックの運転手が、車道のど真ん中にいた女性を避けてハンドルを切ったところに運悪く兄さんの車があったらしいんだよ。でも、防犯カメラを確認してもそれらしい女性は映っていなかったって。運転手は酒気帯びでも睡眠不足でもなかったみたいだし、訳わからないよな」
と首を傾げていた。
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一周忌法要でのことだ。
自然と家族の思い出話になった。
先生は、学校で起こった例のこっくりさんの話は奥さんにも親戚にもしていなかった。
ふと、奥さんが
「そういえばさ、思い出した。昔のあれさ、今から考えたら当たっちゃったよね」
とぽつりと言った。
「何が?」
「昔、家族でこっくりさんしたのね」
「え」
「流行ってたじゃん、昔。その時きてくれたのがまた嫌なこっくりさんでね」
「あー、嫌なこっくりさんだったよなー」
義父も思い出したようだった。
「お兄ちゃんのこと『普通には死ねないよ』って言ったの。どういう風にっていうのは教えてくれないんだけど、『普通には死ねないよ』って。こっくりさんに帰ってもらうとき、お兄ちゃんが冗談で、『じゃあ俺、普通に死ねないんだったら、そのときは教えてよ(笑)』って言ってたの」
「えっ…ちょ…」
なんとなく先生の中で繋がった気がした。そのこっくりさんが大真面目にその約束を守りにきたのだとしたら。しかし先生はすぐに、いや、ただの偶然だろう、違う違う、そんなわけがない、と思い直し、
「まあ、昔はそんな遊びもありましたからね」
とその場は話を終えた。
その夜、先生と奥さんが寝ようと電気を消す間際、
「だから言ったのに」
という声がした。
「え、なになになに」
「電気消すよって」
「その前に何か言ったじゃん」
「え、何も言ってないよ〜」
押し問答のようになり、結局そのまま二人とも寝てしまった。
その言い方や声質が、先生があの時、職員室で聞いた声とそっくりで気持ちが悪かった。
その後は特に何があったというわけではなく、その時限りの不思議な体験だった。
おわり
※このお話は、ツイキャス「禍話(まがばなし)」 の2019年6月6日放送回(禍ちゃんねる 霊障発動回 前)から一部を編集して文章化したものです。
(1:03:38ごろから)