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ヨーロッパにおける古典菓子の進化系、ワッフルの話。

かつてフランスで、ウーブロワイエという職業の人たちが、道端で大声を張り上げたり、歌を歌って、売り歩いていたというお菓子があった。ウーブリと言う。ウーブリは、2枚の鉄板にはさんで焼く薄い焼き菓子のようなもので、それをクルクル丸めて5、6個セットにして売っていた。このお菓子こそが現在のワッフルの前身である。

ワッフル、フランス語でゴーフル(Gaufre)は、主にベルギーや北フランスで食べられるお菓子である。今では、電気のワッフル型で気軽につくることができるが、かつては、かなり重い鉄のワッフル型で作っていた。このワッフル型も長方形、円形などがあり、それぞれの家でオーダーしてオリジナルのものを作っていたという。中に
は、お嫁に行く娘のために、家紋などを彫って持たせていたという話も聞いたことがある。

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ある日私は、そんなアンティークなワッフル型に会いたくて、知人を介して、もと料理人だったという人を北フランスのリールに訪ねたことがある。彼は私をキッチンに招きいれ、保管していた数種類のワッフル型からひとつを抜き出して、実際にワッフルを作ってくれたのである。時間をかけて鉄を熱し、そこに、生地を流すと、ジューッと音がする。2,3分して型をあけてみると、美しいきつね色のワッフルがふんわりと顔を出す。あつあつの出来たてワッフルに、北フランスの人は、この土地独特のヴェルジョワーズという赤砂糖をかけてほおばるのである。バターの香りとヴェルジョワーズのこくのある風味は、この土地ならではの味わいだろう。

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北フランスは、フランスきっての砂糖大根の産地である。砂糖は、暑い地域で作られるさとうきびか、涼しい地域で生産される砂糖大根、このふたつの産物からつくられるのだが、19世紀初頭までのフランスは、輸入のさとうきびに砂糖生産を頼っていた。しかし、ナポレオンの大陸封鎖により、さとうきびがフランスに届かなくなると、砂糖大根から砂糖をつくることを奨励し、フランス国内に砂糖大根から加工した砂糖工場が建設されるようになるのである。

下の写真は、ヴェルジョワーズを使った砂糖のタルトの仕込み。生地はブリオッシュ生地である。

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ワッフルには3種類ある。ある時期から日本でも食べられるようになったあれは、ベルギーの町リエージュが発祥の、手で丸められるほどしっかりした発酵生地で作る、もちっとした生地のGaufre liégeois ゴーフル リエジョワ。下の写真はリエージュの街並みとゴーフルである。

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もうひとつは、私が上記の料理人、ブスマール氏に作ってもらったブリュッセルのワッフル、Gaufre Bruxelleゴーフル ブリュッセルである。こちらは、クレープ生地のようなゆるい生地を少し発酵させたものを型に流して焼く。こちらは、長方形。上の写真、左端がそうである。

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そして最後の一つは、Goufres fouréeゴーフル フーレと呼ばれる、首府Lilleリールを中心とした地域で作られているワッフルである。フーレとは、中に具を詰めたという意味で、その言葉通り中にはクリームが詰まっている。作り方はこうだ。丸めた発酵生地を型の上に乗せて型を閉じて焼く。その後型を開けるとお餅のように膨らんだ生地が顔をだす。その生地を素早く横にカットし、下の生地にクリームを塗ってもう一枚の生地で覆うのである。クリームは、バターとヴェルジョワーズやカソナードを混ぜたものが一般的だが、しっとりとした生地に溶けたバターと砂糖のざらっとした感触が加わり、止まらない美味しさである。

以下、2つのワッフル型は、ゴーフル フーレ用の型。

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ゴーフル フーレは、発酵生地を丸めて型に乗せ焼く。型を開けるとぷくっと膨れた生地が顔をだすので、素早く横にカットして、そこに砂糖とバターのクリームを挟む。

私にワッフルを教えてくれたブスマール氏は、別れるとき、そんなにワッフルを好きになってくれたのならと言って、そのアンティークのワッフル型を私にプレゼントしてくれた。持ったとたん腰がぬけるほど重かったが、私はにっこりと微笑みながら、ありがたくいただいたのは、言うまでもない。今では、大切な家宝として玄関に置いてあるが、実際に我が家のお菓子教室でも大活躍である。


 






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