見出し画像

昔の国民車プロトンを何年乗るのか

 マレーシアにはプロトン社の車がたくさん走っています。1980年代にできたこの会社は当初、もはや日本には市場がない三菱自動車と組んで製造していました。その時代、つまり、40年前ほどのプロトン社製の車があちこちに今でも走っており、これらの車はいったいあと何年走るのでしょうか。


■プロトン社について

 1981年に首相に就任したマハティール氏の肝いりで、1983年にプロトン社ができました。三菱自動車との合併によりできたのですが、もちろん当初は三菱自動車におんぶにだっこ状態で生産。車というのは精密機器であるのと複雑な工程もあることから、自動車生産の経験のないマレーシアのみでの生産は非常に難しかったことから、親日的な同氏が日本の自動車会社を招いたわけです。

 1985年に同社第一号の「サガ」が完成し、販売し始めました。排気量1500CCのセダン型の自動車。13年にわたって生産販売しましたが、なんと120万台も売れたとか。エンジンは三菱製を搭載したのです。

プロトンが最初に作ったサガ

 同社はその後も次々と新車を投入していきます。次にこのサガの後続?自動車として「サガ・イズワラ」を販売。そして、1993年には「ウィラ」の販売が開始されました。「ウィラ」は排気量1300CCと1500CCの両方を販売したのですが、こちらも売れに売れて生産を停止した2009年までの間に65カ国で95万台以上が売れたのです。このウィラはマレーシアではかつてタクシーで使われていた(今も使っている運転手もいます)ので知っている人も多いでしょう。

「ウィラ」

 この後も「ウィラ」によく似た「ワジャ」や運転席から後部がほとんど見えない「ペルソナ」など2019年までには17車種を生産しました。プロトンはマレーシア国内の市場60%まで一時期は占めるほどの勢いでしたが、2005年には40%にまで激減。これはライバルであるダイハツ系プロドゥア社が攻勢をかけてきたためでした。三菱は2004年には撤退しました。

■プロトン社の品質はいいのか

 さて、現在同社は中国の浙江吉利控股集团有限公司が運営していますが、中国製に変わってからはだいぶ見違えるようにデザインから品質まで変わったようです。それはこの記事の趣旨ではなく、それ以前の車の品質についてここでは書きます。

 三菱自動車が何年も資本提携していた時代の同社製の車はまだ町中に多く走っています。30~40年たった車は、特にマレーシアの地方では多く、この時代でもカセットデッキが搭載されている車もあります。数年前にマレー半島東海岸でウィラのタクシーにカセットデッキがついていたのを見たことがあります。

 個人的にこういった車はもはや危ないので、シンガポールでやっているように法的に強制廃車させたほうがいいと思うのですが、三菱という中途半端な自動車会社がある程度いいエンジンを作ってしまったがゆえにいつまでも町中を走っている。三菱の功罪でもあるのですが、驚くことにいまだにこういった古い車でも中古自動車としても売れるのです。

 昔のプロトン社に乗っている人の多くは貧困層。金持ちはそもそもプロトン社を買いません。30年以上も前の車を買い替えずにそのまま乗っている人も多く、要は新しい車を買えないがゆえに乗り回しているのです。

 10年以上も前にプロトン社のウィラに乗っていた日本人女性がいますが、「毎月故障してそれだけで1000リンギ(3万円)以上かかる」と言って結局手放していました。

 僕も一時期ウィラを会社からの支給で乗っていたことがありますが、まず馬力がなく、坂を登るのに時間がかかります。4人も乗ったら走れません。ガソリンはすぐになくなります。走行距離を測るメーターは「10万キロ」と表示されていましたが、30年前の車が10万キロであるはずがなく、それは2回目の10万キロなのではと思いました。高速道路で突然エンジンが止まったことがあり、これは危ないと思って、車を替えてもらったほどです。

 また、そのときの同僚が会社支給の別のウィラに営業で乗っていましたが「走っていたらフロントガラスが割れてきた」そうです。僕の友人が買った新車は「合格」と貼られたラベルのドアが開かなかった。そもそも新車であっても品質はだいぶ怪しかったようです。

 そんな車が街中いたるところに走っているのですが、さて、本題である「いつまで走るのか」です。

 マレーシア国内では車の盗難は頻発しており、最もよく盗まれるのはこの古い時代のプロトン社製の車。生産していないため、町中に部品がなく、停めてある車を盗んで分解して、部品を売るのだとか。「車がほしい」ではなく、「車の部品がほしい」で盗まれる車も珍しいと思いますが、いずれにしてもこうやって部品が盗まれて続け、市場に流されていくとなるとまだまだ10年ぐらいは同社の古い車は走るのではないか。ということは生産してから50年経っても町中に走るということになるのでしょう。

 そんな古い車、お金がないからといって買っても修理費や維持費に予想以上にかかると思うのですが、それでもその車にしか乗れない層というのが地方にいまだに多いということなのです。要は貧困層の収入がボトムアップされない限りは古いプロトン社は今後も走り続けるということなのでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?