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マレー語ノート~Eなど母音の発音

 マレー語はあまり知られた言葉ではなりませんが、マレーシアに来るとやはり必要なときがときおりあります。会話集はいくつか日本語で書籍が出ていますが、そういった会話集や文法書にはあまり書かれていないことをここでは連載で綴っていこうと思います。


■マレー語の発音

 マレー語の発音はさほど難しくはありません。一部を除き。日本語の「あいうえお」が母音で、極端な話、単語を日本語読みに読んでも十分通じたりします。
 
 しかし、いくつか注意点は必要でしょう。

 その一つが「a」です。

 インドネシア語で「a」は口を大きくあけて発音し、明快な「あ」として聞こえてきますが、マレー語では「a」はエとウのあいまいな「a」といっていいでしょう。

 例えば、Apa(何)は日本語表記で「アパ」ではなく、強引に書くと「アプ」になります。また「わたし」の意味であるSayaも同様で、「サヤ」ではなくて「サユ」となります。ちなみに、インドネシア語では口を大きくあけた「a」で、そのまま読んで十分わかるということになります。

 この他にも「i」や「u」もこもった発音になります。Bilik(部屋)を意味するこの単語は「ビリック」ではなく、「ビレッ」。語末のkやtといった発音はしません(これはそのうち説明します)が、頭の中でそのつもりで発音していると通じます。「u」も同じで「Minum」(飲む)は「ミヌン」でも通じますが、「u」は「o」に近い発音になるため、「ミノム」と日本語で強引に書けばなります。

■ちょっと面倒な「e」の発音

 さて、多分最も厄介なのが「e」の発音。これは単純に「ェ」ではありません。あいまいなウの発音になります。6を意味するenamは「エナム」といっても通じます。「ウナㇺ」となり、ㇺの部分もはっきり発音せず、こちらも聞こえるか聞こえないかぐらいの発音でかまいません。

 特に単語のはじめの子音の次にeが来た場合はこの法則がほぼ当てはまります。例えば、クアラルンプールを取り巻くSelangor州。これは日本語で「セランゴール」と日本大使館でも書きますが、正確にいうとこれは「スランゴール」です。あいまいなウの「e」が適用されるためです。

 そもそも「e」を「ェ」と発音するのは英語です。マレー語の成り立ちをみればそういった発音にならないことは明白ですが、そもそもマレー人たちはローマ字を元来使っていませんでした。ローマ字を本格的に使い始めたのは1957年8月31日の独立からで、これを使っているのはわずか66年の歴史しかありません。インドネシア語は日本の明治期ぐらいからローマ字を使っていましたが、マレー語を使っていた人たちがローマ字を使う歴史は浅いのです。

 独立前は基本的にアラビア文字を使っていました。これをジャウィといいますが、ジャウィを強引にローマ字にしたため、「e」の区別がつかなくなっているのです。このため、現在はマレー人の間では「常識」としてみな知っているのみで外国人からするとこの「常識」はないため、結果として「e」をェと堂々と発音してしまうのです。

 戦前においては宗主国であったイギリスの官僚たちもアラビア表記のマレー語を読んでいました。しかし、本国への報告などでこれを使うわけにはいかないので、便宜的にあいまいなウの「e」も英語読みの「e」と記載していましたが、しかし、「ェ」の発音とは異なることを表記するため「ě」と表記していました。これはイギリス官僚の間で常識となっていたようで、当時の記録でもこのような形で表記されています。これは昭和40年に発行された大学書林の朝倉純孝『マライ語四週間』でも同様の表記をされており、外国人の間で共通した理解だったのかもしれません。現在の綴が確立したのは独立以降で、ブルネイやインドネシアと表記委員会を作って制定しています。

4,6、8,9,11にはeの上に印がついている。

 ちなみに、この朝倉純孝『マライ語四週間』では第一日目にしてアラビア語表記のジャウィについての説明もあり、面白いです。最近出版されているマレー語会話などの日本語での本はこういった説明がありません。英語での『Teach yourself』シリーズのマレー語でもジャウィの説明がまったくありません。これは「必要ない」との判断なのでしょうが、マレー語の発音をしっかり理論から勉強しようと思うとジャウィの勉強は欠かせないのですが。

第1日目にあるジャウィの説明

 「e」を使う単語は無数に存在します。Melaka州と最近は書きますが、これも発音は「ムラカ」であって、「メラカ」ではありません。「マラッカ」は英語表記からのものですが、正しい発音では実はないのです。また、日本のことを「Jepun」と書きますが、これも「ジュプン」であって、「ジェパン」ではないのです。

 いずれにしても、マレー語をやる方はこの原則は忘れてはなりません。でないと、ほとんど通じないという事態になります。Melakaをメラカといっても通じないのです。

 マレー語での他の母音は上記以外はあまり気にしなくてもいいと思います。目くじらを立てるほど気にすることはなく、上記の発音さえ頑張って身につければあとは慣れでなんとかなるでしょう。

 


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