ポケット好き

コートには、大きなポケットが四つあるのがいいと思っている。
そのうち二つは、A5サイズくらいのものが入るほうがいい。
胸ポケット二つ、腹の辺りに二つ、あるのがいい。

胸ポケットの一つには、よく使うカードとメモを入れ、もう一つは切符などを買ったとき用に空けておく。
下の方のポケットには、財布、スマートフォン、ハンカチ2枚、ティッシュ、絆創膏、もしものときの風邪薬などを小さな袋にまとめたもの、本つげの半月型のくし、場合によっては歯ブラシセットや、靴下や下着の着替えなど一組を色つきのビニールポーチにまとめてから入れる。
羽織っただけで、旅に出られる。

私はポケットが大好きで、高校生から大学生の頃まで、大きなポケットが四つついているコートを使っていた。
入れるものは、なるべく軽いもの、最低限のものを選び、それだけあればどこにでも行けるようにしていた。
高校生のときは、行き帰りに解く問題集が入っていた。
三重大学の学生だったときは、臨時休講の掲示を見てから、近鉄に乗って鳥羽や、関西まで足を伸ばした。

女の一人歩きは危険だと言われるが、だぶだぶのコートを羽織り、黒縁眼鏡で耳が見えるくらいのショートカットの私は、猫背でもそもそ歩くせいか、どこに行っても、声を掛けたくなる女性とは認知されなかった。
その分、好きに電車やバスに乗り、あちこち歩くことができた。
たのしい日々だった。

そのコートもすり切れ、同じようなものを買おうと思ったが、もうなかった。

子どもたちもそれなりに大きくなり、私のバッグに母子手帳や着替えを詰め込まなくてもよくなった今頃になって、もういちど、大きなポケットが四つあるコートが欲しくなった。

探しているが、なかなか見つからない。この冬は無理でも、次の冬には見つかればいいな、と思っている。


余談だけれども、私が突如、男性に声を掛けられるようになり慌てたのは、リクルートスーツを着るようになった頃である。
たしかに、だぶだぶのコートよりは女性らしく見えるだろうけれど、スーツはスーツであって、かわいい服ではない。
不思議だ。

顔が明るく見えるように、黒縁眼鏡をやめて淡い桜色のふちの眼鏡にしたせいかもしれないし、面接などのときはコンタクトにすることが多かったからかもしれない。
化粧もしたし。
いや、背筋を伸ばして歩くようにしていたせいか?
謎である。

ほんとうにどうでもいい話だが、声を掛けられるのは、好きではない。
それまでに数秒ほどは、行動を見られていたということだからだ。
誰かに見張られるようなのは、本当に苦手だ。

今は立派なおばさんとなり、子どもたちのお母さんとしてしか認知されていないし、ぼやぼや歩いていても誰かに見られている感じはない。
安心で心地よい。

子どもたちは、私がオンライン会議などで外向きの格好をしていると「盛っている」と思うようだ。
逆に、仕事の人は、「盛っている」私しか見ていないのだな、と気づいたときには、少し、おもしろいような、はずかしいような気持ちになった。


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