【小説】[9]性格(『僕のファーストテイク』)

ーー崩れ落ちたその日から間もなく2週間というところ……。月末を迎えようとした時、僕は仕事への復帰を諦めた。
毎日、休みの連絡を入れるのが苦痛でたまらなかった。解放されてホッとしたところもあったが、未来に希望があるわけではなかった。

休み始めて3日目のこと。職場から病院に行ったかを尋ねられ、僕は精神科にかかることにした。
とはいえ、かかりつけの病院なんてものはなく、どこに行けばいいのか困った。もちろん、体も重いまま……。
ギリギリの生活を送っていたこともあって、貯金もない。なけなしのお金でタクシーに乗り、近くの病院に向かった。

実は、前兆を感じた時、僕は病院に行こうとしたことがあった。電話をしてみると、予約制と言われたため、その時は行かずじまいだった。
今回は予約すらしていない。断られるかもしれなかったが、職場から「必ず行ってください」と強く言われたため、病院で断られることの不安よりも、職場への恐怖心の方が勝っていた。

(「逃げるのか?」)
僕の中にそう問いかける"僕"がいた。
(「会社に迷惑かけるだけじゃなく、病院にも迷惑かけるのか?」)
問いに対する答えは出てくるはずもない。

その彼("僕")は僕に、こう続けた。
(「休めば元気になるとか思ってんじゃないのか?僕(彼)を頼らないでくれないか?この体はとても疲れるんだよ。
それに、病院に行ったところで誰も助けないよ?行政に頼ったって、君(僕)が望むような対応はしてくれない。
それに君は、"能力"があるように見えてしまう体を持ってるから。もちろん"僕"がいないと使えない"能力"なんだけどね。
でも、他人には、それが僕の能力なのか、君の能力なのかなんて判別できない。」)

僕の思考を彼が専有しているようだ。


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