刀語 第八話「微刀・釵」

 カタナガタリ・ダイハチワ・ビトウ・カンザシ。と読みます。
 私が西尾維新に入ったのは『零崎双識の人間試験』からでした。戯言シリーズにどハマりし、世界シリーズもりすかもニンギョウがニンギョウも読みました。化物語は少し空いてからでしたが、刀語は連続刊行を追いかける形で読みました。今回はその刀語について。特にアニメ版の、第8話「微刀・釵」について話していこうと思います。

「刀は、斬れなければ意味がない。お前はただ、鋭き刀であればいい」

 刀語の大まかなストーリーとしては、生まれながらにして一本の刀として育てられた主人公「鑢・七花」が尾張幕府家鳴将軍家直轄預奉所軍所総監督「とがめ」の要請を受けて、変体刀12本を集めていく話で、七花が色んな対戦相手を通して「人間として」成長していく過程が描かれています。というか、厳密には「人間になっていく」話ですね。その過程で大きな変化がいくつかあるんですが、私が特に好きなのはこの8話なんですね。他にも2話と3話と5話と12話が好きですが、その話は今は置いておくとして。

「その頃にはあんたを、まぁ八つ裂きにはできないんだけどな」

 第8話の対戦相手は日和号。江戸の壱級災害指定地域、不要湖を数百年にわたって徘徊し、人間を無差別に攻撃する殺人からくり人形です。とがめはその構造を見抜き、いざ七花の対戦が始まります。今まで戦ってきた人間とは違う、人形との戦いに多少苦戦しますが七花も剛の者。とがめの目的を果たすためしっかりと戦い続けます。その戦いの中で、「人間である前に一本の刀」であった過去の自分と「人形であり刀」である日和号を比べます。アニメでは、この辺から処刑用BGM入ります。

「日和号は、ちょっと前の俺だ。覚悟も決意もなく、何も捨てないで、正義の心もなく、ただ、とがめに言われるまま刀集めをしていた俺だ」

 気持ちを持たず、考えず、感じず。言われるがまま何の迷いもなくこれまでの対戦相手である真庭蝙蝠を、敦賀迷彩を、錆白兵を斬ってきた七花は、実姉である鑢七実との対戦に際し、己の「人間としての」意思を持つようになりました。その意思を持ったからこそ、意思も意図も持たず何百年と命令通りに攻撃している日和号と斬り結ぶにあたり、その自覚を持ちます。機械人形みたいに戦っていた自分と、それと対戦していた相手のことを思い出し、「きっとみんな、ちっとも楽しくなかったんだろうな」と他人のことすら考えるようになります。

「人間・認識」

 気持ちを持ち、考え、感じ、人間として成長した鑢七花を、日和号は人間と認識します。これまで一本の刀として生きてきた鑢七花が、作中で初めて人間であると称された瞬間です。ここ、描かれていない部分の話をするなら、というか私の妄想なんですけど、ここに来たのが以前の七花であれば日和号に人間と認識されなかったのかなと思ってます。

「俺にはお前が刀にしか見えないけれど。
日和号、お前は俺を人間と言ってくれるんだな」

 ここ! ここが最高なんです。ここを是非アニメで見てほしいんです。アニメの七花がここで凄く良い表情をし、細谷佳正さんがそれに合った素晴らしい演技をしてくれるんです。少し前からかかるBGMも相まってこのシーンは作中最高の出来であると思っています。日和号との戦闘はもう少し続きますが、今回の記事では割愛。

 この「微刀・釵」は、私の西尾維新作品の認識を変えるポイントになった話です。それまでは、物語全体の「テーマ」よりも、話の細部にある「世界観」や会話などの「キャラクター」に関しての能力が高い作品だと思っていたんです。比較して、何かしらのテーマを描くよりキャラクターそのものを描くのに重きを置く作家だと思っていたんですね。それがこの刀語と、この後に読むことになる『化物語』で変わりました。いや、世界観やキャラクターに力を抜いているわけではないんですけど、それまでに読んだ作品が基本的にミステリで、登場人物の感情より出来事そのものを重視するものだったので……。いうなら、このへんからミステリ以外のライト文芸に手を出し始めたからなのかなとは思いますが。ともあれ、私の中でその起点になったのがこの刀語 第八話 「微刀・釵」なのでした。

 主題歌は本放送前期の「冥夜花伝廊」、後期の「刀と鞘」、再放送時の「拍手喝采歌合」とありますが、どれもいい曲です。これも合わせて聞いてほしい。

「ちぇりお!」

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