社会起業塾がもたらした価値、未来に残された宿題「インパクトレポート公開」【ETIC.ソーシャルイノベーションセンターNEWS】2021年10月26日号
こんにちは、ソーシャル事業部の川島菜穂です。前号に引き続きコラムを担当します。
わたしは昨年4月にETICに転職してきました。オンライン入社・初日からずっとフルリモートなので、社内にもリアルでお会いしたことのない人がまだいますが、一年半が経ってETIC.の仲間だと身も心も慣れてきた最近です。
社会起業塾インパクトレポートを公開しました
先日、「社会起業塾イニシアティブインパクトレポート〜19年間の軌跡と成果を振り返る」が公開されました。(発行:NPO法人ETIC. 執筆・監修:株式会社 風とつばさ)
社会起業塾は、ETIC.が2002年、社会起業家という言葉が日本で広まり始めた頃から行っている創業期の社会起業家支援のプログラムです。
レポートでは、社会起業塾がこれまで参加者や企業関係者にどのような価値を提供し、社会にどんなインパクトをもたらしたかを分析し、まとめています。
執筆・監修を担ってくださったのは、2010年から2016年にかけて社会起業塾のコーディネーターとして社会起業家の伴走支援をしてくださっていた株式会社 風とつばさの水谷衣里さん。伴走していたからこその理解と、プロフェッショナルとしての客観的な視点、そしてご自身の思いと情熱のすべてを持ち込み、1年間に亘るプロセスをリードして頂きました。
社会起業塾がもたらした価値、未来に残された宿題
本レポートには、社会起業塾を卒塾した社会起業家にもアンケート等にご協力をいただきました。卒塾生の多くは、継続的に事業を成長させていますが、自団体の事業拡大のみならず、国や自治体の政策・事業に影響を与えたり、ノウハウの水平展開を実現するなど、ステークホルダーと連携・協働しながら社会の変化に貢献していることがわかりました。
●社会起業塾の卒塾生数:132名(2002年~)
●卒塾生の事業継続率:86%
●予算規模からみた平均成長率:約4倍(2012年以降の卒塾生47団体)
●国や自治体の政策や事業 に影響を与えた団体:
<国レベル>23% <自治体レベル>54%(社会起業塾イニシアティブ全体105団体中)
●ノウハウや事業モデルを他地域や他団体に移転した経験がある団体:54%
(社会起業塾イニシアティブ全体105団体中)
そして、社会起業塾がもたらした価値については、以下のことが示されました。
●日本において社会起業家支援というものが未知の挑戦だった頃から、社会起業塾は実践を通じて起業家の伴走支援の「型」を創り出してきたとともに、起業家に寄り添う伴走者の数を質・量ともに高めてきた
●そして「塾」という学び合いの場を通じて、起業家・支援者・パートナー企業/団体が相互に刺激し合い、個々の成長を促す「生態系(エコシステム)」が生まれ、それが今日まで続くETIC.にとっての価値の源泉となっていった
●社会起業塾はETIC.にとっても転換点であり、「変革の現場に挑む機会を通じて、アントレプレナーシップ溢れる人材を育むこと」、そして「 課題が自律的に解決されていく社会・地域を作り出すこと」という思想を色濃く反映する存在となっている
一方で、これまでの社会起業塾に足りなかったこと、変化が求められていることについても言及されています。
●手探りの中進められてきた伴走支援は、先輩経営者としてのメンターや伴走コーディネーターといった力量ある「個人」と「起業家」の交わりによって起こる化学反応に依ることで質を担保してきた
●それは、多様な関係者と育んできた、(社会課題に取り組むアクターの)エコシステム(生態系)なしにはできなかったことである一方、社会起業塾の提供価値や育むべき起業家の理想像の言語化や、自らが果たす役割についての仮説検証とプログラム改善、共有知としての社会への還元から遠ざけた側面があった
●そして、社会起業塾が目指す起業家の在り方を示し、プログラムの意図を伝えきらなかったことが、起業家から社会起業塾への信頼を遠ざけ、起業家自身の成長の妨げとなった可能性があったとも考えられる
作成過程におけるさまざまな過去の関係者へのヒアリングも通じて、社会起業塾に課せられた宿題は、社会起業塾が自らが提供する価値を言語化・明確化し、提供する価値と合致する起業家へ成長機会を与えることだと示されました。同時に、起業塾を支えるエコシステムの多様性を失わないよう間口を広く保ちながら、伴走支援者の質を高めていくことも重要と指摘しています。
集合的な変化を目指す触媒として、どう向き合うのか
レポートを読み、ソーシャルイノベーション事業部で対話会を開催しました。メンバーからは、以下のようなコメントが上がってきました。
●19年間を経て今の型があるのも価値。それを使って、次はどこに向かっていくのか、常に向上していくことが必要というメッセージと受け取った。エコシステムを広げ、さらに豊かにしていくことは、集合的な変容を経験することであり、私たちは今、痛みを伴う成長痛のプロセスにあると思った。
●耳が痛い部分もある。自らチェンジエージェント(触媒)となる努力が求められていると感じた。一方で、「私たちはこういう存在である」というのが言葉になったことで、エコシステムが増幅されるような「意図的な」関わりをより意識したいと感じている。
●発信し、意見交換をすることが大事だと思った。ETICがやっていることはわかりづらくもある。内外への発信と対話を続け、フィードバックし合うことで、互いにより良くなっていくことを目指し続けたい。
私自身は、ETIC歴2年目で、これまでの多くの先輩が関わり作り上げてきた歴史あるプログラムを紐解く作業に携わらせていただくことに、恐縮してしまう部分もありました。一方この期間、社内外のシニアコーディネーター・メンターたちとの対話から、起業塾が提供する価値や世界観について実践から得た感覚値が、言葉となって自分の中に落とし込まれていくのを感じました。
ご協力いただいた132名の卒塾生の皆さま、メンターやコーディネーターの皆さま、お忙しい中アンケート回答やヒアリングにご協力をいただき本当にありがとうございました。
メンターは、「辞めてもいいんだよ」に代表されるような心を揺さぶる言葉をなぜ投げかけるのか。伴走役のコーディネーターは何をしているのかなど、起業塾を紐解いた一冊です。ぜひ皆さんのお手にとって読んでいただけたら幸いです。そして、それぞれにお感じになったことについて、対話させていただけたら嬉しく思います!
- INFORMATION -
■成長・拡大期にあるNPO/ソーシャルベンチャー対象
連続オンラインセッション「世界を変える偉大なNPOの条件」の
著者から学ぶソーシャルインパクトとシステムチェンジ(通訳付き)
べストセラー「世界を変える偉大なNPOの条件」の共著者、ヘザー・マクラウド・グラントさんととレスリー・R・クラッチフィールドさんのお二人を招いて、社会的インパクトの事例研究から学ぶ、連続オンラインセッションを実施致します。
並外れたインパクトをもたらし、世界のしくみを変えつつある組織の研究からわかった、行動原理の他、社会的なムーブメントを成功させるための条件や、複雑なシステム全体を変化させるリーダーシップについて、参加者同士の対話を通しながら学び深める仕立てとなっています。
◎参加要件やプログラムの詳細はこちらをご確認ください
2名以上の参加が必須です。出席できない日程がある場合は同団体からの、
ほかの参加者には該当日にご参加いただけますようお願いします。
ご欠席の方のフォローとして当日の録画を見ながら、団体内で振り返りを
することを推奨しています。
◎お申込みフォームはこちら
※締め切りは11/5(金)ですが、定員に達し次第受付終了となりますので、
お早めにお申し込みください。
Editor's Note - 編集後記 -
川島から紹介させていただいた社会起業塾のレポート、ぜひ皆様にも目を通して頂ければ嬉しいです。
あえて違う観点から感想を書くのであれば、事業の評価や振り返りの意義を改めて感じる制作過程でした。ここまでできていることは何か。できていないことや残された宿題は何か。ここから先、私たちが何をどう進化させていく必要があるのか。答えはまだないものの、問いが明らかになったことの価値が間違いなくあります。
読んでみた感想に加えて、その観点からも私たちにフィードバックやアイデアを頂けることを楽しみにしています。(番野智行)
発行元:
NPO法人ETIC.ソーシャルイノベーション事業部
incu@etic.or.jp
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