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向こう正面に建つ小屋

友人に頼まれて、週末の競馬場でアルバイトをすることになった。天引きされたが、それでも時給は高い。JRAはかなり稼いでいる。

私の仕事は、放馬に備えて二人一組でロープを持って埒沿いに待機し、万が一の場合は馬場に飛び出して馬の進路をふさぐ係である。

「放馬なんてまずないから、安心していいよ」と職員は言ったが、大外の馬がゲートインを嫌って放馬し、走り出した。100m地点にいた私は飛び出そうとしたが、職員に止められ、結局200m地点の係が止めた。

仕事はのんびりしていた。職員は、騎手の良し悪しを私に説明してくれる。当時、どの職員からも評価が低かったのは、横山典弘だった。ゲートインするまで、他の騎手と談笑しているからである。

スタンド前からではなく、向こう正面からスタートする場合は、私たちも歩いて移動する。向こう正面には小屋があり、職員が待機していた。

奥にデスクがあり、ひとりの職員が電話をしている。まだ携帯がない時代で、固定電話だった。彼は馬券の購入指示を延々と出していた。職員の馬券を取りまとめ、どこかの取りまとめ役か購入担当に伝えている。

JRA職員が馬券を購入することは、不正防止のため競馬法で禁じられている。内部情報に精通していて、その気になれば細工だってできる。

しかし彼は仕事そっちのけで、まるで専属であるかのようだ。バイトである私の前で堂々と違法行為に勤しみ、もちろんほかの職員は何も言わない。治外法権のアジトである。

見つかっても、言い逃れできる抜け道が用意されているのだろうか。それとも、組織ぐるみで見つからない体制を敷いているのだろうか。

パチンコなどの業界と異なり、JRAは潰れる心配がない。競争がなく、高い利益率はしっかりと確保されている。

高給を取りながら裏で淫する輩を目のあたりにして、私は競馬そのものに興味を失った。馬券を買っても、彼らの懐に入るのである。

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