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草加雅人、再誕 『仮面ライダー913』

 死んだ人間が生き返ることで誕生する怪人オルフェノクと彼らを倒す力を持つ仮面ライダー。人間と怪人の様々な感情の交錯を描いた特撮ドラマ『仮面ライダー555(ファイズ)』(以下『555』)、そのスピンオフとして制作されたのが、石ノ森章太郎原作、井上敏樹脚本、村上幸平協力、かのえゆうし作画『仮面ライダー913(カイザ)』である。本作はタイトル通り『555』の二号ライダーとして活躍した仮面ライダーカイザ・草加雅人を主人公に据えている。


 この作品の紹介をする上でまず説明したいのが草加雅人の人物像だ。草加はヒロイン園田真理と同じ児童養護施設「流星塾」の出身。装着すると死んでしまうというベルト「カイザギア」と適合し、カイザとして戦う戦士である。平時は何でもそつなくこなす器用さ、戦闘時は的確な判断能力を持ち、幼少時いじめられっ子だった自分を助けてくれた真理を守ろうと奮闘する。
 ……ここまでは味方として頼もしいのだが、彼には厄介な問題がある。真理に対して異様なまでの執着を持ち、彼女と自分の仲を邪魔すると見なした者たちには策略にかけて破滅させようとするのだ。『555』本編では真理が偶然出会い行動を共にする「ファイズギア」の適合者である主人公・乾巧(いぬいたくみ)、そして正体を知らぬまま憧れを抱いているオルフェノク・木場勇治を仲違いさせ、状況を複雑にしていった。
 流星塾の仲間たちを殺したオルフェノクを排除するという戦士の義侠。想い人の目を自分だけに向けるために、仲間すら平気で命の危険に陥れる悪辣さ。この二面性が草加雅人の特徴だ。

 『仮面ライダー913』1巻では前述した草加の二面性が存分に引き出されている。
 前半の草加は正直カッコいい。流星塾を出た後資産家に引き取られるも、家族というものに馴染めず出奔。容姿と才能で人を惹きつけ、嫉妬心を抱く者は難なくあしらう。底知れない闇を持つ孤独なイケメン。見方を変えるとこうも魅力的に見えるのかと驚いた。
 しかし後半、真理と再会してからは積極的にアプローチするも、横にいるのは素性のわからないファイズの変身者である巧。表面上はクールにあしらうも、嫉妬心は抑えきれず最後にやらかしてしまう。流石は草加雅人と言いたくなるシーンだった。悪役ムーブをやっているのに安心してしまう仮面ライダーもそうそういない。
 オルフェノクが人間を襲うシーンはより残虐さを増し、カイザとオルフェノクの戦闘は新たな決め台詞で鮮烈な勝利を見せてくれる。そうかと思えば、原作でもあった「携帯電話で救援連絡するとワープしたかの如く即座に現場へ到着する」「時間のかかる変身シーンをノロノロ動作で待つオルフェノク」等、特撮のお約束表現も欠かさない。原作をきっちり踏襲した上で、新たな『555』の物語を見せてくれる。

 脚本担当の井上敏樹氏は『555』の脚本家、そして協力(企画・編集)担当の村上幸平氏は草加雅人の演者。公式スピンオフとしてはこれ以上ない布陣である。特に村上氏は『555』への思い入れは並々ならぬものがあり、今回の漫画でも巻末に半田健人氏(乾巧役)・芳賀優里亜氏(園田真理役)との座談会を収録。動画・Twitterでも宣伝活動に力を入れている。


 原作では自分のエゴを押し通した結果、仲間に看取られることなく悲しい結末を迎えた草加。『仮面ライダー913』の世界ではどんな罪を背負い、どんな罰を受けるのだろうか。

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