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有名劇作家の秘密が明かされる? 『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』

 「シェイクスピアは7人の作家集団だった」。驚愕の仮定の元にシェイクスピアの半生を描くのが、ハロルド作石『7人のシェイクスピア  NON SANZ DROICT』である。


・大胆な設定と劇中演出

 史実でのシェイクスピアの出身地はイングランド(イギリス)の片田舎。子供の教育環境はまだ十分整っておらず、本は庶民が気軽に買えないほど高い時代。そんな教養のない環境で育った彼が突如ロンドンで劇作家・俳優として大成功を収めてしまう。偉業過ぎて「シェイクスピアは他の劇作家のペンネームではないか?」と主張する歴史研究家もいるぐらいなのだ。

 そんな背景を元に形作られた本作。シェイクスピア自身は劇の脚本の下地を作成し、編集・演出は6人の仲間達と共に考えているという形で名作が生まれる過程を描いている。一人ではまとめきれず魅力も引き出せない原案を、仲間達と協力することで磨き上げていく様はワクワクする。そして当然ながら出来上がった作品を劇場の経営者・役者達と会って売り込むのはシェイクスピアだけで、他の6人は関わらない。彼が脚本の内容・作成過程を完全に把握していなければボロが出るため、上客相手との駆け引きも魅力である。

 実際の演劇シーンも大胆な描写がなされている。彼の初期作品は戦争ものが多いのだが(当時の流行でもある)、実際の戦争さながらに流血を伴う過激な戦闘シーンとなっている。また当時の演劇業界は女人禁制だが、女性を演じる役者はどう見ても本当の女性。実に思い切った表現だ。


・迫り来るカトリック狩り

 本作において重要な要素となってくるのが、イングランド女王が主導するカトリック狩りである。当時のイングランドの国教はキリスト教プロテスタント系と定められ、カトリック系の聖職者・信者は異教徒として弾圧されていた。シェイクスピア自身もカトリック系信者であり、7人の中にはカトリック系聖職者もいる。そんな状況にありながら、シェイクスピアは演劇好きな女王の信頼を得ていくことになる。
 劇作家として大成するには、最大権力者とのコネを作ることは重要。しかし素性を知られれば、何もかも終わり。珠玉の作品を作り上げ、時には7人の秘密を限定的に情報提供することで女王と交流する。まさに成り上がりの半生である。


・前作『7人のシェイクスピア』について

 本作には過去作にあたる『7人のシェイクスピア』(全6巻/新装版全3巻)が存在する。こちらは2009~2011年に連載された第1部であり、5年後に連載再開したのが第2部『NON SANZ DROICT』である。


 内容としては7人のシェイクスピアのメンバーで詩の作成を担当する少女の不幸な生い立ちとシェイクスピアとの出会い、そしてシェイクスピアが夢を抱いてロンドンに乗り込むまでの出来事が描かれている。彼らのルーツを知る上で重要ではあるのだが、演劇についてはほとんど出てこない。さらにこの時点では7人全員がそろうこともない。そのため、冗長でつまらないと感じてしまうかもしれない。

 前作を読まずとも最低限の背景・事情の説明はあるので、無印版はエピソード0として余裕があれば読めばいいだろう。


 12巻ではロンドンの2大劇場が興行収入を競い合う劇場戦争が一旦終結するも、女王のカトリック狩りへの秘めた考えが明らかに。未だ出てきていない名作もあり、ますます目が離せない。



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