ほんの少し良かった日

 久しぶりに丸一日社用携帯を忘れて1日を終えた。仕事のことなんて気にせず、平日休みだから家にも一人で、特に予定も入れず、ただ1日を謳歌できたと思う。勿論、明日に向けて考えなくてはいけないことだって沢山あると知ってはいるけれど、そんな常に私は好きでもないことに意識を向けることはできないのだ。

 なんとなく携帯を替えたくてほんの少しだけ遠出をした。3駅くらいの小さな旅だ。普段気の遠くなるような果てしない距離をすし詰めになって一時間近くも通っていることに比べたら、大したことはない。待つ必要のない特急には目もくれずに各停の空席が目立つ車内に乗り込むと、いつもよりちょうどいい温度と柔らかな座席と、時間に惑わされる気配のない人々が迎えてくれた。いつもは鬱陶しい雑音がない。それだけで私は、まず「今日は良い日」ポイントをあげることができた。

 四、五年近く使っていた携帯を替えたら、以前よりも三百円ほどお得になった。もっと丁寧に、徹底して調べたら安いプランとか、他に乗り換える手もあったかもしれない。でもその時、店員さんの「きっとプランを見直すと思って」と先んじて用意してくれたプランが概ね予想のほんの少し下をいくものであったことで気分が良くなった。「今日は良い日」ポイントこれで二つ目。

 切り替え中、通販とか、クレジットカードの支払い方一つで結構お得な話をしてくれた。別に契約とはなんの関係もないのに、置く場所がないけれど70%も安くなったダース・セットの洗剤について語る彼の目は得意げだった。「今日は良い日」ポイント三つ目。

 お昼をどうしようと思っていると、急にポテトが食べたくなって、そのままいつもより一つ奥の駅で降りることにした。マクドナルドに入ると、相変わらずなあの油の匂いが広がって、そうそう、これこれ、と思わず頷いてしまった。テイクアウトして、そういえば最近行けてなかった珈琲屋に寄ろうと思い立って少し寄り道。店員さんが試飲で入れていたカフェオレ、とても美味しかった。さっぱりしたコーヒーを飲みたいとリクエストしてみるとぴったりのものを用意してくれた。マックと大好きなお店のコーヒーを手に入れてほくほく。「今日は良い日」ポイント四つ目。

 帰り道、今日の夜ごはんで足りていないものを買い足そうと思い、曲がればすぐの帰路からわざと外れてスーパーまで更に歩く。必要な材料と、切らしていたお水、そしてちょっと食べたくなってポテトチップスとチョコレートを購入。両手いっぱいになるくらいの荷物を抱えて改めて帰路につく。そういえば、何気なく帰り道に曲をかけたらまさに聴きたい曲がかかって嬉しかった。「今日は良い日」ポイント五つ目。

 帰宅して替えたての携帯を弄りながらお昼を食べ、ちょっとごろごろして、先日から読み始めた「凪のお暇」を読むと、驚くほどあっという間に時間が進んでいた。早く次の巻が読みたいな。そう思わせてくれる本に出会えたので「今日は良い日」ポイント六つ目。

 さて、ふと外を見ると雨が降ってきた。確かニュースではこれから雨になるかもって言っていた。相方さんがわざわざスーパーに寄る必要もなくなって、帰宅時間も分かっているから、すぐにごはんの準備を始めよう。寒くなって帰ってきた人が、あったかいごはんを見て「今日は良い日だ」と思ってくれたら、それで七つ目。

 何もない日はマイナスがないから、こういうさりげないことに幸せを感じて、ポイントを稼ぐ。嫌なことは多いくせにそれに見合う幸せはそうそう出てこないのだから、そうやって稼いでいくしかない。

 ちょっとした幸せを抱きしめて、明日を乗り越えていく。

 「日々嫌なことしかない」と思ってしまう私が燻らないように。

 これが、私のささやかな「休日」という反抗だ。

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