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天王寺のアクセントについて

非・関西人が言う天王寺

ある女優がテレビドラマの中で、大阪の地名である“天王寺”を、関西人からすれば到底納得できないアクセントで言ったことが話題になった。

どうして東京人は関西の地名をおかしなアクセントで言いがちなのか。
それは東京アクセントを話す人の特徴のせいだった。
では具体的に見ていこう。
※おことわり 以降の文中で、①型とか③型などの表記が頻繁に出てくるが、これらは東京アクセントの型のことである。「明解国語辞典」金田一京助 監修 より)

天王寺の言い方がおかしかった訳

月9ドラマで女優が天王寺について話すシーン。
“天王寺”のアクセントが、地元関西人からすればおかしかったというものだ。

それは最初の“て”のみ高く発音していたとのこと。
これは同じ寺でいうと、“本能寺”“浅草寺”と同じアクセントなのだ。
(※そもそも、“天王寺”自体は寺ではなく、付近の古刹・四天王寺から付いた地名であり、大阪市内の区の名前にもなっている。そしてJR天王寺駅を中心としたエリアをさすことも多い。関西以外でご存じない方もおられると思うので付記しておく)

“天王寺”を本来の京阪式アクセント(関西弁)で言うと、“てんのうじ”
“の”だけを高く発音すれば良いとのこと。
(分かりやすく音階に例えると“ドドミドド”、また英語の“invention” に近い)

ちなみに3拍目のみ高く発音するというのは、京阪式アクセントの特徴であり、日本語において対をなすとも言える、東京アクセントにはこの様な発音の型は存在しない。
(東京アクセントでは最初の1拍目を低く発音する場合、次の2拍目は必ず高く発音する特徴がある)
当然ながら、関西人と同様の発音なんてできるはずはない。
(先ほどから“○拍目”という言葉が出ているが、“拍”については以下の動画で説明あり)


ではせめて、それに近い東京アクセントは無いのだろうか。
実は東京アクセントにも発音が近い型がある。
それは京阪式アクセントの“ドドミドド”と違って、3拍目まで高く発音し4拍目以降が低くなる。
音階で表すと“ドミミドド”で、これを東京アクセント③型と言う。

実際JR西日本など鉄道の車内での自動放送でも、こちらが採用されている。
(ちなみに関東近辺でいうと、“新三郷”“本厚木”が③型)

「関東にも似たようなアクセントの地名があるのならば、それに準じた発音をすればいいのではないか」
と多くの関西人が思っただろう。

ところが、関西人が思うようにはいかない。
関東では”新・三郷”や”本・厚木”の様に“三郷や厚木”から派生した言葉に③型“ドミミドド”がよく用いられているが、天王寺の様な寺の名前にはほとんど使われていない。
関西人にしてみれば同じ5拍の語であっても東京人には異なるタイプと捉えられ、特に寺の名前としては馴染みがなさそうだ。

ちなみに、その女優は東京人が好む平板アクセント(⓪型“ドミミミミ”)で天王寺とも言わなかった。
関東だとJR中央線の“国分寺”“吉祥寺”⓪型・5拍の語である。
国分寺吉祥寺(⓪型“ドミミミミ”)は街の名前や駅名ではメジャーだが、寺の名前では少数派の言い方なので、それを知らない土地・関西の寺の名前には用いないだろう。

そうなると、あと言いそうなのは天王寺を本能寺や浅草寺と同じアクセント(①型“ミドドドド”)くらいである。
もちろん彼女に限らず、関西に土地勘がない特に若い人達はそうなりがちだ。
これはどうしてか。

筆者が思うに、やはり関東で有名な5拍の寺の名前(地名或いは駅名)には浅草寺・新勝寺・高円寺・祐天寺・深大寺などの様に、最初の音を強く発音する①型が多いから、馴染み深い発音の型に天王寺を当てはめたのではないだろうか。
(以下の動画の中で「現代の東京アクセントでは①型の5拍以上の(普通)名詞は少なくなっている」と言っているが、固有名詞では関東には①型・5拍の寺(“ミドドドド”)が多いのは再三述べた通り。これは比較的長い語であっても、江戸っ子が最初の音だけを高く発音する①型を好む傾向があった証左だと思う)


最後にまとめ

少々ややこしいのでまとめると、関西を知らない東京人は天王寺と発音する際に、

1. 東京アクセントには(京阪式アクセントのような)“ドドミドド”と発音する型は存在しないので、関西人と同じ様には発音しない。

2. 一番近い東京アクセント③型は“ドミミドド”だが、関東には③型発音する寺は、ほとんどないと思われるので発音的に馴染みがない。よって、見知らぬ関西の寺の名前には用いない。

3. 東京人は平板アクセントの⓪型“ドミミミミ”を好むが、寺の名前に関してはむしろ少数派(有名どころは国分寺や吉祥寺くらい)なので、馴染みのない関西の寺を⓪型で発音しないだろう。
(ただし若い東京人には“⓪型派”も多そう)

4. 関東の寺浅草寺・新勝寺・高円寺・祐天寺・深大寺など、最初の音を高く発音するタイプ(①型“ミドドドド”)多数派なので、5拍で寺の名前と言えばこのアクセントを当てはめてしまう。

だから、天王寺を①型“ミドドドド”と言ったのだ。

「関西のことを知らんからや!」
とお怒りの方もいらっしゃると思うが、よくよく考えて欲しい。

他人のことは言えないのである。
次回はそんなことについて述べたいと思う。
乞うご期待!


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