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mother's memory No.1

記録に残る、最も古い中学2年の時の短い日記です。
今から、もう60年以上も前のものです。
拙い文章ですが、ご一読ください。
大変うれしいです。
今回は、mother's memory としてしばらく投稿していきます。

五月九日

よる、八時からの「歌は生きている」で、盲学校の生徒も歌を歌うのがあった。みんなで歌を歌っているのを見ると、かた目がギュっとふさがっている子や、二つ目がいても、気もち悪い目をしている子がいた。

この子たちも本を読んでいる。本を読むと言っても手で読むのだそうだ。盲学校の子はみな歌がだいすきだが、歌詞をおぼえるのにだいぶ長いことかかるだろうと思った。

トランプも、手で見てするのだ。

今は、まだいいけど、昔やったら発達していないから、だいぶ苦しんだ人もいるだろう。


五月十日

木田さんへ買い物に行ったら、卸屋さんが来ていて、何か、わら半紙に赤い字で書いてあるらしく、きまりわるそうに、木田のおじさんの前へ行った。

なんやろうと思って見ていたら、ラムネの値上げらしい。卸屋さんは「十円を十五円に売っとけ」と言っていたし、こっちのおじさんは「ほんなことしたら、売れん」と、言って聞き入れてなかった。

今は、ほんとに値上がり時代だなと、思った。


五月十一日

母のお使いに行く途中、山本先生に会った。先生は、重そうに荷物を二つも持っていたので、自転車に乗りながら「荷物、持ってあげましょうか」と、言ったら「そんなら、持って行ってもらおうかしら」と、言って重くて小さい荷物を渡した。

どうも、謄写版の時使うものらしい。荷台の上を見たら、ひもがないので前の方へさげて行ったらわれないか、われないかと心配でたまらなかった。

ミシン糸60番と、ミシンバリとを買うてきておっけ、と言ったのにミシン糸50番を買ってきてしまって、失敗してしまった。


五月十三日

今日は、何となく憂うつだった。女は、けんかすると言っても、チョットのことでツウンとてしまう。
そして、長いこと腹立っているのでいけない。

私とともえちゃんは、きのうから仲が悪い。もう少しで仲良くなろうとしたのに、私がはぶいてしまった。

それは、社会のテストが終わってから、ともえちゃんが「テストできたか」と、言ったが私は「なあもできん」ツウンと、そっけなくしまった。

あとから、なんで「私は人となかよくできんのかな」と、後悔した。


五月十三日

兄が、八田のおじさんが庭石をあげるからと、言ったのを思い出して、自転車で取りに行った。

私は、そんなものに全然興味がないが、兄は昔からマッチのレッテル、かわった石などこれは昔だが、現在は、外国のキッテや、昔のお金などを集めている。

母は、「兄ちゃんは、大きくなったら骨董もん屋さんになるといいわ」と、言っていた。前かって、私といっしょに山にのぼって川のとこで、われたつぼみたいなものをひろってきて、母や父に見せたら、「これは、ほん、この間ぐらいまであったひばちだ」と言っていたが、兄は、つぼだと言ってきかない。妹までが、ちょうしをあわせて「つぼや、つぼや」と、言うのでおかしくてたまらなかった。

五月十四

母の日だけど、なにもしてあげられなんだが、夜テレビを見ている時、おふろをあつくして、夜、母はいつもながいことせんだくしているので、こんどは妹と二人でせんだくして、外へほしたりして、てつだいをしてあげた。

兄は、何もせんくせに「兄の日もつくらなあかんな」と、言ったり「父の日もつくらなあかんな」とか、そんなことまで言っている。


五月十五日

学校の帰りしな、黒田さんとさくらんぼの青いのをとって、ぶつけっこをした。いちばんあとではんそくして五つ、六つぼかんとぶっつけたら顔にあたって、さんざんにやられた。もう中学生なのに、こんなばからしいあそびしていたかって、いけないと思ったが、思うぞんぶんとび回った。


五月十八日

かえりしな、もう五分しかなかつたので、ビュウンと走っていったら、赤松先生に会った。私ら四年生、五年生と続けてならったので、とてもなつかしかった。ほかに、二人の先生らしいひとがいなった。「こんにちは」と、言ったら、先生も「こんにちは」と、言ったが、私はもう走っていた。


五月二十日

校内マラソン大会があった。男がはじめ私の一分前に走った。女が走ってから大道に出てから、そろそろ辛くなってしまった。はじめは、おいこされたり、おいこしながらいっしょうけんめい走って行った。

いちばん気持ちがよかったのは、なんといってもみんなまだ目的地につかないで、いっしょうけんめい走っている時、私が帰り道を走っている時だった。

歩こうか、歩こうかと思ったが、歩いていたかってもうすこしだと思い思い、もう、運動場が見えてきた。もう十メートルだというのに、足がぼうみたいになって、思うようにならない。

口は、からからで、汗はふき出てくるし、あれにはほとほとこまった。

あんなに、いっしょうけんめい走ったのに、十四位までしかはいらなかったことを、残念に思った。



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