『詩とメルヘン』昭和48年(1973年)5月1日発行 第1巻第1号
ご覧いただきありがとうございます。
私は趣味で「やなせたかし」を研究しています。
「やなせたかし」といえば国民的パンアニメの原作者ですが、『詩とメルヘン』という雑誌を生み出した編集者でもあります。
その記念すべき第1号を運よくお譲りいただきましたので、ご紹介したいと思います。
忘れ去られてしまうのはもったいない、
知らないまま生きていくのはもったいない、
とてもステキな雑誌なのでぜひご覧ください。
表紙
表紙絵はもちろん、たかしが描いています。
暗い空と海。小島か砂丘のまんなかに1組の男女が寄り添っています。雲の切れ間から差し込む光が二人を照らしています。空には1粒の星、対岸の岬には灯台の明かり、海には白波が見えます。創刊号にしては暗い印象です。たかしはなにを表現したかったのでしょうか。
サブタイトルは「創刊☆はじめて世にでる春の号☆」
発売当時は1冊300円でした。今の感覚で言うと「安い」と思いますが、当時はどうだったのでしょうか?ご存知の方はぜひコメント欄で教えてください。
編集前記
表紙裏は編集前記です。まず、文字の大きさに驚きます。
いかがですか?
「やなせたかし」ってこういう文章を書くのか!と驚かれたかもしれません。私はこの独特の文章を「たかし節」と読んでいます。
研究対象が誰であっても調べるうちにその人「らしさ」が見えてきますが、私はこの編集前記に1番たかし「らしさ」を感じます。
全く売れなければ一号でつぶれてしまう。一万部売れれば次号が出せる。そこにきて「あなたは買いますか?」って、こんな購買意欲のあおり方があるのですね。驚きました。
「さてどうなることか?」表紙の世界は、これからの希望と不安を表現しているのかもしれません。
目次
実際には、ひとつひとつの作品にたかしのコメントとイラストがついています。また、汐見さんの「靱」という字のつくりは、正しくは「軔」です。
今度は予約をあおっています。その理由は直接購読のお願いにありました。
隙あらば売り込む姿勢、編集者の鑑ですね。
私は詩もメルヘンもほとんど読みませんが、心にグッとくる作品がたくさんありました。
野原ゆうこさんの「唄」は、続きが気になります。九生えんさんの「目覚まし時計」は実体験に基づいているのかな?クスリと笑えます。前田詩津子さんの「嫁菜」では方言で書く詩はいいなと思いました。崎南海子さんの「失恋後六十六時間目」はおもしろい発想でした。たかしの「アリスのさくらんぼ」はハラハラしながら読みました。最後の寂しい挿絵もよかったです。
櫻田のりこさんの「さみしがりやの種」はおもしろかったです。300円払って全部読みたいです。甲斐玲子さんの「明日」はよく考えると重たい内容です。山田正通さんの「もしかしたら」では、それでもいいよねと思いました。大西洋さんの「かくれんぼ」は、子供だった時に同じことを考えていたような気がします。沢田久美子さんの「悲しさ」には、母と甥が重なります。そしてたかしが描いた挿絵がとても美しい。佐々木史子さんの「ア」はリズミカルな詩で「アモーレアモーレア~♪」とふとしたときに歌っていると思います。
風の広場
ここは読者から届いたお便りを紹介するコーナーで、私はこのコーナーが一番好きです。
「住所・本名もきちんとのせたい」に驚きました。当時の読者投稿とはそういうものだったのでしょうか。それとも、『詩とメルヘン』だからこそできたのでしょうか。
男女合わせて11名のお便りが登場します。高校生が3人、大学生が1人確認できます。みなさん、これでもか!とたかしを大絶賛しています。熱いおたよりがたくさん届いてきっとはりきったことでしょう。ファンからのお便りが、『詩とメルヘン』創刊の原動力になっていたのかもしれません。
お便りには「十二の真珠」、「チリンの鈴」、「キュラキュラの血」、「風の歌」、「なみだ」、「アゴヒゲの好きな魔女」、「心の詩集」、「幸福の詩集」、「愛の詩集」、「天使の詩集」、「愛する歌」、「愛の絵本」、「やさしいライオン」、「赤い馬」、「手のひらを太陽に」、「フグジラ」、「心の中のカモメ」、「三月の花嫁」が登場しました。
編集後記
このコーナーもお楽しみのひとつです。各作品のエピソードやたかしの近況などなど、当時の様子を窺うことができます。
今回は『詩とメルヘン』創刊にあたっての熱い思いとほんの少しの迷いが綴られています。一番の動機はすばらしい新人を世におくること。いまどこの会社や組織も苦労している「後進の育成」ですね。自分にとって経済的なプラスはないにもかかわらず、行動する姿勢を私は見習いたいです。
そうそう、その通り!今こそ『詩とメルヘン』があったらいいのに…。やなせたかしがいてくれたらいいのに...と心から思います。
その代わりに、私にはnoteと文学フリマがあります。ずっと存続してほしいです。そういう場所の維持にほんの少しでもいいから役に立ちたいです。
作品募集
投稿のルールはシンプルです。
・募集する作品は詩、メルヘン、イラスト、漫画等
・必ず投稿券を同封すること
・原稿末尾には住所氏名(本名)を明記すること
既発表、未発表作品(同人雑誌、学校の文芸誌等)を問いません。
作品は一切返送されません。
冷酷な人...さて誰でしょう。
掲載されると、詩一篇三千円ぐらいいただけるそうです。私はまあまあだなと思うのですが、たかしによると「当分の間はとても安い」、「ごめんなさい」とのことです。他の詩の雑誌はもっと高かったのでしょうか?
*直接購読のお願い
毎号、払込通知書と払込票がついています。
「郵政省」の文字があります。郵便局で振り込んだのちに、払込通知書裏面の「直接購読者芳名簿」に必要事項を記入し、記載サンリオ出版部に送るという形式と思われます。
なるほど。目次の予約あおりにはこんな事情があったのですね。
投稿券 と 詩とメルヘン愛読者カード
山梨シルクセンターは1973年4月にサンリオに商号変更しました。
投稿券の裏面は社名変更のお知らせになっていました。
裏表紙裏
「The gift magazine」の下にたかしのイラスト。
よりそう男女の隣にはなんとも得意げなうさぎがいます。
背景からすると、表紙の男女にも見えますし、「アリスのさくらんぼ」の続きかもしれません。
雑誌に贈り物としての役割を持たせるってなかなか斬新ですね。ミスターギフトの辻さんとたかし、どちらの発案なのか気になります。どこかでエピソードが見つかるといいのですが。
「With Many Friendly Thought From」の文字の下に、罫線が7本。メッセージが書けるようになっています。
このメッセージ欄を有効活用したエピソードが風の広場に投稿されたことがあるのですが、それはまたの機会に。
裏表紙
裏表紙も見どころがあります。初期は、アメリカの老舗グリーティングカードメーカーHallmarkの広告です。
今回は、浜辺に座る男女が砂の上に描いたハートマークと「ILoveYou」を見つめています。
添えられたキャッチコピーがステキです。
どなたが考えたのでしょうね。
Hallmarkの便せんや封筒は今も文房具屋さんで売られていますね。
wikipediaによると1969年12月11日に日本代理店の業務を別会社から承継したようです。きっかけは何だったのでしょう。サンリオさんの手広さに驚くばかりです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
これからも定期的に『詩とメルヘン』について書いていきますので、ぜひまた遊びに来てください。
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