地獄の門閉鎖会議

トルクメニスタンでは巨大な穴が何十年も燃え続けている。大統領がその閉鎖命令を出したことを知った山田は、その穴俺が閉鎖する、そう決めた。

そこで山田は消費者金融から30万円を借金し、弱小広告代理店に人集めを依頼した。地獄の門を封鎖するアイデアを募集すると謳うwebページの文句はこうだ。

大統領からの依頼を受け、地獄の門を閉鎖します。そこで、皆様からのアイデアを募り、また、お知恵を拝借するため、会議を実施いたします。当方が採用するアイデアを発案された参加者には報酬として1億円をお支払いします。

もちろん山田に1億円などという大金を支払うような資金はない。大統領が山田の案を採用すれば、1億円支払うくらい気にならない程の報酬を得るだろうとの安易な考えによるものだ。もちろん大統領からの依頼などない。そう。山田は金が欲しかった。ただそれだけだった。これから生きていくために、金のために、地獄の門を閉鎖する。

会議当日、10名の参加者と地獄の門閉鎖会議運営事務局のメンバー、と言っても山田1人だが、計11名が都内のとあるホテルの会議室に集まることとなった。

山田は苛立っていた。開始時間の午前10時を過ぎても、3人しか来ていない。この会議室を借りる金も、もう1社の消費者金融から借りた金で賄っている。金が無駄に失われていく気がして、それが許せないのだ。

最初に部屋に入ってきたのは、薄い色のジーパン、生地も薄い、ジーパンにハンバーグのイラストのTシャツを着た小太りで少し背の低い男。山田に目をやり、無言で席に着く。次にやってきたのは、太ったおばさんだ。40代前半くらいだろう。三人目はいかにも研究者といった顔をしたジャケットを羽織った初老の男性。

今日はお集まりいただき、ありがとうございます。他の参加者の方は皆さん10時には間に合わないと聞いておりましたので、早速会議を始めたいと思います。10時を5分過ぎたところで、そう山田は切り出した。遅れるなどという話はない。

概要は募集ページに記載のとおりです。改めて説明するのも意味がないので、さっそくですが皆さんのアイデアをお聞かせください。

じゃあ私からいいですか。最初に入ってきた小太りの男だ。私は、佐々木と、言います。地獄の門については、何年も前から、地球環境を、破壊する、重大な問題だと、考えて、ました。なので、へ、私のアイデアは、何年も、温めてきた、アイデアで、ございます。むしろ、というか、もはや、アイデアで、えー、ございます。意外に流暢に話すなと山田は思った。と同時に、どうせ馬鹿げた話だろと見掛けだけで判断し、佐々木を心底見下していた。

はい、つまり、うんこをするわけで、ございます。日本から、うんこ自慢の人間を、千人集めて、地獄の門に送り込みます。

出た、うんこ!うんこだようんこ。やっぱうんこだよな。さすがだよ!山田は声を出さずに笑った。

連日連夜、千人がうんこをし続けます、はい。うんこは随時、係のものが、ゴム手袋をした状態で、おもむろに、うんこを掴んでは投げ、えー、掴んでは投げ、といったように、さて、どこに向かって投げるのか、それは、地獄の門に、投げる、と言った趣向です。

偉人が、言いました。あれはまるで、肥溜めだった、と。そう、世界の肥溜め、日本の肥溜めだと。地獄の門が、日本の肥溜めと化したのは、地獄の門の、何十年の歴史の中で、あの時、たった一度だけだと。光景が目に焼き付いている、いや、鼻に焼きていていると。ちょっと嘘つきました。鼻に焼き付いてるは私の創作です以上。佐々木は満足そうに、にやついていた。

素晴らしい。簡潔だね。佐々木君、あんた天才だ。あんたみたいな男を待ってたよ。個人的には、決まりだね。うんこで埋めよう。うんこで決めよう。俺たちで歴史を作ろう。やるからには華がないとね。華はねーか。インパクトっていうかな?まあそんな漢気を感じたね俺は。山田は、久しぶりにテンションが上がっていた。まじでこいつうんこだ。地獄の門でうんこ、地獄絵図とはこのことだ、いやむしろ、地獄のうんこだ。最高だ。

千人集めるってことだけど、佐々木君的には、どんな人を希望するとかあるの?快便がいいとか、むしろ便秘がいいとか。

あります。もちろん。みんな言うのは、質より量だと、だから快便が条件だと。でも私に言わせれば、ちゃんちゃらおかしい。量に焦点を合わせれば合わせる程、おのずと便秘が見えてくる、うんこが見えてくる。そこには溜まりに溜まったエネルギーがある。当然ですが、そこには量も伴う。つまり、爆発力と量を、兼ね備えているのが、便秘だと。私は思いますね。

なるほど深いよねー。てか、臭いよねー。うんこだけに。まあでもね、佐々木君のアイデアだけ聞いてってわけにもいかないね。じゃあ、次は、女性の方、いいですかね。

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