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第5話Part4

 広々とした階段を一段ずつ踏みしめ、登った先には大きな扉があった。ポムに言われていた通り、ここがレザンの部屋で間違いなさそうだ。

「レザン、私よ。入るわね」

 ゆららは控え目なノックをすると、小声で呼びかけて扉を開いた。部屋の中は、薄暗くはあるものの全体的に煌びやかで、まさに王室を思わせるような調度品がずらりと並んでいる。扉を隔てた先で、急に異世界に迷い込んだかのような感覚を覚え、ゆららは思わず目を見開いた。

「わぁ……凄く豪華な部屋」

 物珍しさで一通り部屋を見渡したあと、ゆららは部屋の奥にある天蓋ベッドへと足を運んだ。垂れ下がったカーテンの隙間から、遠慮がちに話しかけてみる。

「レザン、寝ているの?」
「ゆらちゃん……?」

 少しトーンは落ちているものの、概ね元気そうな声と共に、カーテンの向こうからレザンが顔をだす。安心したゆららは、ホッと息をついて目を細めた。

「あぁ、良かった。意外と元気そうね」
「もうだいぶね。調子は良くなってきたよ」
「それは、エクラ王国の本?」

 他愛無い言葉を交わしたあと、ゆららはレザンが持っている分厚い本に目を落とした。光沢のあるワインレッドの表紙に、金色の縁で彩られたその本は、一目見ただけでもこの世界のものではないと分かる。興味深そうにじっと本を見つめているゆららに気づき、レザンはゆららに本を手渡した。

「うん、小さい頃よく読んでいた本だよ」
「こんなに細かい文字の分厚い本を、小さい頃に? 私も本は読む方だったけど、レザンは凄いのね」

 パラパラとページを捲ってみても、ゆららには分からない文字の羅列が並んでいるだけだ。いつか読めるようになるかしらと文字を眺めるゆららを見て、レザンは少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「本当に幼い頃は、これくらいしか娯楽が無かったからね。友達に出会ってからだよ、年相応の遊びを知ったのは」
「友達?」
「机に写真立てがあるだろう?そこに写っている子達さ。僕が撮ったんだ」

 レザンが指さした先、そこには、部屋に入った時は気が付かなかった小さな写真立てが置いてあった。ゆっくりと近づいて中身をのぞき込むと、そこには髪の色も表情もバラバラな5人の少年少女達が写っていた。

「へぇ……あ、この子可愛い。金髪がとても綺麗ね」
「その子はソフィア。凄くおしゃれなんだ。その隣の背の高い子はリュート。真ん中の、優しい目をした女の子はエレーヌ。少しふざけた顔をしているのがミュスカ。そして……」

 右端の少女から順に写真の中の人物を追っていたゆららは、最後の少年を目にした途端、驚いたように小さく息を飲み込んだ。

「え、この人って……」
「一番に左にいるのが、ソンブル。僕の一番の親友。……ねぇゆらちゃん、君たち、僕に聞きたい事があるんじゃないの」

 後ろを向かずとも、レザンの声音が一瞬にして変わったのが分かった。自分に敵意を向けていた筈の少年は、写真の中では、まるで別人のように穏やかな顔をしていた。