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第6話プロローグPart2

 次に目覚めた時、リーラは綺麗に整頓された小さな部屋の中にいた。清潔で心地よいベッドの感触を肌に感じながら、リーラはやって来た兄が発した言葉に耳を疑った。

「お兄ちゃん、何を言ってるの? レザンたちが私たちの敵って……」
「言葉通りの意味だ。今の王族に民を総べる力は無い。あの国はもうだめだ。時期に内乱が起こり、崩壊するだろう」

リーラとソンブルが育った家は、代々王族の参謀を務める由緒正しき血筋だった。いついかなる時であっても、王家には絶対的な忠誠をと教えられてきたのだ。それに、現王太子であるレザンとソンブルは、主従関係を抜きにしたとしても、親友と呼べるくらい仲が良い。それこそ、リーラが嫉妬してしまうほどには。
 だから、兄がそんなことを言うだなんて、初めは信じられなかった。だが兄は、リーラがどれだけ苦言を述べようと、頑として表情を変えなかった。

「カプリシューズの人達は、壊れかけたあの国から、オレたちを救ってくださったんだ。……いいな?」

目付きこそ鋭いものの、根はとても優しかったはずの兄が、その時だけは心の底から怖く思えた。リーラは、ぎゅっと唇を噛み締めると、自分自身に言い聞かせるようにそっと頷いた。

「ええ、わかったわ」

その日から、リーラは王国での日々を思い出すことをやめた。

王国に伝わる神話は全て嘘。プリキュアは私たちの敵。友達だと思っていたレザンやポムも、私たちの敵。そう呟いていれば、兄やカプリシューズの人達は、リーラに笑顔を向けてくれたから。

そうしていつしか彼女は、深く考えることをやめてしまった。無垢な彼女の魂は、優しい嘘で塗り固められた心地よい闇の中に、少しずつ沈んでいくばかり。