見出し画像

第4話Part5

 りんね、ゆらら、あすな、そしてポムは、そのまま足早に門へと急ぎ始めた。残されたまつりは、ゆっくりとした足取りのレザンに歩幅を合わせながら、長く伸びた影を見つめ、何気なく尋ねる。

「ねえレザン、レザンは仲直りって、した事ある?」
「もちろん。小さい頃はしょっちゅう喧嘩していたからね」

 穏やかで冷静沈着な彼から聞くには意外な答えに、まつりは驚いてレザンの方を見る。

「へぇ、意外。レザンは優しいから全然想像つかないよ」
「こう見えて結構行動派だったんだよ?僕。いつも二人で色んな事をして、大人達を怒らせてたっけ」

 懐かしそうに、大切なものを語るようなその目は、夕焼けの遥か先へ、どこかまつりの知らないところを捉えているようだった。まつりには、彼にそんな顔をさせるほどの存在が、何故だか少し羨ましい。

「二人って、凄く仲良い子がいたんだね。その子とは今も連絡とってるの?」

 純粋な興味に、僅かに邪な気持ちを添えて、まつりは彼の内面に踏み込んでみることにした。レザンは、屈託なく首を横に振ると、不自然なほど平静に答えた。

「……ううん。2年前に遠くに行っちゃったんだ」
「引っ越しちゃったの?」
「まぁ、そんなとこだよ」

 至って特徴のない、普通の会話。彼の過去には、もしかしたらまつりが思っていたような突飛な出来事は、案外少ないのかもしれない。その事に少しだけ安堵し、まつりは普段通り前向きな言葉を発した。

「そっか……じゃあ私、レザンがもう一度その子と会えるようにお祈りするね!」
「ふふ、ありがとう。いつの間にかゆらちゃん達と距離が開いちゃったね。急ごうか」
「うん! 皆ー、ちょっと待ってー!」

 レザンも笑って、まつりを急かす。まつりは首を降ると、すっかり距離が空いた三人と一匹の元へ軽やかに駆けていった。だが、レザンはその後すぐに追いかけることはしない。ひとつになってしまった影を見つめ、絞り出すように呟いた。

「もう一度会えるように、か」

 静かな足音が、夕暮れの住宅街に響き渡った。