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第6話Part7

長く縮れた前髪のせいで、男性の表情はほぼ見えないが、それでも彼が自信に満ち溢れていることは手に取るように分かった。

「従来は、一時的に魔力の籠ったペンダントを身につけさせていましたが、それでは効率が悪い。こちらの新たな器具は、使用者の体内に埋め込むことで、魔力保持者と同等の力を発揮することができます」

鼻高々に発明品の効能を話す男性を見やり、デザストルはよく出来ましたと言わんばかりに深く相槌を打つ。脳裏に、自分を慕ってくれる金髪の女の顔が思い浮かんだ。

「あぁ、実に素晴らしいです。皆さん、ここまでよく頑張りましたね。早速持ち帰り、我社の駒で試しましょう」

その一言で、取り引きは成立した。それまで黙っていた白衣の女性は、安心したように息を吐くと、慣れた手つきで書類と器具をまとめ、デザストルに手渡した。

「デザストル様のお役に立てたこと、化学者として冥利に尽きます」

そう言って、二人は同時にまっすぐ顔をあげた。照明に照らされて見えた四つの瞳は、どれも赤黒く澱んでいて、生気を感じられなかった。

「駒が『崩壊』した際には、是非我々の身体も実験にお使いくださいませ」
「デザストル様のお役にたてるのであれば、本望でございます。またのご来訪を、心よりお待ちしております」

何の躊躇もなく自らの犠牲を願う二人を、デザストルは恍惚の表情で眺めていた。こうして、洗脳の波は、水面下で少しずつ広がっていくのであった。