第3話プロローグPart3
証明に照らされて、試験官の中の透明な液体が、徐々に血の色に染まる。その様子を見て満足気に微笑みながら、デザストルは目の前の金髪の女性に向かって口を開いた。
「モーヴェ。今日はよろしくお願いしますね」
「ええ、お任せください。プリキュアと王国の者は、見つけ次第即捕らえて参ります」
モーヴェは、自信に満ちた双眼でデザストルを捉えて頷くと、一息ついてから、少しばかり眉を寄せた。
「……ですが、デザストル様、ひとつよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょう」
モーヴェは、その生まれつきの愛らしさを利用し、胸の前で手を組んで懇願するようにデザストルを見た。一瞬だけ、デザストルの目元が引き攣る。モーヴェがそれに気づいたのか否かは定かでは無いが、この瞬間、会話の主導権は彼女に移ったと言うことだけは、双方が瞬時に理解した。
「あたし、ソンブルやデザストル様とは違ってこの星の生まれですから、魔力を持っていないの。プリキュアと戦う時、スキホーダイだけでは心許ないのです」
引き出された言葉に、デザストルはそっと安堵の息をつく。それは想定していた言葉のひとつであった。こう問われた際に答えられるよう、予め準備していたものを、手元の引き出しから取り出した。
「ああ、確かにそうですね。ではこれを」
「これは?あたし、装飾品の類いが欲しいとは一言も……」
モーヴェに手渡されたのは机の上の液体と似たような、深紅の宝石が埋め込まれたネックレスだった。怪訝そうに顔を顰めるモーヴェに、デザストルは穏やかな微笑みを崩さぬまま口を開く。
「これは装飾品ではありませんよ、モーヴェ。用途は似ていますが、魔術を扱うための道具です。ペンダント部分の赤い宝石に魔力が籠っていて、身に付けた者に力を与えるのです」
それを聞いたモーヴェは、納得したように小さく声をあげると、花の咲くような笑顔を見せた。
「まぁ、素敵! ありがとうございますわ、デザストル様!」
「ええ、とても良く似合っていますよ」
本心なのか虚構なのか、全く想像のつかないデザストルの態度。普通の者が見れば、気味悪がって退いていくだろう。しかし、モーヴェの中では、彼の奇妙さを捉える感覚は既に麻痺し、日常に溶け込んでいた。割れてしまえば、あっという間に闇に飲み込まれてしまう、薄氷のような日常に。
モーヴェとデザストルのやり取りを後ろから見ていたソンブルは、ふとそんな事を思った。