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第2話Part5

「じゃ、じゃあもうバレてるポム?」

 潜入捜査員という怪しげな響きに、ポムは若干たじろぎながら口を開いた。学校の中だけは安全だと思っていた。敵が潜んでいたなんて、知らなかった。ポムは小さくプルプルと震え出す。
 しかしレザンは、彼女を安心させるように首を振ると、ふっと視線を落として口元に手を当てた。じっと地面を見つめたまま微動打にしないその姿勢は、考え事をしながら話をする時の彼の癖だった。
 
「いや、恐らく、彼らにはプリキュアは二人、と言う情報しか伝わっていないはずだ。カプリシューズが、あいつを──ソンブルを、完全に信じきっているわけがない」

 最後の方の言葉は、少し嫌な含みを持って発声された。嘲笑気味に語尾を引いたレザンに向かって、ポムはムッと口をふくらませる。

「レザン、そう言うことは……!」
「ポム、ちゃんと聞いて」

 しかし、ポムの言おうとした言葉は、簡単にはぐらかされてしまった。レザンの台詞で口を封じられたポムは、些か気に入らないような表情を見せつつも、素直に黙った。

「それでね、大方、捜査員の素性も分かってきたんだ。相手の立場や目的を考慮すると、恐らく捜査員は学生に紛れている。……僕の推測だと、高等部2年、人数は2・3人、必ず男女両性いるだろう、と言うところまでは絞れたよ」

 自信を含む転校生・留学生・転勤してくる教師の情報は、転入前に全て調査済みだった。もし新たに学内に監視を置く場合、編入という手段しか有り得ないからである。しかし、今年度この学校に入ってきた転校生や教師達の中に、怪しげな人物は誰一人としていなかった。
 という事は、捜査員は外部から送り込まれたのではなく、元々学内にいた人物が新たにその役目を担う事で成立しているに違いない。そんな仮説を立て、転校生という立場を駆使して、様々な人々と交流し、様々な場所に出入りするうちに、彼の元には少しずつ様々な情報が入ってくるようになった。レザンは頭を常に回し続けながら得た情報をひとつずつ組みたて、ここまで辿りついたのであった。
 ポムは、その過程すら知らなかったものの、この短期間でこれだけの成果を得た彼を見て尊敬の念を抱いた。

「すごい、もうそんなに……!? はぁ……やっぱりレザンは賢いポム……」
「そんなことないよ。相手にとって都合の良いことを考えていけば良いんだ。簡単だよ」
「それが簡単にできないんだポム!」

 ポムとっては最早、それは謙遜と言うより嫌味にしか聞こえなかった。けれど、自分だって少しでも役に立つというところを見せなければならない。ポムは張り切って右手を高く空にあげた。

「ポムも、人間の姿になって、高等部に遊びにいったりして、捜査員を探すポム!」
「相手にバレないように、それから、プリキュアにも捜査員がいることはまだバラさないように、気を付けてね?」
「分かってるポム~!」

 空に突き上げた手をビシッとレザンの方に指しながら、ポムはついでに、少し前から気になっていたことを口にした。

「それより、さっき綺麗な音楽が流れてたけど、あれは何ポム?」