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第6話Part5

「その割には毎日休まず出席しているようだが……」
「うるさいなぁ。早く歩けっつーの」

二人の声がどんどん遠くなっていく。仄暗い廊下の先に消えていく足音に耳を済ませながら、リーラはぎゅっと唇をかみ締めた。

「そんなに強い勢いで叩かれては故障してしまうのだよ」
「youが口ごたえしなきゃいいだけじゃね」

言い争ってはいるものの、二人の足並みが狂うことはなく、やがてそのまま音は消えてしまった。

「何よ、仲良さそうに。私への当てつけ?あぁ、イライラするわ。せっかく自由にお外に出られるようになったのに、どうしてお兄ちゃんが一緒じゃないの? 」

外に出られるようになれば、兄と共に任務を遂行できると思っていた。それなのに、リーラだけが外へ連れ出され、兄のソンブルは留守番だなんて、ちっとも面白くない。外の暗さに比例して淀んだ色に染まった瞳が、何かを堪えるように細められた。

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ひんやりとした空気と、僅かに漂う薬品の臭い。よそよそしい空気が充満するカプリシューズのアジトで、少年ソンブルは戸惑いを隠せないといった様子で口を開いた。

「なあ、モーヴェ。デザストル様はどこだ?」

いつもなら、この時間帯には何かしらの任務を命じられているはずだった。スキホーダイを使って町を襲えと言われる日もあれば、研究の手伝いをして欲しいと言われる日もあった。休日ですら、彼の監視の影は常にソンブルを縛り付けていたというのに、このように野放しで休みを与えられるのは初めてだった。
 だが、不思議そうに首を捻るソンブルとは対照的に、長いソファに腰かけたモーヴェは退屈そうに息を漏らすだけだ。

「あら、今日はアジトにはいらっしゃらないわよ。大切なご予定があるらしいの。だからあたし達にも休日をくださったんじゃないかしら?」
「……そう、か。分かった」

せっかく休みだと言っているのに、やけに腑に落ちない様子の彼を見て、モーヴェは整った眉を器用に動かして唇をとがらせた。

「何よ。素っ気ないわね。ねえ、あんたもたまには、任務以外で外に出てみたら?」
「あぁ、そうだな。何をすればいいか分かんねえけど、気晴らしくらいにはなるかもな」

ぼうっとした様子でそう呟くと、ソンブルは瞬く間に部屋を出て行ってしまった。残されたモーヴェは、彼の不安定な背中を見つめながら、ずっと見ない振りをしてきた『心当たり』を思い出し、苦々しく顔を歪める。

「いつもは突っかかってくるのに、変な子ね。やっぱり、デザストル様の洗脳が……って、私ったら、これじゃまるでソンブルを心配しているみたいじゃない」

あの兄妹、とりわけソンブルから感じる危うさは、時折モーヴェの良心を揺さぶることがあった。けれど、彼女はデザストルに返し切れないほどの恩を与えられた身。彼への忠誠心以外には、何物にも心を捧げてはならないと、感情の奥深くが叫んでいる。

「あたしはデザストル様の為だけに生きると決めたのよ? しっかりなさい、モーヴェ」

自身に語りかけるように紡がれた言葉は、誰にも届くことなく、そっと空中に溶けていった。