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第5話Part10

 何とか全ての洗濯物を入れ終えたそのタイミングで、ぽつぽつと雨が降り出した。一度零れ落ちたそれは、瞬きをする合間にも数を増やし、雨足は次第に強くなる。

「ありゃー、降ってきちゃったか」
「何とか全部運び終わったけど、帰りはどうしよう」

 玄関の突き出た屋根の下に身を寄せて、まつりとゆららは不安そうに呟いた。スマホで天気予報を確認していたまりあは、暫くは止みそうも無いことを悟ると、咄嗟に端末を電話画面切り替えた。

「皆、傘を持ってきていませんよね。我が家から車を向かわせましょうか?」
「さ、さすがまりあ先輩……!」
「夕闇家の方にお世話になるのは申し訳ないけど、この雨じゃ、そうするしかなさそうね」
「とりあえず、今は一旦家の中に入るポム! 」

 まりあは頷くと、一旦端末をポケットにしまい、家の中へと戻ろうとした。しかしその時、彼女の歩みを制する声が、強さを増す雨の音に混じってはっきりと聞こえた。

「あら、あなた達だけ雨宿り? あたし達も入れてちょうだいよ」
「あ、あなたは……!」

 まりあの視線の先には、かつては信じて身を寄せていた女、モーヴェの姿があった。その豊かな金髪は風の動きに合わせて不気味に舞い、彼女だけが晴天の下を歩いているかの如く、その身は少しも濡れていない。

「ふふ、まりあ、久しぶりね。会いたかったわ」
「あなたにそんな事を言われる義理はありませんわ!」

 余裕気な笑みを浮かべこちらを見下ろすモーヴェを睨みつけ、まりあはぎゅっと両手を握りしめた。だが、モーヴェは少しも臆すること無く、木の陰から出てきたもう一人──ソンブルに向かって優雅に話しかける。

「まぁ、怖い顔。すっかりそっち側の人間ね。ねぇソンブル?」
「あぁ、そうだな。いつの間にかこんなに増えちまいやがった」

 敵達が段々と険しい顔つきになっていく光景を、ソンブルは実に満足そうに、口の端を歪めて見つめていた。