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第6話プロローグ『楽園』Part1

 城下の街は、見るも無残に燃え盛っていた。辺りに充満する熱を感じながら、リーラはよろよろと己の足を踏み出していく。

「お屋敷が燃えてる……あれは、私の家……?」

 紺色の屋根の大きな屋敷は、既に火だるまになっていた。その目の前で二つの人影が言い争っているのを、リーラはぼやけた視界で捉えた。

「やめろ……! どうか、妹の命だけは助けてくれ!」
「あれは、お兄ちゃん……? 必死な顔して、どうしたの?」

 蹲っている方の人影は、リーラの兄ソンブルで間違いないようだ。だが、安心したのもつかの間、彼女は兄のすぐ側に立っているのが見知らぬ青年であることに気がついた。

「では、王子の居場所を教えなさい」
「……っ! それは、出来ない」
「ならば君の妹は……」
「待ってくれ! オレじゃ駄目か……? オレは、王子と同じ質の教育を受けてきた。王子程の力は無いが、普通の人間と比べたらかなり出来は良い方だ」

 王子というのは、レザンのことだろう。話の内容は聞き取れるものの、リーラには一体彼らが何の取引をしているのか全く分からなかった。ただ、追い詰められた様子の兄と、にやりと笑う青年の間には、友好的な雰囲気は皆無だった。

「なるほど、身代わりですか。まあ良いでしょう。交渉成立ですね」

青年は、満足気に息を吐くと軽く手を合わせてにこやかに呟いた。そして、その顔を見たのを最後に、リーラの意識は少しずつ遠のいていった。

「お兄ちゃん、何の話をしているの?あの人は、一体誰……?」