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第3話Part26

 部員たちの無事を確認し終えたあすなは、そのまままつり達と別れ、夕暮れの空の中を歩いていた。

「問題もあったけど、終わりよければ全てよし。最高のコンサートになったよね」

 軽い足取りで沈む太陽を追いかける。するとその時、あすなは後ろから少女の声に呼び止められた。

「あ、あの!」
「え、あすなですか?」

 ふわりと髪をなびかせ振り返ると、そこには菫色の髪を二つのお団子に結わえた、あすなと同い歳くらいの少女が立っていた。少女はあすなの問いかけに、嬉しそうに頷く。

「はい! あなた、最初の曲の時、センターで踊っていた人ですよね?」
「はい、そうですけど……」

 困惑したあすなの様子等気にもとめず、少女は感激したように手を組んだ。長い睫毛が覆い被さった瞳が、羨望の眼差しであすなを見つめている。

「やっぱり! 私、あのステージを見て凄く感動しちゃって。とっても勇気付けられました!素敵なダンスをありがとう!」

 知らない人からかけられた、飾らない直線的な褒め言葉にあすなは一瞬たじろぐ。だが、すぐにぎこちないながらも笑顔を向けた。

「い、いえ、こちらこそ、見てくださってありがとうございました!」

 それで満足したのか、少女はあすなに手を振って去っていく。その刹那、少女の目が一瞬だけ、怪しく煌めいた。その事に、あすなは気が付かない。

「またどこかで、お会いできたらいいですね! 」

 少女は元気な声でそう言うと、夜の闇が混じり始めた路地裏へと、駆け足で消えていった。残されたあすなは、少女が去っていった道をしばらく見つめていたが、やがて進んでいた前に向き直ると、再び歩き始めた。

「不思議な子だったなぁ……。でも、知らない人から面と向かって感想言われたのは初めてだよ。へへ、嬉しいなぁ」

 いつの間にか空に昇っていた下弦の月が、あすなを照らしている。今はまだ燦々と輝いているそれは、いずれ欠けて暗闇に溶けてしまうことを、あすなはまだ知らない。