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第5話プロローグ『動き出した二人』Part1

「やっと見つけた!you、影薄すぎて困るんですけどー」

 夏の気配が近づいてくる午後。爽やかな風に吹かれながら、屋上で一人静かに佇んでいたシャグランの耳に、聞きなれた騒がしい声が届いた。振り返ると、案の定そこには不機嫌そうに口を結んだラージュの姿があった。横柄にズバズバとものを言う態度に萎縮して、シャグランは思わず彼女から目を逸らす。

「そ、それはどうしようも無くないか……我だって気にしているのだよ……。ところで、そんなに焦ってどうしたのだよ」

 これ以上自分に暴言が向かないようにと、さらりと話を受け流し本題を持ちかける。そうすれば、ラージュは先程の話題などすぐに捨ててしまうだろう。そんなシャグランの読みが当たったのか、はたまた偶然か、ラージュは瞳をきらりと輝かせて、少し得意げに口を開いた。

「いい加減コソコソ動くの飽きた。ここらで一発、me達も表舞台をブチアゲてみね?プリキュアも増えてきたし、そろそろ力も使いてー」

 手を握ったり離したりするその動作は、持て余した『力』を表しているのだろうか。つくづくタイミングが合うな、とシャグランは小さく微笑む。

「確かに、そろそろ頃合か。プリキュアと敵の首領の居所は分かっている」

 対峙すべきものに関しての準備は万全だ。しかし、今の状況では、敵よりも味方の方に気を配らねばならないことを、シャグランは誰よりも懸念していた。ノリ気なラージュを抑制するように、口元に手を当てて苦々しく呟く。

「しかし、ソンブルやモーヴェの動向は、よく見て動かなければな。一歩足並みが狂えば、途端に全てが崩壊してしまうのだよ。……正直、今のままでは、カプリシューズは危うい」

 その言葉にラージュは一瞬だけ目を見開いた。しかしすぐにため息を吐くと、ガシャリと騒々しい音を立てて、転落防止のフェンスにもたれ掛かる。

「それな。『あの人』、うちらの方がぜってー有能なのに仕事振ってこないの超ムカつくし、何考えんのかもイミフだし」
「中途採用のソンブルと魔力を持たないモーヴェでは、どう見ても我らの足元には及ばないと言うのにな」

 頷いたシャグランもまた、『あの人』に懐疑心を抱いていた。二人を生み出した張本人であり、崇め奉らなければならない、神にも等しい存在。それなのに、メモリの奥底にプツリと空いた彼への不安は、自覚したその日から一向に消えることは無い。

「meはもう、アイツらのサポート役なんかじゃない」
「我こそが、主の役に立つに相応しい存在だ」

 一方は唇をかみ締め、もう一方は眉根を寄せる。不満は時に、膨大なエネルギーを生み出す。ラージュはちらりとシャグランを見やると、おもむろにその手を取った。手は、一瞬ラージュから逃れようと反応したが、やがてゆっくりと握り返してくれた。
 大丈夫。そう言っているようだった。敵がいくら強くても、味方を信用し切れなくても、この手の先にある同体だけは裏切らない。互いにそう信じている。ラージュは唇の端を大きく引き上げると、傾きかけた太陽に向かって豪語した。

「うちら2人がサイキョーのアンドロイドだって事を、プリキュアにも、組織にも、見せつけてやる」