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第2話『憧れに手を伸ばして!空のプリキュア、キュアルシエル!』Part1

 春のあたたかな風がそよぐ午後。虹の花学園の屋上は、弁当を広げた沢山の生徒たちで賑わっている。しかし、そんな彼らの様子とは裏腹に、桜宮まつりは一人フェンスにもたれかかりながら、苦悩したように頭を抱えていた。

「えーと、つまり、エクラ王国って言う国が、私たちの戦った悪い人達にボロボロにされちゃって、その人達の次の標的が地球。その侵略から世界を守れるのは伝説の戦士プリキュアだけ……ってこと?」

 何とか状況を整理しそう呟いてみると、彼女の隣にいた藍色の髪の美少年、和泉 藍ことレザンはにっこりと笑って頷いた。どうやら、今度はきちんと彼が説明してくれた通りに飲み込めたようだ。
 軽く安堵するまつりの前で、食べ終わった弁当の包みを整えながら、汐風ゆららが補足するように口を開いた。

「そう。加えて、国を癒すことができるのもプリキュアだけだから、エクラ王国の王子様であるレザンは、国を代表してプリキュア達を探しに来たのよ」
「ふむふむ、リアル王子って事ね。それで、そのスーパーハイパー救世主のプリキュアって言うのが、私たち……?」

 未熟で大袈裟な語彙を並べ立て、まつりは自身を指さす。それを見たレザンは、思わずほぅっと大きなため息をついた。ふんわりした空気の中、自分のいる場所にだけ疲労が集まってくるような錯覚を覚えてしまう。

「そう言うこと。はぁ、長かったぁ……まつりが状況を飲み込んでくれるまでに、まさか10日も使うなんて思っても見なかったよ」

 神話に記され、伝説として語り継がれている戦士、と言うくらいなのだから、それこそ心身ともに優れた、もっと聡明な人物なのだと思っていた。その正体がまさか、頭脳では自分の足元にも及ばないような同い年の少女だったとは。些か面食らったかのような気分だった。
 そんな事を思いながら半ば遠い目をしているレザンを横目に、ゆららはそれとなく彼の考えている事を察知し苦笑した。まつりの相手は、10年近く一緒に過ごしてきたゆららでも大変だ。

「本当よね。とにかくこれで、先に進めるわね。これからどうするか、考えなきゃ」

 話題を戻そうと、ゆららはつとめて冷静に呟いた。すると、突如目の前でまつりが拍子抜けしたような滑稽な表情を浮かべ、次いで信じられないものを見るような目でこちらを凝視した。

「いやいやいやいや、これどう考えてもやばいでしょ!? 何で2人ともそんなに平然としてるの!? 地球を壊すことが可能な人たちと、普通の中学生の私たちが戦えるわけないじゃん!」

 まつりの叫びは、屋上中の生徒たちを振り向かせるのには十分すぎる程の大声だった。