見出し画像

第3話 『朗らかな微笑み!大地のプリキュア、キュアヴェール!』Part1

 放課を告げるチャイムが校内に響き渡る。掃除用具を持ちながら、その時を今か今かと待っていた生徒たちは、チャイムの音を聞くや否や、波が引くかのように一斉に教室から出ていった。
 教室に残っていたまつりとレザン──学校では和泉藍という仮名を使っている──も例になく、早々に掃除を切り上げて談笑を始めている。と、そこにパタパタと一つの足音が駆け込んで来た。

「王子せんぱーいっ! 遊びに来ましたよ~!」

 声の主は煌希あすなだった。先日新しいプリキュアとなり、まつり達の仲間になった彼女は、以前よりも馴れ馴れしい態度でレザンに近寄っていく。レザンは、そのキンと高い声に驚いて肩を揺らすと、げんなりとした顔で長い睫毛をふせた。

「あすなちゃん……その呼び方止めてって、何度言ったら分かるの……」
「あすなは呼ぶの止めても良いですけど、そうした所で多分もう止まらないと思いますよ?」
「え?」

 不安そうに首を傾げたレザンに、あすなは悪びれる様子もなく、むしろ自信ありげに胸に手を当てた。

「この呼び方、初等部の子達に広めておきましたから! 今じゃ皆王子先輩って呼んでますよ! 良かったですね、モテモテじゃないですか!」

 にっこりと笑うその顔は純粋無垢な雰囲気を醸し出していたが、騙されてはいけない。よく見ると面白そうに唇がひくついていた。レザンは大袈裟にため息を吐くと、片手で額を押さえ込んだ。

「よ、余計な事を……! その呼ばれ方をされる僕の身にもなってよ。正体がバレたかと思うと本当にひやひやするし、頭が痛いんだから」
「えっ、レザン頭痛いの? 大丈夫?」

 嘆いているレザンの横から、窓の戸締りを終えたまつりが不意に顔を覗かせた。レザンはくるりと振り返ると、手を振って苦笑してみせる。

「いや、比喩だから。平気だよ」

 その様子を見て、まつりは曇りの無い目でにかっと笑った。

「ならよかった! ところであすなちゃん、放課後に教室に来るなんて珍しいね。何か用? ……もしかして、プリキュアについてだったり?」

 きょろきょろと周りを見渡しながらこっそりと尋ねたまつりに、あすなは可笑しそうに笑いながら首を振った。

「いえ、違います。今日は部活の事で。今度の土曜日に、ダンス部がコンサートを開くんですよ」

 そう言うと、あすなは肩から下げていたポシェットから、四枚のチケットを取りだした。