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第4話Part7

 女性は、如何にも『メイドさん』と言ったような黒いワンピースと白いエプロンに身を包んでいた。屋敷の豪勢さとも相まった高尚な雰囲気に圧倒され、まつりとりんねは同時に唾を飲み込んだ。

「ひゃ、ひゃい!」
「お願いします……!」

 女性は、まつり達の様子を見て微笑むと、先頭に立って廊下を歩いて行く。やがて、一番奥の扉まで進むと、立ち止まり控えめにノックをした。

「こちらがお嬢様のお部屋です。少々お待ちくださいませ。 ……お嬢様。ご学友の皆様がいらっしゃいましたよ」
「あら、生徒会の子達かしら。お通しして」
「かしこまりました。皆様、どうぞ」

 部屋の向こうからくぐもったまりあの声が聞こえてくる。女性はまりあの声に答えると、すぐに扉を開き、まつり達に一礼をして元来た道を帰って行った。残されたまつり達は、見開かれた夕焼け色の瞳と向き合う事となった。

「いらっしゃい。……って、りんね!? 桜宮さん達も。一体どうして?」

 純粋に驚いている様子のまりあを見て、りんねは意を決して前に進み出た。俯きかけた顔をしっかりとあげて、まりあを正面から捉えた。胸の前で握っていた手は、もう震えてはいなかった。

「まりあさん、あのね、私、あなたに謝りたくて来たんです。心配かけて、誤魔化すようなことを言ってしまって、本当にごめんなさい」

 静かだけれど思いの籠った力強い声。一瞬、まりあが息を呑む音が聞こえてきた。そして、緊張を解く緩やかなため息とともに、まりあの手がりんねの肩に触れた。

「りんね……。家まで来てくれてありがとう。わたくしはもう気にしていませんわ」

 優しく語りかけるような声に、りんねは思わず顔を緩ませた。繋がりつつある心に手を伸ばし、まりあは嬉しそうに話を続ける。

「確かに不安はあったけれど、お姉様がお話を聞いてくださいましたし」
「お姉様?」
「ええ。大手企業の重役の方なのだけど、とても優しくて親しみやすい方なの。ちょうど隣のお部屋にお招きしているから、お会いになってはいかが?」

 まりあの悩みを聞いてくれたという女性の話を、りんねも興味深そうに聞いている。今まで通り、自然と他愛の無い話が出来ている二人を見て、まつりとゆららは安心したように顔を見合せた。

「良かった、いい感じにおさまりそうだね」
「そうね。二人ともすれ違っていただけだったのかも」