見出し画像

第2話Part2

 屋上にいた生徒たちが一斉に振り返るのを見て、レザンは慌てて右手でまつりの口を抑えた。

「まつり、静かに。他の人に聞こえちゃうよ」

 突然の事に驚いたのか、目をぱちぱちとさせまつりが固まる。しばらくの間そうして静止していると、やがて生徒達は興味を無くしたかのようにそれぞれの話題の輪へと戻っていった。
 誰一人こちらを見ていないのを確認してから、レザンは手を離し、声を潜めて話し始めた。

「……まぁ確かに、そのままの姿では無理だ。でも、君たちも体感しただろう? エスポワールパクトの力さえあれば、身体能力や、元から備わっていた潜在能力が桁違いにあがる」

 レザンが、ゆららの手首にキラリと光る青色の鍵を指さした。彼女が身につけているのは、エスポワールパクトを小型化したエスポワールクレと言う鍵だった。ゆららは、そっとその鍵に触れ、花見に行った日のことを回想する。

「今は鍵型──エスポワールクレにして持ち歩いてる、これの事よね。にわかには信じがたいけど、確かに運動苦手な私でも、あんなに早く走ることができたわ」

 運動音痴で足の遅いゆららだったが、あの時は確かに、自分の身とは思えないほど俊敏に体が動いた。幽霊や魔法という類のものを
あまり強くは信じられない彼女でも、科学的には証明できない力が働いていたと認めざるを得なかった。
 深く頷くゆららの横で、まつりはぱぁっと顔を輝かせてグッと拳を握った。

「そっかぁ! なら安心だ! どっからでもかかってこい、カップケーキ! あれ、なんだったっけ、カプレーゼ?」
「安直すぎ……て言うかそれ全部食べ物よ。カプリシューズでしょ」

 ゆららが、すかさずまつりの頭をぺちりと叩きツッコミを入れた。レザンはそのやり取りに思わずくすりと微笑む。関心があるのか無いのか、相変わらず見ていてひやひやする所はあるが、何故か先程のような疲労感は感じなかった。

「ああ、そうそうそれそれ。エスポワールクレさえあれば、いつでもパクトの形に戻して変身できるから安心だね!」
「そうなんだけど……くれぐれも正体がバレないように気を付けてね。まつりは危なっかしいって言うのが、出会ってから一緒に過ごしてみてよく分かったよ」

 それでも、やはり心配な部分は多くある。頭を使うような相談はゆらちゃん専門にしよう、と心の中で考えながらも、レザンはまつりに向かってよく念を押した。

「あはは、それほどでも~! ゆらちゃんにもよく言われます~!」
「いや、誉めてないから」

 再び、方向性のズレた返答と的確な指摘。少なくとも、この二人にはチームワークはあるようだった。