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第2話Part23

デザストルは、机の周りに散らばった資料を手に取りながら、呆れたように呟く。

「ソンブル君と共有している情報を駆使すれば、君達の完璧な頭脳なら分かるはずです。私はこの件にあまり時間を裂きたくない。所詮幼いお嬢さんお坊ちゃん合わせて数人でしょう? アンドロイドである君達が対処出来なくてどうします」

 まるで、心底がっかりした、と言わんばかりの口調に、ラージュは目を見開いた。生まれた頃から慣れ親しんだ、炎が燃えたぎるような感覚が全身に広がり、きつい言葉となって現れる。

「あーもう、分かったし! 小言はもうウンザリなんですけどー! やりゃ良いんでしょ! 」

 デザストルを睨みつけてそう喚き散らした後、ラージュは大きく腕を組んでシャグランの肩をどついた。

「つーか、さっきシャグランが言ったみたいに、敵の目星はついてるから、もう少しすりゃ何とかなるし。てゆーかyouはソンブルの事信用しなさすぎ。あいつがここに来てどれくらい経ったと思ってんの?」

 何故デザストルはこんなにも回りくどい事をするのだろうか。ラージュの最もな問いかけに、彼は嘲笑して首を振った。

「ラージュ。それでも彼がエクラ王国の者であることには変わり無いのですよ。相手より優位に立ちたいなら、余計な情は捨てて、疑いの目を育てることを学ばなくてはなりません」

 敵対しているエクラ王国の者は、例え傘下に入ったものでも完全に信用してはならない。これが彼の言い分であった。使える所まで使い殺して、少しでも怪しい事態が起きた場合にはすぐに切り捨てられるように、処分できるように手を回しておかなくてはね、と彼は語る。
 デザストルは、先程とはうって変わって曇りのない笑顔を見せると、そっと目を閉じた。

「ああ、しかし、ソンブル君があのように忠誠心を見せてくれる姿には感動しましたね。是非そのまま、まっすぐ育って欲しいものです」

 その言葉を最後に、デザストルは立ち上がると、奥の部屋へと消えていった。残されたシャグランとラージュは、揃って困惑の表情を浮かべる。

「はぁ? まっすぐって、どの口がそう言うワケ? ちょーウケるんですけど~!」
「しかし、主の言うことも一理あるな。昔の我と主を見ているようで微笑ましかった」

 ラージュから「シャグランはあいつの事になると全肯定botじゃん。ウケる」と絡まれたシャグランは、肩に回された彼女の腕を退けようと暫く手を動かしていたが、ふとその手を止めた。


「……いや、やはり少し違うか。昔の主はもっと……」
「どうしたの? シャグラン?」
「な、何でもないのだよ」

 その時、シャグランの頭の中では、古いメモリの片隅にある、ひとつの思い出が蘇っていた。

(昔の主はもっと……優しい笑顔の似合う、あたたかな人だったのだが、な……)