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第2話プロローグPart2

「ハイデマリー、ごめんなさいね、どうしようもない人で。手紙、読んでくださる?」

 ミルティーユはそっとハイデマリーの手元に目を落とす。ヴィナグラードに圧倒されそうになっていた彼女は、思い出したかのように慌てて手紙を広げると、小さく頷いた。

「もちろんです、ミルティーユ様。ええと、『拝啓 父上、母上、お元気ですか?

 ハイデマリーの口からするりと言葉が滑り出てくる。その声は、国王夫妻の脳裏で徐々に息子の声音へと変化していった。

『地球に辿り着いてから1週間が経ちました。何もかもが初めての事ばかりで、僕は早くもホームシックになりそうです。朝起きて、家に父上のお姿がないと、寂しくて仕方ありません』

 ハイデマリーがそこまで話終えると、目を閉じながら聞いていたヴィナグラードが不意にカッと目を見開いた。驚いてびくりと体を震わせたハイデマリーなどお構い無しに、ヴィナグラードは彼女の肩を掴む。

「えっ、そんなこと書いてあるのか!? はぁぁぁかわいそうなレザンきゅん……パパも寂しい……」

 ヴィナグラードは、演技なのか素なのか定かでない猫なで声で呟くと椅子に座り込んだ。ハイデマリーは暫く奇っ怪な国王を見つめていたが、やがて再び紙面に目を落とすと、続きに目を通した。

『なんて、書くとでも思ったか。僕の報告書の処理は母上に任せてさっさと執務に集中してください。どうせ僕の報告書が届くからって言ってまた会議サボったんだろ』

 時間差があるはずなのに、見事に言い当てられている。ハイデマリーは、レザンの洞察力に感心すると共に、吹き出しそうになる口元を抑えて必死に笑いをこらえた。

「えっ、バレてる!?!? 本当にそんなこと書いてあるのか!?!?!?」

 当然のように取り乱すヴィナグラードを見て、ミルティーユとハイデマリーは敢えて平静を装って頷いた。

「あるわね」
「ありますね」

 二人の言葉を聞き、自分でも手紙の内容を確認したヴィナグラードは、先程までの喧騒はどこへやら、急に静かになってしまった。