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第2話Part9

「頑張りやさんのあすなちゃんなら、きっと誰にも負けないくらい上手に踊れるよ!」

 まつりはあすなの両手をとって、力を込めながらにっこりと微笑んだ。あすなは少し照れくさそうにはにかみながらも、返事をしようとした。

「本当ですか!?あすな嬉し……」

 その時だった。まつり達がやってきた方向とは反対側の道から、二人の女子生徒がやってきた。二人は、あすなを見つけるや否や、こちらにも分かるように露骨に顔を顰めた。

「あ、ねぇ、あれあすなちゃんだよね?」
「ほんとだー。選抜選ばれたってのに、まだ自主練してんの? あたしらへの当て付け? なんかやな感じ」

 わざとこちらに聞こえるような大声で、彼女たちは話を続けながらこちらに向かってくる。繋いでいたはずのあすなの手が、力なく垂れ下がったのを見て、まつりとゆららは顔を強ばらせて女子生徒たちに視線を向けた。

「ねー!うちら、あの子のせいで落とされたって言っても良いのに。て言うか、全員にチャンスがあるとか言う言葉真に受けちゃってさ。あれ、いくらうまくても、普通は初等部は空気読むよね?」
「ほんと。あすなちゃん周り見えてないって言うか、自己中心的って言うか「私できます」アピール強いよね」

 そんな事ない、思わず口走りそうになって、まつりは息を呑んだ。あすなの真っ直ぐな努力を、そんな風に歪んだ見方で捉えるだなんて。まつりは眉を寄せて、静かにあすなに尋ねた。

「あすなちゃん、あの人たちって……」

 問いかけられたあすなは、ハッと顔を上げると、取り繕ったような笑顔で手を振った。

「き、気にしないでください! ああいうこと言う人もいますけど、殆どの先輩は優しいですし、あ、あすな、確かにアピールしちゃうとこあるし、先輩方の言うことも正論かなぁって……」

 消え入りそうな声で紡がれたその言葉は、痛々しい程に彼女達の内情を表していた。傍から見てもすぐに分かるくらい、あすなの表情は引きつっている。ゆららは、固く拳を握りしめると、いつもより荒い口調で呟いた。

「あすな、いくら先輩だからって、無理してそんなこと言う必要無いわ。あの人たちに私が一言言ってくる」