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第5話Part5

 レザンが昔撮った写真に、ソンブルの姿が写っていた。それが何を意味しているのか、ゆららはまだ直視することが出来ない。レザンに背を向けたまま、嫌な思考を空気と共に吐き出す。

「ええ、あったわ。でも、今は別の事が聞きたい。あなた、ソンブルと裏で通じていたの?」
「まさか、違うさ。僕はずっと君たちの味方だよ」

 落ち着いているようでどことなく焦ったような含みも感じさせる声に、ゆららはひとまず息を吐く。言葉の雰囲気からして、レザンは嘘をついているわけでは無さそうだ。案の定、振り返った時に見えた彼の顔は、少しだけ気まずそうに笑顔の形を作っていた。ゆららがもう疑っていないとわかると、レザンはわずかに目を伏せて、絞り出すように呟く。

「でも、ソンブルの事も改心させたいと思っている」

 悔しげなその声に、ゆららは黙ったまま眉根を寄せる。レザンの気持ちが、何となくだが理解出来るような気がした。恐らく二人は仲の良い友人同士だったのだろう。そして
レザンにとって、ソンブルは今も大切な存在であり続けている。けれど、二人は敵対しなくてはならなくなってしまった。一体何が原因でそうなったのかは分からないが、その事実が、ゆららの心には痛いほどに突き刺さった。

「……そう。この事は、私たちだけの秘密にしましょう。特にまつりには言わない方がいいわ」
「どうして?」
「あの子は優しすぎるから。きっと、ソンブルがレザンの友達だって知ったら、一切攻撃ができなくなってしまう」

 それは、逆に言えば、ゆらら自身は容赦等しないと告げているようなものだった。彼女の心の底にある覚悟を理解したのか、レザンは真剣な表情で深く頷いた。

「確かに、そうだね。まつりはそう言う子だ。じゃあ、この話はもう終わり。君が本当に聞きたかった事は、何?」
「まりあ先輩が、変身できなかった理由よ。まりあ先輩は、パクトに触れた時、お屋敷が燃えていく幻覚を見て、男の子の泣き声を聞いたんですって。その時、あなたも先輩と一緒にパクトに触れていたわよね。ねぇレザン、何か心当たりは無い?」

 本題に入れば、澱みなくするすると言葉が出てくる。ゆららの話をじっと聞いていたレザンは、あきらめにも似たような苦笑を見せた。

「それは、間違いなく僕だね。身に覚えがあるよ。……思い出したくもないけど」
「話したくない事だったら、話さなくていいの。ごめんなさい」

 いつもの彼らしくない、消極的な態度に、ゆららは慌てて言葉を返す。だが、レザンは彼女の提案を丁寧に断り、自ら口を開いた。

「いや、良いんだ。僕がパクトに触れていた事が、まりあさんの変身を阻害した原因の一部である事は間違いない」

 息を深く吸う音だけが、二人の間に流れる。窓の外から差し込む陽に反射し、彼の瞳が蒼く光った。

「エスポワールパクトはね『プリキュア』の主である僕と、君たち戦士の心を繋げているものなんだ」