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第4話プロローグPart3

 無機質なコンピュータが点在とする部屋に、似つかわぬ晴れやかな声が響く。

「ある少女をこちらに取り込んだのですか? それは良い。やはり君にお願いして正解でしたよ、モーヴェ。そのまま次の任務もよろしくお願いします。期待していますよ」

 受話器を耳に押し当てながら、デザストルは人の良さそうな笑顔でにっこりと微笑んだ。いつもの彼からは想像もつかぬような、優しげな笑みであった。電話口からは、これまた嬉しそうな女性──モーヴェの声がすらりと流れ込んでくる。

「はい、デザストル様♪ 全てこのあたしにお任せ下さい」

 互いに不気味なほど弾んだ声で通話を切ると、デザストルはスッと目を細めた。重たい扉の向こうにいる、何も知らない少年を思って、嘲笑するように唇を上げた。

「さて、ではソンブル君の所に戻りますかね。そろそろ洗脳が解ける頃かもしれませんから」

 軽やかに立ち上がり、幾つかの薬品を手にした後、デザストルは扉に手をかけた。と、彼の脳裏に、ある記憶がよみがえってくる。今は従順な少年が、デザストルが従順に『させている』が、初めて彼に向かって刃向かった、あの時を。


「あいつはお前らなんかに屈しない! 俺が倒れても、世界が滅んでも、あいつだけは、絶対に希望を捨てたりはしない!」


 人と言うものは、ここまで人を信じることが出来るのか。奇妙なものを見たような顔で、デザストルは眉を顰める。そんな感情は、至極邪魔だ。そう思った。

「愛情をまとった執着ほど、己が身を滅ぼすものは無いというのに。彼らは本当に愚かですね」