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第2話Part8

 まつりが近くまで行くと、あすなが何をしているのか良く見えてきた。彼女は、口でリズムをとりながら、一心不乱にステップを踏んでいる。まつりが呼んでも一向に気づく気配がない。

「1、2、3、4……」
「あすなちゃんったら!」

 少し大きな声で話しかけてみる。しかし、あすなは余程集中しているのか、動く足を止めようとはしない。

「5、6、7、8……」
「あーすーなーちゃーん!!」

 まつりの行為は、声をかけると言うよりは、もう『耳元で叫ぶ』に近かった。しかし、それくらいの音量でちょうど良かったらしい。あすなは大きく肩を揺らして「ぬおっ!?」と奇妙な声を上げた。振り返り、声の主がまつりだと分かると、安堵したような、はたまた若干馬鹿にしたような顔つきで息を吐く。

「なんだ、まつり先輩じゃないですか。急に大声出さないでくださいよ~!」
「違うよー、何回も呼んだのにあすなちゃんが気づいてくれなかったんでしょ!」

 まつりが不満げにそう言うと、あすなはきょとんと首をかしげ、それから素直に頭を下げた。

「へ? そうですか? それは失礼しました」

 律儀な彼女の態度に、追いついたゆららはなんとも言えない表情をする。そして、悪びれる様子もないまつりをじろりと睨んだ。

「こちらこそ、まつりが練習中に声をかけてごめんね。折角集中してたのに」
「うっ、睨まないでよゆらちゃん……私こそごめんね~!」

 手を合わせて大仰に謝るまつりを見て、あすなは屈託のない笑顔を見せた。

「いえ、ちょうど息抜きしたいと思っていたところで大丈夫です。それより、お二人とも聞いてくださいよ! あすな、今度のダンス大会の、選抜メンバーに選ばれたんです! 初等部では、あすなたった一人なんですよ!」

 ぐっと両手でガッツポーズを決め、あすなは心底嬉しそうにそう語った。まるで幸せを体で表現してるようなその様子に、まつりも思わず笑顔になる。

「そうなの!? おめでと~!大会、絶対見に行くね!」
「昔から、人一倍ダンス頑張ってたものね。もう一人前なんじゃないの?」
「えへへ~! ありがとうございます!」

 二人が声をかけると、あすなは笑顔のまま礼を言う。しかしその後『一人前』という言葉だけは丁寧に否定した。

「でも、まだまだなんです。憧れの先輩方には、まだまだ届かなくって……本番までに少しでもいいパフォーマンスができるように、練習してたんです」

 既に目標に到達したにも関わらず、決して驕ることなく更に高みを目指して努力する。そんな彼女の真摯な姿勢に、まつりは感嘆の声を上げた。

「うへぇ、凄いなぁ!」