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第3話プロローグ『大人達の時間』Part1

 神々の白い像が立ち並ぶ、幻想的な大聖堂の中。ノルベールはそこに一人、ぼうっと佇んでいた。もし、この世に本当に神々が御座すのならば、自分は神々から見捨てられた存在なのだろうか、と考えながら。
 ふと、重たい音を立てて大聖堂の扉が開く。ノルベールが振り返ると、そこには彼の盟友でありこの国の国王である男、ヴィナグラードが立っていた。いつもの如く、自信に満ち溢れた目をしたその男は、陰りのある自分とは何と違う事だろう。

「ノルベール? お前ここにいたのか。もうすぐ会議が始まるぞ」
「ヴィナグラード。ああ、今行くよ」

 呟くように声を漏らすと、ヴィナグラードは「む?」と怪訝そうな顔をして、大股でノルベールに近寄りその肩を叩いた。

「はぁ、いくら周りに人が居ないとはいえ……国王と呼ばぬか、馬鹿」
「別に良いだろう、誰も居ないのだから」

 不愉快そうにこう述べる男を適当にあしらっても許されるのは、私以外には居ないだろうな。心に湧き上がる優越感と共に、ノルベールは若い頃のようにヴィナグラードを小突く。そして、周りに誰もいない事を確認すると、彼の耳元でそっと囁いた。

「それより、今回の便りはどうだった? 私の子ども達についての情報はあったのか?」

 子ども達。ノルベールには息子と娘が居る。二年前の襲撃で行方不明になって以来、消息を絶ってしまった子ども達が。
 目付きが悪く、表情が読み取りづらい顔をしてはいるが、彼が今でも必死になって我が子の行方を追っている事を、ヴィナグラードは知っている。それ故に、首を横に振る事しかできないのがもどかしかった。

「いや、無い。『頻繁に敵と接触することにはなったが、プリキュアも増えたのでエスポワールパクトは守れている』と言うような事しか書かれていなかった」

 ヴィナグラードはそこで言葉を切ると、ふざけるようにわざと悲しそうな顔をしてみせる。

「私の体調を心配する言葉など、書かれていなかった……」

 彼の気遣いが伝わったのだろう、ノルベールはくすりと笑うと、ヴィナグラードを貶すかのようにその背を叩く。

「報告書に書けることは限られているからな。レザン様の判断は賢明だろう。お前の体調など、今は正直どうでも良い」
「ノルベール!? それは酷くないか!?」

 どうやら本当にショックだったようだ。ヴィナグラードは、会議前だと言うのに落胆を隠せていない顔でしょげてしまっている。全く、いつまでも子どもみたいな王様である。ノルベールは無邪気な友の姿に少しだけ微笑むと、そっと床に視線を落とした。

「はぁ、冗談に決まっているだろうが。それはそうと、敵と接触しても私の子ども達の情報は無いのだな。……もう、諦めた方が良いのだろうか」

 思わず口に出してしまった本音が、聖堂中に響き渡る。その声に、ヴィナグラードはハッと顔を上げ、勢いよくノルベールの肩を掴んだ。