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第6話『対の機械人形、月下に輝く少女』Part1

「えーと、1年B組は……ここだ!」
「ちょっと、ほんとに行く気? 怖がられても知らないからね」

ある日の放課後。まつりとゆららは、中等部1年の教室へと足を運んだ。クラスメイトたちから聞いた、噂の美少女転校生を一目見に行く為である。呆れたような表情のゆららとは対照的に、乗り気なまつりは意気揚々と教室の扉に手をかける。

「大丈夫だよ。絶対お友達になれるって! そんな気がするんだ!」
「はぁ……まつりはいつも勘だけで突っ走るんだから。まあ、そこが良いところでもあるんだけどね」

純粋無垢な彼女の笑顔を見ていると、多少のことはどうでも良くみえてしまう。自分も案外絆されやすいなと思いながら、ゆららも教室の中へと入っていった。
 目の前のまつりは、まばらに人が残った教室内をきょろきょろと見渡していたが、やがて窓際の後ろに焦点を定めると、にこりと微笑んだ。

「転校生の子は~……いたいた。窓際に座ってる子だね。うわぁ、美人だなぁ。って、あれ?
「どうしたの、まつり?」
「横にいるのってもしかして、あすなちゃん!?」

まつりの声に反応するように、窓際にいた小さな背中が振り返る。ふわふわのくせ毛と大きくて丸い瞳、そこには、煌希あすなの姿があった。あすなは、驚いてこちらを凝視する二人を見つけると、きゅっと目を細めて大きく手を振った。

「まつり先輩、ゆらら先輩、こんにちはっ!」
「どうしてあすながここに?」

あすなの後ろには、転校生と思わしき綺麗な少女がいる。おそらく、今の今まで二人で談笑でもしていたのだろう。あすなと彼女が元々の知り合いであることは明白だった。

「この子、みづきちゃんとは、実は前に何回か会っていて。あすなのお友達なんです!」
「そうだったんだあ!」

意外な繋がりに、まつりは感嘆のため息をつく。転校生の少女は、そんな彼女に向かってそっと頷いて見せた。

「ええ。あすなは私にとても優しくしてくれたの。あなた達が、あすなが言ってた先輩ね。私は紫音みづき。よろしくお願いします」

手入れの行き届いた菫色の髪に、銀色の切れ長の瞳、透き通るような白い肌。そこに小鳥のさえずりのような声が加わった彼女の姿は、とても同年代の少女とは思えないほどに美しく、神々しかった。

「年下だけど、まつりよりしっかりした子ね」
「うっ、確かに……」

茶々を入れるように呟きながらも、二人はすぐにこの真っ直ぐでしとやかな彼女の事を気に入った。

「私は桜宮まつりって言うんだ。よろしくね!」
「私は汐風ゆららよ」

それぞれが手を差し出すと、少女──みづきは、そこで初めて年相応の無邪気な微笑みをみせてくれたのだった。